ダブル首都

東京都小平市 小俣 一郎

 

 会報219号で平岡さんから、「橋爪大三郎氏の提言(『逆植民地』が日本を救う?)」のご紹介があり、「之こそ画期的且つ、実現可能な地方活性化の具体策ではあるまいか」「道州制実現推進委員会乃至は、道州制推進連盟において、本案の具体化に向けて、一歩研究を進めるとか、有力政党や政府機関に対し、その推進を呼びかける等の運動を開始すべきではないでしょうか」とのご提案を頂きました。

そこで私も橋爪氏の著書『日本逆植民地計画』を購入し、読んでみましたが、「第三世界の国々と協定を結び、地方のある区域を、『逆植民地』に指定する」「『逆植民地』では、逆宗主国が施政権をもち、地域社会の経営に責任をもつ」等々の提案は、あまりにも斬新過ぎて、この案の具体化に向けて、一歩研究を進めるとか、その推進を呼びかける等の運動を開始するのは、残念ながら無理だと思いました。

ただ、橋爪氏の著書の中には「日本逆植民地計画」以外にも7つのアイデアが提案されていて、その最初の第一章には「ダブル首都」が提案されていました。(他の6つ提案は「百年マンション」「太陽熱発電」「どこでもトーク」「無人自動車」「潜水商船隊」「新食糧」です。)

この「ダブル首都」については、道州制推進連盟の例会で現実性があるのではないかとの議論となり、細胞分裂型道州制の「より現実的な最初のステップ」と位置づけ、それをうまく取り込んでいくことになりました。現在その検討を始めています。

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橋爪氏は『ダブル首都』のなかで、「大阪を、ダブル首都に指定する」「『大阪ダブル首都法』を制定して、大阪中心部の土地利用を制限する」「大阪中心部を、霞が関そっくりに再開発する」「中央官庁の半分を、大阪に移転する」「緊急時には、即座にシステムを再起動し、数日で政府機能を大阪に移転する」等を提案しています。

そして橋爪氏はダブル首都を提案する理由として、「東京一極集中」と「フェイル・セーフの思想」を挙げています。

フェイル・セーフをウィキペディアで調べると「なんらかの装置・システムにおいて、誤操作・誤動作による障害が発生した場合、常に安全側に制御すること。またはそうなるような設計手法で、信頼性設計のひとつ。これは装置やシステムが『必ず故障する』ということを前提にしたものである」とありますが、橋爪氏はセキュリティの観点から「一系統が壊れても二番目、それもだめなら三番目、と機能を代替していく発想は、首都機能にとっても必要ではなかろうか」と提案しています。

また、「なぜ大阪か」ということについては、「歴史的に首都の役割を果たしてきた(江戸時代は大阪が経済の中心)」「充実した社会インフラと潜在的活力」「セキュリティ的利点(東京と約500キロ離れているし、乗っているプレートが違う)の3つを挙げています。

そしてその副次的効果として、「外国からの投資を誘発する」「経済的な波及効果」「首都に昇格することによる心理的効果」の3つを挙げています。

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東京一極集中の流れが止まりません。2020年の東京五輪がそれに拍車をかけています。

また東京五輪が決まってから、首都圏直下地震に対するマスコミ報道は南海トラフ地震に対する報道に比べて非常に少なくなっています。意図的なものも感じますが、明日東京を直撃する地震が起こっても何ら不思議ではありません。

地震は発生する場所、時間、天候等々の要因で、被害が大きく変わります。地震が発生しても深刻な被害が起こらない場合も考えられます。しかし、悪い条件が重なれば甚大な被害を受けることも考えられるのです。先日、糸魚川市で大火災が発生しました。それはラーメン店から出た火が原因だとのことです。たった一か所から出た火が、悪条件が重なってあのような大災害になってしまったのです。

関東大震災も火災が被害を増幅しました。東京には火災に弱い地域がまだ多数存在します。もし各所で火災が発生し、大混乱に陥った時、政府はしっかりと機能するのでしょうか。

いまはいろいろなものがあまりにも東京に集中し過ぎています。しかし東京は弱さも抱えているのです。だからこそ、東京を直撃する地震が発生し、政府機能がマヒするといった万が一のときに備えて、単なるバックアップ機能を超えて、大阪を東京と同様の本格的な機能を持つ『ダブル首都』にすることは、日本の最優先の課題とも言えるのではないでしょうか。大阪に無傷の政府機能があれば、東京で地震が発生しても、復興は迅速に進むはずです。

橋爪氏は、大阪に移す政府機関の候補として、「法務省」「人事院」「会計検査院」「特許庁」「文部科学省」「環境省」「検察庁」「最高裁判所」「政府関連独立法人」「特殊法人」等を挙げています。国会の本会議や委員会を大阪で開けるようにすることも提案しています。

もしこれが実現すれば、確かに心理的にも経済的にも大きく変わるでしょう。京都への「文化庁」移転とは規模が違います。まさしく大阪に向かう大きな流れができることになります。

大阪が首都機能を持ち、首都として発信をする都市に変われば、日本のありようも大きく変わっていくはずです。

そしてその流れがさらに拡大し、他の都市に伝播する方向に動き出せば、それは細胞分裂型道州制が目指す方向である、段階的な地方分権の実現、道州制の実現へとつながります。

 現在の東京一極集中はどう考えても歪です。

それを大きく変える手段として、『ダブル首都』は、実現性のある、そして実にインパクトのある提案だと思います。