「原発は有害なエネルギーです」批判について

埼玉県所沢市 河登 一郎

 

「原発は環境と健康を破壊し経済も破壊する有害なエネルギーです」という私見に対して、松井さんから「原子力の正しい知識を持つものでなければ正しい判断はできません。無知な国民・・・」と云う極めて厳しい評価を頂きました。

私の主張をきちんと読んだ上での反論ではなく、ざっと見てあとは持論の繰り返しでしたので批判にはなっていませんが、松井さんの場合はムラの住民として血税を貪ったわけではないでしょうから(*)、一応コメントしておきます。

 

1.最初の部分:

(1)「原発ゼロ政策には正しい検証が必要」はその通り。<原発推進政策>は正しい検証が欠如したまま、原子力複合体の利益のために多くの事実が隠蔽されたまま密室で推進されてきたのです。正しい検証は白日の下に公開すべきです。

(2)「赤外線が最も危険な放射線」という説明は、原発の危険性とは別次元の問題です。譬えにもなりません。強いて言えば、人類が原発リスクを焚火並に制御できる時代になってから利用すれば良いでしょう。人類はまだ廃棄物の捨て方さえ知らない実験室の段階です。国民をリスクにさらして利用するには100年早い。

(3)「20世紀の人類にとって最大の成果は原子力エネルギーの発見に成功したこと」は、<殺人光線>としての原爆を米国は実行、日独も発見直前だったことです。その後<平和利用>に切り替えた政策の方向は正しかったとしても<制御>できないエネルギーはまだ<最大の成果>ではありません。成果と云えば核兵器の殺傷力という<負の成果>です。

(4)「終息していない事故を直視し目の前の問題解決に取り組む」べきです。目の前の問題とは、原発事故で故郷を離れざるを得ない人たちにせめて正当な補償を行い、除染と汚染水を処理し、餓死しつつある家畜の命を全うさせることです。

 

2.原子力(発電)は環境を破壊するか:

(1)前回にも指摘しましたが、「原発がCO2を出さない」のは発電段階だけです。スタンフォード大学のJacobson教授の研究によれば、何十年もかかる原発建設から廃炉までのライフサイクルでの総排出量は、太陽光発電19~59、太陽熱発電8.511.3、風力2.87.4、地熱16.161、水力48~71、原発68~180.1g/kwh)と報告されています。  

(2)CO2とは無関係に原発からは大量の熱水が海水中に排出されます。これも環境破壊です。

(3)福島のような大事故の確率は低い筈ですが(と思いたいが地震国の日本では分からない)、万一の場合の被害が桁外れであることをもう忘れたわけではないでしょう。

(4)松井さんが引用された統計はフォーブスのサイトが出典だそうですが、この種の統計は前提をいじればいくらでもつくれるので、まともにコメントする気にもなりません。強いて言えば原発は1兆kwhもの爆発的なエネルギーを瞬時に発生させる怖いエネルギーだという統計と読めます。

(5)石油・石炭・ガスが枯渇資源であることは常識です。ウランの埋蔵年数も大同小異です。強いて言えば、(夢の)高速増殖炉が実現すれば使用可能期間は一挙に延びますが、世界中が失敗を重ねて断念した技術です。日本でも数十年単位で毎年<兆円>規模の経費を国民は負担しています。冷静に「事業仕分け」すれば即刻中止すべきバラマキです。

 

3.原子力(発電)は健康を破壊するか:

(1)「低線量の放射線は有害とは限らず」:羅列された難しい専門用語の意味は分かりませんが、云われるまでもなく低線量レントゲン照射は健康診断に欠かせませんしラジウム温泉は健康に良い。以前、ある会で元東電(技術担当)副社長・原燃社長の講演を聞いたことがあります。原発こそ救世主と云うお話を1時間した後で「私は自宅の庭にラドン温泉を作って毎日入っている。放射線は身体に良いのです」と締めくくって聴衆に冷笑されました。

(2)「ボランティアを募って福島の放射線汚染地に居住し実験を試みて貴重な疫学データ収集」に、どうぞご自身で協力してあげて下さい。

(3)「放射性ヨウ素は半減期が短く汚染量も危険閾値以下のため甲状腺がんを発症することはないと国連科学委員会」:チェルノブイリ周辺ではいまだに小児/甲状腺がんが多く、福島でも全国平均より有意に高いと報道されていました。それも「統計の取り方」でどのようにでも作れるのでしょうが、福島の若いお母さんの前でそんな無責任発言ができますか。

 

4.原子力(発電)は経済を破壊するか:

(1)「東電の事故処理を政府が全額(ではないけれど)税金で処理することは賢明な策」ではありません、と主張しました。普通の私企業のように、まず東電が厖大な資産を処分し、役員幹部が最大限責任をとり、株主・貸手・債権者がそれぞれ公正な負担をした上で(**)、最低限の負担を消費者と納税者にお願いするしかありません。

  大事故があっても税金で支援してもらえる企業には銀行も安心していくらでもお金を貸します。反面、技術的な可能性はあっても「担保」がないために融資を断られて可能性の芽が摘み取られ一家離散・自殺に追いやられた中小・零細企業が何百何千あったでしょうか。自由経済と両立しないゾンビ企業が日本経済の癌であることを知るべきです。

(2)「化石燃料の輸入が4兆円も増える」:前稿の繰り返しですが税金・研究費・誘致交付金・寄付・廃棄物処理費を含む原発全コストが、化石燃料より高いことはもはや隠せなくなりました。個人的にも・社会的にも省エネ・節電の余地が大きいことも前回触れました。

(3)全電力が保有する全ての原発を一気に廃棄償却する場合の負担が極めて大きいことは事実です。強いて言えば、寿命や活断層も含めて最も厳しい安全基準を充足した数炉に限って、予備電力として維持することはありうる選択肢かも知れません。

(4)「原子力の正しい知識を持つ専門家」は運転や事故処理に際しては必要です。3.11では経産省にも保安院にも専門家はいませんでしたが。長期的政策判断は、総合判断能力のない専門家だけにまかせてはいけないのです。ドイツでは原発政策の判断は、哲学者や弁護士など専門分野に捉われない判断能力を有する人の発言を重視しています。特に日本の場合、専門家の多くは「原子力複合体」の利権にどっぷりと浸かっているご用学者たちが圧倒的ですから、国民全体の視点ではなく「利権温存・拡大」が自己目的化しています。「良いものを安く提供する」という市場原理の長所が活かされない構造になっているのです。

 

(注*):東電では利権集団だけでなく、普通の市民運動家を「アゴアシ・日当付き」で見学旅行に招待し、良い面だけの宣伝と買収に巨費をかけていました。

(注**):私ごとですが、最も安定した株式投資と思っていた東電株を1/10の株価で処分し、自分の判断ミスの責任を取りました。年金生活者にとって厳しい経験でしたが、「複合体」では血税を使って株価つり上げに血眼です。