経済成長は必要だけど、「成長戦略」が不要なわけ
千葉県柏市 峯木 貴
今後の日本の経済発展のために成長戦略が必要である、という意見は誰でも言う(日本人でも外国人でも、専門家でも素人でも)。しかし、だれもがみな同じことを言う場合は気をつけろ、といわれている。成長戦略が有害であるという専門家の話は、テレビや新聞では全く聞かれない。本当は成長戦略そのものが日本経済を停滞させているのではないか。
以下、「成長戦略」が不要な理由をかいつまんで説明する。
1.大前提(インフレ、デフレの定義)
インフレ 需要>供給 恒常的に価格が上昇⇒インフレ時の対策が必要
デフレ 需要<供給 恒常的に価格が下落⇒デフレ時の対策が必要
★☆この大前提は大切なことである。今はデフレではないというようなことを言っている経済評論家もいるようだが、ここ15年以上物価(耐久消費財、非耐久消費財の物価の平均)が継続的に下がり、賃金(常用労働者が5人以上の事業所)も下がり続けている、また世界銀行の統計(World Bank.org)によるとおおむね1995年あたりから日本のインフレ率はマイナスとなっている。このような状況をデフレという。☆★
2.成長戦略とはインフレ時の対策
成長戦略≒構造改革≒規制緩和≒新自由主義
これらの言葉は大体同じようなことを意味している。
ここで規制緩和とは、規制を取り除くことにより生産能力を向上させること⇒供給能力の向上⇒物価の下落⇒インフレ時の対策
また、成長戦略とは、産業競争力の強化⇒供給能力の向上⇒インフレ時の対策
★☆成長戦略はインフレ時の対策である。デフレ時には金融緩和、財政出動等別の対策が必要になる。☆★
3.有用な規制改革とは
日本は貿易依存型経済ではなく内需主導型経済であるため、海外からの投資を呼ぶよりもむしろ、日本から海外へ逃げて行かないよう規制を改革する必要がある。また、国内企業が儲かる仕組みであれば歓迎である。また、国と県が同じことをやるような二重行政も規制改革の対象となるだろう。厳しすぎる環境基準というものも経済を疲弊させる。
有用な規制改革の一例:国内企業である簡保生命のがん保険への参入
⇒ただし、アメリカの圧力かどうかわからないが、政府は、簡保生命のがん保険への参入を認可しないと表明。(米企業(アフラック)が国内のがん保険の74%のシェアを持っている)
★☆有用な規制改革は他にもあるが、一般的にはアメリカのためにならない。そこが改革できない理由なのだろうか。☆★
4.有害な規制緩和とは
デフレ時に規制緩和をするとどうなるか・・・
・タクシー業界の台数規制の撤廃:タクシーの台数が激増し1台当たりの売り上げが減少。賃金も下がった。
・大規模小売店舗の参入規制の緩和:地域の商店街が廃頽し、失業者が増えた。
5.成長戦略はいらない
デフレ解消のために経済成長は必要だが成長戦略は不要である。
経済成長するためにはアベノミクス第1の矢(供給側のコントロール)、第2の矢(需要側のコントロール)をもっと適切に行うだけで達成できるだろう。需要と供給のコントロールとすれば、それ以上のことは不要である。(ただし、最近では、日銀の黒田総裁は第1の矢(金融緩和)を当面やらない、と不用意な発言をし、急激な円高※を招いてしまった。※円高は、輸入品が安く手に入り、国産品もつられて安くなるため、デフレを加速する。)
6.経済界はどう考えているか
ここでは、経済界の一角を担う経済同友会の報告書「第2弾成長戦略」に向けた提言(平成26年4月16日)を取り上げ、経済界の考えを説明する。
報告書の目次構成を見ると、
1. 新たな経済レジームの明示を
2. 生産性の高い産業構造への転換を
3. 抜本的な課題解決モデルの提示を
となっており、1.2.で生産性の向上の重要性を謳っている。3.で初めて需要の喚起の説明をしており、抜本的な方法は人口増しかないらしいのだが、この章でも結局労働生産性の向上が必要だとしている。報告書全体としての大きな流れは、生産性の向上が主体として謳われているのである。最初の大前提に戻ると、これらはインフレ時の対策であることが分かる。
結局彼らの成長戦略には需要創出という観点はない(もしくは、それは政府の仕事であると考えているのだろうか)
7.とんでも経済学者登場
最後に締めとして、とんでも経済学者のことを述べる。以下のお二方はテレビ出演もよくされ、書物もよく売れている。
(1)野口悠紀雄(一橋大学教授)
第1の矢により国債が大暴落(金利の上昇)を招くと予想していた。しかし、現在は超低金利である。その後も金融緩和が続くが国債は暴落の兆しも見せていない。
第2の矢もお気に召さないようで(財政出動により金利の上昇を招く→これも外れてしまった)、第3の矢(成長戦略)こそ重要だという。
ここ十年以上一貫して日本経済は破滅する、と言い続けているが、見事に外れている。
(2)浜矩子(同志社大学大学院ビジネス研究科専門職学位課程教授)
そもそもアベノミクス全てを否定している。(彼女はアホノミクスといっている。)
浜教授の予想は50円/ドルの超円高、株価は1万円割れとしていた。しかし、アベノミクスにより100円を超える円安、株高も1万円を大きく超え上昇に向かった。
予想は全く外れてしまい、アベノミクスは好調である。予測が外れると誰しもが悔しい思いをするのだろう。その気持ちが「アホノミクス」という言葉に表れている。
以上、2人の経済学者を取り上げたのだが、共通点は安倍政権が嫌いだということ、経済予測が全く外れてしまったということである。ただし、経済学者は予測することが仕事ではないため、今からでも遅くないので、現状の経済状況を正面から見て良く解析してほしい。