不合理「税制」の改革試案(2)−土地税制を見直せ!

東京都文京区 松井 孝司

政府が国民に課税する根拠

「税」は国のかたちを決めるという。税制は国民の意識を変え、国民の行動を変える。税制に不合理があれば国家の健全な発展は望めない。アベノミクスの成否も税金の取り方と使い方にかかっているといっても過言ではないだろう。

日本国憲法第30条で国民に納税義務を課す根拠は憲法第3章に定める国民の権利を守るためである。国民が教育を受ける権利、生存権、財産権を守るために国民は政府、自治体に税金を納める義務を負うのであり、裕福な人が高額の税金を納める根拠は所有する高額の財産を守ってもらうためである。

日本国憲法に政府が法人を守る義務はなく、法人の納税義務の規定もない。しかし、現代社会では世界の殆どの国家が法人への課税で政府は維持されている。経済の活性化と海外から企業を誘致するために法人税の減額も模索されているが、法人には納税義務に見合う権利を保障することが重要だ。

法人、事業者と個人では税負担に大きな格差があり日本では節税のための赤字法人が横行しているが、納税を「権利」を守るための「義務」の行使と捉えなければ年貢を納める江戸時代の百姓、農民と変わりは無い。

国民の「権利」を守るための税金として消費税は最適である。所得の少ない者も例外なく納税の「義務」を果たすことができるからである。但し、国民は政府に直接消費税を払ってはおらず消費税を納めるのは法人である。弱小企業は消費税の価格転嫁をせず売り上げから利益を削って納税している。税率5%の現在でも消費税は6000億円も滞納されており、取り逃がしている消費税は3兆円に上るとする指摘もある。

この不合理を解消するために消費税は付加価値のみに課税するインボイス方式に改めるべきだ。企業の利益は消費者が原価以上の代金を企業に支払った結果であり「付加価値税」は消費者納税の代理人となる法人への所得課税の根拠になる。2015年に消費税は10%への増税が予定されているが消費への悪影響を軽減するためにも生活必需品ごとの軽減税率を導入すべきで、会計処理と納税の電子化を推進し消費課税をインボイス方式に改めれば軽減税率導入も容易になる。

しかし、消費税を10%に増税しても財政の健全化には程遠い。縦割り行政を改め政府の規模を大幅に縮小しなければ更なる増税は不可避である。

 

資産に対する課税

消費税の増税に引き続き20151月から相続税の引き上げも予定されている。

国民の金融資産1600兆円と土地などの非金融資産1000兆円への課税は財政健全化のために避けて通れない道であり、消費への悪影響が少ない資産課税は国民の貧富の格差是正に最も適した課税である。

資産に対する課税を大幅に引き上げれば1000兆円を超える政府の巨額債務も一挙に縮小できるが、死去した人の遺産に課税をする根拠はどこにあるのだろうか?遺産相続時の巨額の個人課税は憲法で保障する国民の財産権を侵害することになるのではないか?

大前研一氏によれば日本では年金の3割が貯蓄に廻り一人平均3500万円の貯金を残して死ぬという。これが事実とすれば裕福な人も国家の手厚い社会保障を受けている証拠である。国家から支給された資産の残額は死後国家に返却すべきで相続時の故人資産への課税の根拠になる。

 問題は土地への課税である。憲法第29条に財産権はこれを侵してはならないと規定し、財産権の内容は公共の福祉に適合するように法律でこれを定めるとされている。土地は金融資産とは異なり地球の誕生とともに存在する自然資産であり、個人が創った資産ではない。土地の私物化は利点より弊害が多く、土地を私有財産とするのは公共の福祉に反する。

憲法の理念を尊重し、土地は公共の財産と見做し土地への相続課税を廃止することを提案したい。土地を相続財産から除外できれば遺産相続に対する個人課税を大幅に軽減できるし、土地遺産をめぐる相続争い、土地登記の細分化や土地を相続できずに先祖伝来の家業を廃業する悲劇も防止できる。

利用価値の無い不毛の土地に財産としての価値は無い。個人、法人が所有する土地に対する資産課税は政府、自治体が整備する道路、水道などのライフラインの「利用価値」に対する対価(利用料)と理解すべきで、土地への資産課税は土地の利用価値に応じて課税をするのが合理的だ。

土地に対する遺産課税は相続時に一括納税する制度は廃止し、土地を利用する個人、法人が毎年の固定資産税として納めるのが合理的と思われる。

 

土地の利用価値への課税

現行の土地への資産課税は土地売買評価額の1%以下の税率で推移しているが相続税を軽減する代償として1%以上に引き上げ一物四価の土地評価は一本化すべきだ。

明治6年の地租改正時の土地課税は税率3%であった。高率の課税で土地所有に魅力はなく地価は低迷し担税力のある大地主を誕生させ多くの人が借家に住んだ。

第二次世界大戦後に地価が高騰し土地本位制のバブル経済を発生させたのはインフレ経済下で土地への課税額が低くなり過ぎたからである。

土地への資産課税は土地の利用価値と景気の変動に応じて臨機応変に変更することが重要であり、土地課税を地価の2%以上の税率に引き上げることができれば確実な税の増収が期待できるだけではなく国民の土地に対する執着が払拭され土地価格は収益還元価格まで下落して海外からの企業誘致や防災のための区画整理を促進できる。

広大な土地を所有しながら付加価値を創造できていない個人、法人は固定資産税を納めることができなくなり不動産取得税を免除すれば土地の流動化と有効利用を促進できる。国内総生産(GDP)は国内の土地が生む付加価値の総和であり、政府、自治体のインフラへの公共投資で土地の利用価値を増大できればGDPの増大で税の自然増収も期待できるだろう。

土地への資産課税を土地利用料と考えれば、国籍を問わず土地を利用するすべての法人が課税対象になり赤字法人、公益法人も例外ではない。宗教法人などの公益法人に対しては事業内容を厳しく審査して緑地保存や歴史的文化遺産の維持など事業の公益性を評価し、その評価額のみを減税、税制優遇の対象とすべきで税制の優遇措置を受けながら納税義務を果たせない公益法人はその存在価値を問わねばならない。

土地公有のもとで政府の積極的なインフラ投資で急速な経済成長を実現した中国経済は貨幣発行益(シニョリッジ)と土地利用権の売却益を政府の重要な財源とする国家の実例である。日本も明治初期に公地公民の理念にもとづく藩籍奉還で類似の政策をとった実績があり、貨幣発行と土地課税が政府の重要な財源であった。

土地公有制は中国経済発展の原動力になってきたが、最近になって地方政府の幹部の不正、腐敗や過大な投資と民間への過剰融資で不動産バブルを招きシャドウ・バンキングの崩壊が危惧されている。土地税制は土地公有の中国経済の成功と失敗の歴史に学び他山の石としなければならない。

 

参照:不合理「税制」の改革試案(生活者通信20059月号)

http://www2u.biglobe.ne.jp/~shimin/zeisei2.htm