参議院改革試案−無知な国民が国を滅ぼす!

東京都文京区 松井 孝司

 民主主義国家の最大の難点は無知な国民でも主権を行使できるため衆愚政治に陥りやすいことである。無知な国民とは問題解決に必要な知識を持たないか、または偏った知識を持ち感性だけで行動する先見力のない人達だ。

古代ローマが滅亡したのは権力者から無償で与えられる「パン(=食糧)」と「サーカス(=娯楽)」によって政治的盲目状態に置かれた無知な市民に因るとされ、「パンとサーカス」はポピュリズム、衆愚政治の例えとしてしばしば用いられている言葉である。しかし、滅亡の真の原因は権力を行使する側の人間にある。

日本の明治維新が成功したのは権力を奪取した政府が視野の狭い鎖国攘夷論者を排除し無知な国民には権力を与えず、参議となった佐賀藩出身の江藤新平や大隈重信が賢明な政策を立案し実施できたからだ。

明治維新における重要な改革は岩倉具視一行が大挙欧米を視察中の明治4年から6年の3年間に集中している。重要閣僚であった木戸孝允、大久保利通や伊藤博文らが不在の間に江藤と大隈が改革を断行したのである。

江藤による教育、司法改革、大隈による外交、金融、財政改革が無ければ日本の近代化は短期間に達成できなかったに違いない。

江藤と大隈は意見が合わなかったが、無私無欲の西郷隆盛が両者の上に立って調停したのだろう。その証拠に岩倉一行が帰国した後、江藤と大隈は明治政府内で征韓論をめぐる論争で対立し佐賀の乱の遠因となった。

少人数の賢者による即断がなければ明治政府は何も決められず混迷はつづいたのではなかろうか?国民のためには小さくて決断が早い賢明な政府の存在こそ望ましいのだ。

 民主党が政権交代を実現させたのは国民に迎合したポピュリズム政策によるもので、「脱官僚」「政治主導」など官僚を叩く言葉で国民大衆の喝采を浴び多くの当選者を出しながらマニフェストでの約束を実現できず、逆に官僚に敗北したと批判されることが多い。

 読売新聞社主の渡部恒雄氏は「反ポピュリズム論」の中で「改革なくして成長なし」、「自民党をぶっ壊す」と叫んで大勝した小泉氏の政治スタイルもポピュリズム、ワンフレーズ・ポリティクスであり、最近注目されている大阪市長の橋本徹氏もテレビ・インターネットを活用して大衆迎合政策を増大させるポピュリズム政治であると批判している。

 政策を即決するために憲法を改正して参議院を無くし一院制にして衆参両院のねじれを無くそうとする提案も出されているが、ねじれを無くすことより賢明な政治を実現することが重要であり良識の府、参議院を復権させるべきだ。

 大衆に迎合する衆愚政治が財政破綻をもたらし日本を衰退に導くことは確かであり、良識の府を実現させる具体策が必要だ。

 参議院が衆議院のコピーで両院議員の質と役割が同じでは、存在価値はない。人数が多くなると質が悪くなり決断も遅くなるので参議院議員の定数と選出方法を変える必要がある。例えば議員候補者の政党からの拘束を無くして選出地域を拡大し、立候補資格を厳しく審査し企業経営に成功した人の実績や学識経験者の論文を検証するなど、候補者の実績、論文を審査して立候補の条件とするのだ。

立法関連業務の役割分担も重要であり、政策の立案、監視(Plan&Check)は有識者が集う参議院が、政策の決定、執行(Do&Action)は国民への影響力の大きい衆議院の担当とする。

参議院には明治政府で江藤が担当した教育と司法を、衆議院には大隈が担当した外交、金融財政などの行政を執行する部署とすることを提案したい。立候補に条件を付けず衆愚の府となりがちな衆議院を教育の担当としないことが重要である。衆愚の原因は教育にあり、参議院は衆愚政治から国民を守る砦となることを期待するからである。

愚かな国家権力に教育を託すことほど危険なことはない。国民は権力者に洗脳されやすいからだ。戦前の日本、現在の中華人民共和国にその実例をみることができる。国民にとって教育の自由ほど大切なものはないことを認識すべきだ。

 「反」のつく運動を展開する人たちは感性だけで行動することが多く、間違った知識で洗脳されると暴走する。

中国の「反日」、日本国内の「反中」運動が激突すれば戦争は避けられないだろう。

原発の安全管理など規制を任務とする監視業務には正しく偏見のない知識が不可欠であり、監視機関を賢者の集団となる参議院傘下の部局とするのも一案である。

「反原発」運動に応えて原発を直ちにゼロにすればエネルギーコストの増大で日本企業の競争力が低下し、電力会社は膨大な不良資産を抱えることになり日本経済に取り返すことのできない損失をもたらすことになる。原発を安全に再稼働しプルトニウムを含む核廃棄物をエネルギー資源として再利用する知識と知恵が求められるのだ。

現行の軽水炉型原発は制御棒を上下させて稼動を停止させる仕組みになっているが、現行の原発システムでは事故への対応が難しい。原子炉は「化学反応装置」であり、地震の最中に炉心を物理的に制御することは間違っているし、地震で配管が傷めば炉心の水位が下がり、露出する核燃料棒に使用される高温のジルコニウムが水と反応すれば水素が発生し水素爆発の危険性が高くなる。福島第一原発の事故は水素爆発さえ無ければ放射性物質を遠くまで飛散させる大災害にはならなかっただろう。地震、津波と化学の知識が乏しい人物が炉心を設計したことが事故の原因となったのだ。

日本以外の多くの国が核兵器を所有するのが現実の世界であり、核戦争の危険性はゼロではない。原発ゼロではなく核兵器をエネルギー資源に変え燃焼、消滅させることが望ましい。

先見力を持たない多くの動物が絶滅したように正しい知識を持たない国民が感性だけで行動すれば国家は崩壊する。正しい知識で先見力を発揮し、いち早く国家の危機を予知して政策をたてることが参議院の重要な役割であり、偏見のない自由な教育で大多数の国民が賢者となることを期待したい。