河登さんの「原子力発電は有害なエネルギーです」に対するコメント

東京都文京区 松井 孝司

河登さんから「原子力発電は環境と健康を破壊し経済も破壊する有害なエネルギーです」と題する詳細な多項目の見解が表明されました。

小泉元総理も「原発即時ゼロ」を提唱され報道によれば日本国民の半数以上がこれに賛意を示し、与党内議員の一部と野党はすべて「原発ゼロ」に賛同しています。国民投票を実施すればドイツのように国策として「原発ゼロ」が決定されることは間違いありません。原子力が本当に環境と健康を破壊し経済も破壊するのであれば「原発は即時ゼロ」にすべきです。しかし、原発ゼロ政策には正しい検証が必要です。

原子力を否定する人は「火」を見て逃げる動物と変わりありません。「火」も連鎖反応で燃え広がり、「赤外線」という放射線を放出するからです。人体にとって最も危険な放射線が赤外線です。人体を構成する有機分子は赤外線を吸収しやすく大量の赤外線を浴びれば即死するからです。原発事故が放出するガンマー放射線で死亡した人は殆どゼロですが、火災事故の赤外線で死亡した人の数は数えきれません。幸いにして人類は動物とは異なり「火」の本質を解明し火の制御に成功しました。火は酸素がなければ燃え広がらないことが解明され火を恐れる必要はなくなったのです。

 20世紀の人類にとって最大の成果は原子力エネルギーの発見に成功したことです。しかし、福島の原発事故や放射性廃棄物の処理に解決策を持たない現状は人類が未だ原子力の制御に成功していないことを示しています。

 世界で最初に原爆の被害を蒙り、原発の大事故も経験した日本は世界に先駆け原子力の制御に全力を挙げて取り組むべきでしょう。原子力村の学者、関係者を批判し原発を即時ゼロにしても問題の解決にはなりません。いまだ終息していない事故を直視し目の前の問題解決に取り組めば計り知れない付加価値を生む可能性も秘めているのです。

 

原子力は環境を破壊するか?

 21世紀の人類にとって最大の難題は地球の温暖化と異常気象の防止です。石炭などの化石燃料の燃焼でCO2が増え、CO2が赤外線を吸収し地球温暖化をもたらすことはよく知られています。原子力エネルギーはCO2を出さないので地球温暖化の防止に最適のエネルギー資源であり、以下のデータが示すようにエネルギー資源の中では環境汚染による死亡者(肺上気道疾患死亡者の疫学的推定値を含む)が最も少ないのです。

1兆kwh発電する場合の死者の数

エネルギー資源        1兆kwh当たり死者

 石炭(中国)         280,000 

  石炭(世界平均)       170,000 

 石油              36,000 

 バイオマス関連         24,000 
 石炭(アメリカ)        15,000 
 天然ガス             4,000 
 水力(世界平均)         1,400 
 太陽光(屋上)            440 
 風力                 150 
 原子力                 90 

  フォーブスWebSiteより

石炭は採掘、発電の過程で多くの死傷者を出してきた有害なエネルギー資源ですが、有害なエネルギー資源でも最新の技術でリスクを低減させることは可能であり、重要視すべきは安全性を保障する発電システムです。

19世紀以後主流となった石炭、石油エネルギーは枯渇が予想される過渡的エネルギーです。化石燃料に依存する社会に持続可能性はなく将来は原子力核エネルギーが主流となることは間違いないと思われます。再生可能エネルギーとされる太陽光エネルギーも放射線であり核エネルギーであることを認識すべきです。

 

原子力は健康を破壊するか?

 原子炉が放出する大量の放射線照射が有害であることは疑問の余地はありませんが、低線量の放射線は有害とは限らずマウス、ラットなどの小動物でのX線やガンマー線の照射実験でがん抑制遺伝子p53を活性化させラジカル消去酵素SODを増やして活性酸素を消去するなど健康維持に有用と思われる効果が立証されています。

 大量照射では生物が即死する赤外線も低線量なら生体蛋白の機能維持に有用な分子シャペロンHSPが生成することが判り注目されようになりました。適度の熱刺激(温浴や鍼灸)が健康維持に有用であることを立証するものです。

最近の放射線医学はホルミシス効果と呼ばれる低線量率放射線の健康への有用な効果を続々と立証しつつあるのです。放射線のホルミシス効果を頑強に否定する反原発論者も存在しますが、原発事故を経験した日本でボランテイアを募って福島の放射線汚染地に居住し実証を試みれば低線量放射線の人での貴重な疫学データを収集することができます。ホルミシス効果の真偽は近い将来に歴史が検証するでしょう。

 化石燃料による大気汚染はCO2だけではありません。PM2.5による健康被害も憂慮されています。放射線は体内に蓄積しませんが、化学物質は体内に蓄積されることが多く化学物質による環境汚染は微量でも病気の原因になり易いのです。

原発事故を起こした福島で甲状腺に蓄積されやすい放射性ヨウ素の体内被爆が問題視されていますが、放射性ヨウ素は半減期が短く汚染量も危険閾以下のため甲状腺がんを発症することは無いと国連科学委員会は予測しています。

 

原子力は経済を破壊するか?

東電を破産させ東電の原発事故処理を政府が全額税金で行うことは賢明な策でしょうか?原発を即時ゼロにしたら日本経済は膨大な不良資産を抱えることになります。日本政府はすでに1000兆円以上の債務をかかえ300兆円の債務超過となっており、原発の事故処理に巨額の税金を投入する余裕はありません。原発の稼働停止で化石燃料の輸入が毎年4兆円も増加し、日本の富が海外に流出しています。毎年4兆円の富が国内に留まれば国民の福祉向上に大きく役立てることができます。

原発の再稼働には事故原因の究明が先とされていますが、大前研一氏は昨年「福島第一」事故報告検証プロジェクトの最終報告書を刊行され「原発再稼働最終の条件」を提示されています。既存の原発システムの安全性を再点検し事故の発生確率が低い原発は再稼働させるべきでしょう。原子力の正しい知識を持つ者でなければ正しい判断はできません。無知な国民、知的レベルが低下したマスメディアや先見力と問題解決力を欠く議員の見解にもとづき国家の政策を決めたら風評被害を拡大させるだけではなく日本経済に取り返すことができない損害をもたらすことになります。