原子力発電は環境と健康を破壊し経済も破壊する有害なエネルギーです

〜原発ムラはそのことを熟知しているので不都合な情報は隠蔽し私益を優先〜

埼玉県所沢市 河登 一郎

 

福島原発大事故は、発生して2年半強経過してまだ収束の見込みは立っていません。除染や汚染水処理はもとより、地震や竜巻による大災害再発の可能性も無視できぬまま、巨額の補償も未解決、「原発難民」の帰宅の予定さえ立っていません。

○「原子力ムラ」という強力な利権集団は、8電力・日本原電・原燃・政治家・官僚・産業界・銀行・労働組合・学会・メディアなど原発で潤う一部のグループで構成されており、原発に関する専門家が多いだけに原発の危険もコスト高も熟知しています。だからこそ、原発批判派や慎重派を排除した「…委員会」「…審議会」で不都合な情報は隠蔽・改ざんし、巨額の血税を使って公益より私益を優先しています。民主党政権の自壊という「敵失」で政権復帰した自民党の下で原発再稼働・新設を進めています。

再稼働を正当化する「リクツ」はいくつかありますが、正確に分析すればいずれも根拠薄弱です。以下、項目を分けて要点を整理しました。

 

1.事故は必ず起こる;確率は低くても万一の場合の被害がけた外れに大きい:

(1)天災は必ず起こります。特に日本の場合、大地震・台風・竜巻など「想定外」の規模や態様を伴う深刻な事故が繰り返して起こり得ることに説明の必要はないでしょう。

(2)人災も必ず起こります。日本の工業技術が諸外国と比較して優秀で安全であることは事実ですが、その日本でさえ、過去何十回もの原発事故が発生しています。多数の負傷者や死者も出ています。その多くは電力会社の体質で徹底的に隠蔽/改ざんされ;公表する場合も一部だけ;公表を意識的に遅らせる;「事故」ではなく「事象」と発表するなど、国民は正確な実態を知らされていません。

(3)福島大事故は、2年半経っても真因不明除染・汚染水処理・補償・避難者対策を含めて殆ど未解決です。地震や竜巻で大災害再発の可能性は残っています。野田首相が根拠なしに出した「収束宣言」は撤回すべきです。

(4)想像したくはないけれど、精神異常者やテロリストによる意図された破壊行動はありうることです。国際紛争が原因で原発が直接攻撃される可能性もゼロではありません。

(5)原発を輸出すれば少しは儲かるでしょうが、万一大事故が発生した場合(トルコは大地震国)契約上は免責でも日本の責任は免れないでしょう。最終的には国民が負担することになります。

(6)原発以外の発電設備でも事故は起こりますが、万一の場合の被害の大きさは原発が桁外れであることは云うまでもありません。お金に換算できない被害を無視できる人間に経済や政治を語る資格はありません。

 

2.電力供給力には余裕あり;節電・省電にも工夫の余地は大きい:

(1)3.11後、電力各社の供給努力と産業界及び国民の節電努力で直後の混乱を除いて原発なしで(充分)対応できました。猛暑の今夏でも大飯原発は不要でした。

(2)電力料金体系を「使うほど割高」にし、且つ年間数時間のピーク時料金を更に割高にする/コジェネの活用などの工夫で消費者の合理的節電努力を促せば更に大量の節電が可能です。国民の省エネ・節電意識も進んでいます。

(3)再生可能エネルギーも、固定価格買取制度が施行されてから急速に進んでいます。太陽光発電は、小型家庭用・企業/自治体のメガソーラーとも急激に増えており、洋上風力と地熱発電は安定電源として想像以上の供給力が期待されます。太陽熱やバイオの熱利用の潜在的可能性も巨大です。原料は無限且つ全量国産;小規模で地産地消型ですから環境にやさしく雇用を生みます。当面コスト高ですが普及と技術革新でコストは下がります。原発リスクとは比較になりません。

