忘却のかなたから -2

東京都渋谷区 塚崎 義人

 

「かたよらないこころ、こだわらないこころ、とらわれないこころ、

ひろく、ひろく、もっとひろく〜〜〜」

薬師寺元管長・故高田好胤師

 

社会の真似る仕組み(見える構造と見えない構造)

「師の跡を求めず、師の求めたるところを求めよ(空海)出典不明」。

能楽師山本東次郎氏は、この言葉へ次のような思いを述べています「師がどれほど偉大であっても、弟子がその真似ごとに終始していたら決してそこに辿りつけない。師が何を理想とし、何を求めていたか、目指したところをしっかり見極め、そこに向かって行くことを心掛けよ」と。 “目指すところを見極める”凡人には何とも難ごとなことです。

 

真似ごとには、“見える構造(個別心理)・見えない構造(社会心理)”という時間を軸とする二つの仕組みがあります。今まで社会現象(政治・経済・言語・芸術・精神)は常に「見える構造」から観察され、「見えない構造」からは観察されたことはありません。

1、見える構造

人の寿命も100歳の時代、でも残念ながら人の判断する能力に関してはあまり進歩していないようで、その理由は自分の実体験のみを判断のもとにし過ぎていると思われるからです。外からの情報(書物や話や学んだことなど)も判断の大切な要因ですが、知識の情報量が多いだけでそこに自分の実体験がないので“百閧ヘ一見に如かず”などと補完の役割のみ、あくまで自分の「実体験」を中心に社会現象を観察しています。

人は実体験の詰まった一生(誕生と死)をモノサシに社会現象(政治・経済・言語・芸術・精神)を観察し、自分に合う現象をライフスタイルに取り入れ(真似る)最先端の社会現象とともにあることで満足と幸せ感に浸ります。このような行動パターンは昔から流行りものと言われ世間は「流行」と呼びます。そして自分の一生(誕生と死)よりちょっと長く(父母や祖父母の頃)話しでしか知らないが変化する社会現象を「慣習(しきたりとか風習とか)」と呼び、もっと古く世代を超え歴史観が社会にどっしりと固定化しているように見えるが変化する社会現象を「伝統」と呼んで、現在進行する社会現象を“流行”、それを取り巻く社会環境を“慣習・伝統”に分け頭の中を整理しています。

 今、起きている社会現象(流行)は社会環境(慣習と伝統―言語・風俗・道徳・宗教・種々の制度・行動様式や生活様式の集積)の中のさまざまな現象が熟成され繰り返し起きると考えています。

1、    社会現象(流行)は、社会環境(慣習と伝統)から生まれる。

2、    もし、考えが社会現象(流行)と合わない場合、現実に合わせるか現実から逃避するかして、現実と適応するようにつじつまを合わせる。

3、    社会環境(慣習や伝統)から生じる「時流とか世論とか」と呼ばれる社会の空気に、自分の考えのつじつま合わせすることが社会現象(流行)との適応能力だと錯覚し思い込んでいる。

社会の現象(流行)と環境(慣習と伝統)は時代の流れだという考え方が正しいという固定観念のため、人の思考体系は現象(流行)と環境(慣習と伝統)との類似性や共通性を見つけることに多くの労力を費やします。そして現象と環境との類似性が見つけられたことで過去を説明し未来を予測しようとし、さらに時流や世論への現実的適応という安易な考えで過去・現在・未来の因果関係を説明するので、社会現象(流行)の本当の因果関係(見えない構造)を見ようとしません。でも、これからは社会の現象(流行)から現象(流行)を見るという見かけの関係でなく、社会現象の“見えない構造(構造と法則)”を知ったうえで過去・現在・未来を観察できれば私たちの生活にとても役にたつはずです。

 

次回、「見えない構造」を考察します。