地震大火災

東京都小平市 小俣 一郎

 

 1月22日に「NHKスペシャル MEGA CRISIS 巨大危機  #4“地震大火災”があなたを襲う〜見えてきた最悪のシナリオ〜」いう番組が放送されました。ご覧になられた方も多いかと思います。

番組は「迫りくる次の巨大地震、揺れがおさまったあと、さらなる試練が追い打ちをかけます。『地震大火災』その本当の恐ろしさを私たちはまだ知りません」という言葉で始まり、いろいろなシミュレーション等により、その危険性を改めて警告するものでした。

最初に阪神・淡路大震災での神戸市長田区を例にしたシミュレーションで、風の怖さが改めて強調され、次に非常に不運な出火点分布になった時に、もしかすると大量の死者が発生する可能性があることが世田谷区でのシミュレーションを例に紹介され、広域避難場所近くの住宅密集地での火災のリスクの高さが「新たなリスク」として浮き彫りにされた。

また、東日本大震災では千葉県市原市の石油コンビナートが爆発し、10日間も炎上を続けたが、「たまたま割れた方向が、海側に爆燃が起こっています。もし反対側に起これば、石油コンビナートの様々な施設がありますので、その施設が確実にやられており、もう手のつけようのない事態になっていたことが容易に想像できます」という消火現場に指示をしていた方の話も紹介された。

さらには、南海トラフ巨大地震で地震火災による大被害が想定されている大阪府では、津波により、石油コンビナートから東日本大震災のときの気仙沼市の4倍の油が流出し、それが2時間で大阪の中心部に達する可能性があることも「津波による油拡散シミュレーション」として紹介された。そしてこれに漏電等により火がつき、大阪の街が火の海になるという最悪のシナリオのCG映像をNHKがつくったが、それは実にショッキングなものであった。

「これはいくつもの最悪のシナリオを重ねての被害想定なので必ず起こるわけではないが、東日本大震災の教訓は想定外を無くすことであり、最大の場合はこういう被害が出ることを知っておく必要がある」というのがこれを見た専門家の解説だった。CGが現実になる可能性があるのだ。

番組では「地震を生き延びても火災で命を落としてしまう。まさか自分の身にそんなことが起きるとは思いたくない。でも昨年12月22日の糸魚川市の大火災では、たった1か所からの出火が瞬く間に燃え広がって手のつけようもありませんでした。そうした火災が地震の時にはあちこちで同時に発生して拡大、そんな状況が明日私たちの身に起きる可能性があるのです」というわかりやすい表現でも警鐘を鳴らしていたが、地震火災の恐ろしさを実感させる番組だった。

関連して改めて気になったのが「首都直下地震での死者は最大2万3千人」という表現だ。番組のHPでも「国の中央防災会議の予測によれば、首都直下地震での死者は首都圏全体で最大2万3千人。そのおよそ7割は『火災による死』だ」といったかたちで使われていたが、この「最大2万3千人」という数字は、あくまで直近に起こる可能性の高いマグニチュード7の地震を想定した場合の数字だ。当然、もしマグニチュード8.2だった関東大震災クラスの地震が発生したらその数字は跳ね上がる。25年12月に国の有識者会議の想定が出されたときにはその想定も公表されており、最悪死者7万人という数字が出されていた。

 ちょうど3年前、26年3月に発行した会報203号の巻頭言で、『地震被害想定』という文章を書いたが、「南海トラフでの想定は、最大でM8とされた宮城県沖でM9の地震が起きた東日本大震災の教訓等を踏まえ、M9.1という『千年に一度』の地震を対象にしたものだったのに対し、首都直下地震の方は、頻発するM7クラスを対象にしたもの」であり、そのとき「現実的には、紙面上に大きく示された数字のみが今後も何度も使われ、それのみが国民に刷り込まれていくのではないだろうか」と懸念もしたが、この3年間の地震関連の記事等を見るとどこでも「最大2万3千人」という表現が使われており、恐れていた方向に定着してしまった感がある。

 しかし被害想定を過小にするのは危険だ。研究も進み、シミュレーション技術も発達し、新しい予測がいろいろと出てきている。国の中央防災会議は、改めて最新の被害想定を公表し、首都直下地震についても元禄関東地震のようなより大きな地震の可能性も含め、いろいろな場合の被害想定を国民に示し、改めて首都直下地震の際の最悪の数値を出し直すべきではないか。