(4)化石燃料による火力発電も、工場の自家発電を含めて増えています。飛躍的な技術進歩で石炭火力のCO2 排出量も減少しています。

(5)全電力会社が協力して日本全国をカバーする電力広域融通制度を確立すべきです。EUではあの広い全域で電力を融通し合っています。そうなれば、北電などによる再生可能エネルギー受け入れ拒否は少なくなります。

(6)電力システム改革を断行すれば、小売自由化と発送電分離によって競争原理が導入され、供給源の多様化と分散化、コストダウン及び選択の自由が実現します。

 

3.発電コスト: 原発は危険な上にコストが高い

○原発のコストは、以下のように4つの段階でそれぞれ巨額の経費がかかっています。この中には電気料金に含まれているものもありますが、このほかにもいろいろな名目の税金として国民や企業が負担しており、放射性廃棄物のように処理方法が分からないので正確に計算できないコストもあるのです。「原発コスト」は電気代だけでなく、関連諸税を含めた国民負担全額と考えるべきです。数字を入れた議論は非常に長くなりますし、私は専門家ではありませんので、以下は要点のみ整理しました。

(1)発電までのコスト:

@発電施設一式(減価償却費)、燃料費(ウランの輸入・転換・濃縮など)、操業費、管理費などです。営業費の中には、巨額の広告宣伝費や政治家・業界団体・受入自治体への寄付金も含まれます。

A悪名高い「総括原価方式」では、上記諸コストの他に「事業報酬」としてレートベース(特定施設等)*3%が電力料金に算入されます。大型設備を造ればその分自動的に収益が増える仕組みです。

(2)バックエンドコスト:

  @他産業と異なって、原発の場合は使用済核燃料の再処理コスト、放射性廃棄物の最終処理・処分コストが必要です。いずれも巨額の経費が長期間続きます。

  A再処理に関しては、1970年代から悪名高い「もんじゅ」に毎年兆円単位の経費をかけてきましたが、トラブル続きで未だに実現していません。現在では2050年稼働目標と云われていますが、見込みはないと思います。放射性廃棄物の最終処理は方法も分かっていない、原発はトイレのないマンションに例えられます。フィンランドでは10万年先まで安全な地下岩窟に入れています。

  B廃炉や原発の解体にも数十年の期間と巨費がかかります。政府が行なった再処理を含む「低目」の試算でも、19兆円弱という試算結果が出ていますが、算入されていない経費や不明なコストも多く本当にいくらかかるかは不明!です。

(3)政策コスト:

@使用済核燃料の再処理に関する研究開発コストや、原発誘致・受入自治体への交付金・寄付金などの間接費用も巨額です。

A1970年代から現在まで、一般会計エネルギー予算の97%と電源特別会計の70%弱は原子力に使われており、補助金がジャブジャブと使われてきました。

(4)事故費用:

@万一事故が生じた場合の損害賠償・除染・汚染水処理を含む原状回復費用は天文学的な数字になります。

A今回の事故について東電では処理しきれず、政府が国民の血税を使って支援することになりました。東電負担は大幅に減ります。

Bもちろん、大事故の発生頻度は非常に小さいですが、小規模の事故は(隠蔽されていますが)頻発していますし、万一の場合の損害が超巨額になるため、有効な保険がありません。保険が一部しかかからないほど危険な事業なのです。

(5)以上を総括して、「原発コストは安い」は虚偽の前提に基づく「作られた神話」であって、正確なコスト計算さえできないゾンビのような事業です。独占企業には効率的な事業経営が期待できないことは経済政策の初歩で、政府が税金で支援するという異常な条件の下でのみ存立できる市場経済の下では成立しえない事業です。権力と癒着が公正たるべき政策を歪めている典型例です。

 

4.原発は環境破壊の最たる事業です:

