峯木さんの「1mSvの呪縛を乗り越えて」に対するコメント
東京都文京区 松井 孝司
峯木さんの「1mSvの呪縛を乗り越えて」の投稿に対してコメントを追加させていただきます。
1986年に旧ソ連邦で原発の大事故を起こしたチェルノブイリでは事故後1年8ヶ月で2万4000人が住める夢のニュータウン・スラブチッチ(Slavutich)を完成させたそうです。町の内側は11階建てのアパート、その外側に家族向けの庭付き1戸建が並ぶ快適な新しい街を実現させたのです。一方、日本の福島第一原発の事故は放射線汚染の規模が遥かに少ないにもかかわらず事故後2年8ヶ月経っても多くの住民が避難生活をつづけています。
この違いは何にもとづくものでしょうか?メディアが煽った放射線に対する恐怖と「反原発」運動のうねりを前にして最新の知識を持つ多くの研究者が御用学者の批判を恐れ沈黙したことが問題の解決を遅らせたことは間違いありません。
20世紀の初頭に遺伝学者ハーマン・J・マラーはショウジョウバエの精子細胞の実験から放射線の影響は少量でも蓄積し修復されないことを発見し1946年にノーベル医学生理学賞を受賞しましたがその論文の影響が今なお健在なのです。
放射線の影響が1mSvになるまで除染するには5兆円以上の巨額の費用が必要と試算されています。巨額の経費を除染に使わずに新しい街づくり使っておれば多くの住民の避難生活をとっくに終息させていたことでしょう。
そもそも1mSvの放射線量は原発事故で発生したものではなく除染しても実現が困難な目標です。日本人の場合年間2.1mSvの放射線を自然環境から浴びており、フランスやスペインでは年間5mSv、フィンランドでは年間7mSvを超え、欧州では多くの国で生涯線量は300〜600mSvにもなります。それから類推すれば1mSvの線量規制は根拠が乏しいのです。
最新の研究は多くの生物が放射線に抵抗力を持つことと遺伝子の損傷と修復の詳細なメカニズムを明らかにしています。
自然放射線の約1/3はカリウム40が放出するベータ放射線によるものです。カリウム40の半減期は12億年もあり地球の創生期には10倍以上の放射線量があったと推定されます。海の中で誕生し陸に上がった生物は宇宙線の強い放射線にも曝されながら進化し、ショウジョウバエなどの一部の生物を除き放射線に抵抗力を持たない生物は死滅し絶滅してしまったのです。
カリウム40は花崗岩や海水中に存在し昆布などの食品に取り込まれますので天然に存在する放射性物質の中では内部被爆による影響が大きいのです。しかし、カリウムは生物にとって不可欠の元素であり、ベータ放射線のホルミシス効果により健康の維持にも役立っている可能性は高いと考えられます。
放射線の危険性は放射性化学物質によるもので、特に体内に蓄積されやすい放射性重金属は体内に取り込まれないよう規制する必要がありますが、プルトニウムやストロンチウムなどの放射性重金属は比重が重いため大気中への拡散は比較的少なく原子炉の汚染水や事故現場近くの土壌に累積しています。
汚染水の重金属類は化学処理により沈殿させれば取り除くことができますが、問題は除去が難しいトリチウムです。
将来、核融合による原発が実現してもトリチウムの生成は避けられません。原発を存続させるためにはトリチウムが放出するベータ放射線の安全な閾値の存在を証明する必要があるのです。
我が国の放射線医学の先覚者近藤宗平阪大名誉教授はマウスに1日0.2mGyのトリチウム入り飲料水を一生涯飲ませ健康に影響が無いことを実証されました。人体に当てはめれば毎時8〜10μSvのベータ放射線を浴びても健康に悪影響がないことが予測されます。
ベータ放射線の安全な閾値の存在は予測できても人に対するデータが無いために東京電力はトリチウム汚染水を海に放出することができず巨大な1000基ものタンクに貯めつづけています。このタンクを際限なく増やすことはできません。最終的にトリチウム汚染水は希釈して海に流すことになるでしょう。福島第一原発の事故はトリチウム放射線の安全な閾値を証明せずに終息することは無いのです。