(1)原発の「発電段階」でのCO2排出量が小さいことは事実です。原発ムラではこの点だけで「クリーンエネルギー」とPRしていますが、環境影響は事業の1段階だけでの判断ではなく、ライフサイクルで評価しなければ意味がありません。

(2)原発の建設には早くて10年以上かかりますので、その間の開発・輸送・加工・建設及び、廃炉・最終処分までの数十年に渉る諸段階で排出するCO2は膨大です。

(3)発電中の高熱を冷却するために大量の熱水が原発周辺の海を汚染していることもCO2以外の「温暖化」の原因です。

(4)使用済放射性廃棄物がどんどん増える一方、処分する場所がないので!「再処理」という名目で六ヶ所村に運んでいます。ここもいずれ満杯になります。

 

5.東電は破産処理;電力システム改革による小売自由化と発送電分離は喫緊です:

(1)大事故を起こした東電は既に自力救済はできないため、国が支援することになりましたが、国民の血税が東電に「与えられる」ので東電は黒字体質が温存されるという信じられない状況になっています。

(2)本来なら、国民負担の前に、通常の会社の場合と同様、東電は破産処理で膨大な資産は売却し、株主・貸手金融機関・その他債権者も応分の負担をした上で、それでも不足する分のみ国民負担をお願いするのが本来の姿です。

(3)電力事業は、今後とも必要な事業ですから、独占構造を発電・配送電・小売に分離し、それぞれ東電と独立した形の別会社で運営することが日本経済と消費者にとってベストな対応です。

(4)しかし、現実には銀行など債権者の負担は免除され、東電自身がその影響力の下で発送電を独立させる方向での検討が進んでいるようです。「親方日の丸」の原子力ムラが、独占企業のうまみを続けるために、抜本的な改革を陰に陽に妨害していることは、安倍政権の最大の汚点の一つといって良いでしょう。

 

6.原子力ムラは、その他以下のポイントをPRしていますが説得力はありません:

(1)国産比率が高い:@化石燃料が石炭・石油・天然ガスともに輸入依存度が高く、原子力は「準国産」と主張されますが、ウランも全量輸入ですし、埋蔵年数も大差ありません。Aその点では再生可能エネルギーは全量国産ですし、更にエネルギーの地産地消が可能です。B使用済核燃料の再利用が期待できないことは前述通りです。

(2)輸出可能技術の温存:@原子力発電技術は日本にとって数少ない輸出可能技術だから温存すべきと云う意見も一部で主張されていますが、A再生可能エネルギーに関する新技術の方が遥かに豊かな可能性を秘めています。ソフト面を含めて無数の新技術が開発されつつあります。洋上風力・地熱・バイオなど人類の未来が「持続可能」であるための「安定的再生可能」エネルギーです。

 

3.11は、大量生産・大量消費・電力多消費・大量廃棄を前提にした社会のあり方を、原発賛否と云う次元を超えて根本的に見直す得難いキッカケになったと思います。

20世紀型の規模の利益を目指した「中央主導/大規模集中構造」から、21世紀型の「地域分散/地産地消構造」への転換を強力に進めるべきです。

以上

 

 

後記:本小論をまとめるに当っては、関連する新聞や雑誌の他にいろいろな著作やレポートを参考にしました。特に強調したいものは以下の通りです。

ISEP(環境エネルギー政策研究所)による一連のブリーフィングペーパー・プレスリリース・年次活動報告;大島堅一著「原発のコスト」及び「原発はやはり割に合わない」;脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会編「脱原発と自然エネルギー社会のための発送電分離」及び「脱原発社会のグランドデザイン」;古賀茂明著「官僚の責任」及び「官僚を国民のために働かせる法」;ISEP編「自然エネルギー白書2012」;アレクセイ・ヤコブロフ「チェルノブイリの教訓を日本へ」;東京財団政策提言「日本の資源エネルギー政策再構築の優先課題」;CELC(クリーンエネルギーライフクラブ)編「太陽光発電」など。