忘却への回帰 -3
東京都渋谷区 塚崎 義人
「かたよらないこころ、こだわらないこころ、とらわれないこころ、
ひろく、ひろく、もっとひろく〜〜〜」
薬師寺元管長・故高田好胤師
源流-3(心の世界)
物質世界(宇宙)に心はありませんでした。
生物世界(生命)になっても型にはまった反応しかしていないあいだは現れず、外の環境に対し自ら反応できるようになった頃から「心」らしき器が生まれたようです。
生物は自らの体を内界(自身の世界)にそれ以外を外界(外の世界)とします。
生物の最大の関心ごとは自身の体(内界)の生命維持のみ、その生命維持にはエネルギーが必要、ですがほとんど外界(環境)から得るしかなくエネルギーとなる物質を探すのが簡単でなく至難の業でした。
どの物質がエネルギーになるのか?どこに行けばあるのか?生物の日常活動はエネルギーの探し回りと環境変化の情報を収集するのがすべて、なぜならこれらを得られる得られないかは生死に関わる大問題、生命維持の源泉はエネルギーと情報です。
多重層的で多種多様な個性あふれる生物世界(微生物から植物、動物、そして人間)となった一つの理由もエネルギーと情報を手に入れる方法が大きく違ったからです。
今も生命維持の基本はエネルギーと情報で生物(人間を含む)の生き死にが決まります。
生物は体内(自身の世界)でエネルギーと情報を処理します。
その処理する方法は大きく二つ、一つはエネルギーを処理する呼吸・消化・排出などの各器官系、もう一つは情報を処理する内分泌・免疫・神経の各器官系です。
生物がこの複雑に機能する各器官(臓器)を持つ多細胞体の構造になったのも一にも二にもエネルギーと情報をより多く獲得し生命を維持するためです。さらに外界の厳しい環境に適切に対処するには情報収集の能力を特に高める必要に迫られ処理する器官(内分泌系・免疫系・神経系)をより充実させていきました。
三系統器官の役割
*内分泌系 :体の中の均衡を保つ (ホルモン活動 )
*免疫系 :異物に対応する (細胞認識活動 )
*神経系 :未知へはたらきかけ (自発的伝達活動)
三系統器官の中で際立っていたのが神経系の特異的なはたらきでした。
それは外からの情報を体内に蓄積し新しい情報を体内に蓄積する旧情報と照し合せ体の末端神経に伝えるスピードを調整したりする機能です。この神経系のはたらきは神経細胞の網目を体内(自身の世界)に張り巡らせ体の各部機能を統率し全体をコントロールする中枢神経(司令塔)にもなりました。さらに中枢神経の中の網目はお互いの接続を調整し伝達情報の内容を変化させたり新たな伝達情報を痕跡として神経回路内に記録するようになったことです。
神経の網目に記録された情報はすこしずつ集積し長期に保持され再生できる「記憶」となっていきました。生物の記憶には先天的な本能行動のプログラムと外から得られる後天的な知覚的情報の二つの記憶機能を持ちます。
それぞれ二つの記憶機能の「記憶」は三つに分けられ保存されています。
*必ず起こる記憶 :遺伝子 (封印されたまま外界の刺激で想起 )
*解発刺激の記憶 :刷りこみ(一回限りの刻印で不可逆に記銘 )
*変更可能な記憶 :条件反射(保持と末梢のできる可塑性が生まれる )
外界(外の世界)に対し自らが反応できるようになったことが心の兆候というならば、それは「記憶」の成立が「心の器」のはじまりと考えられます。
生きものって何? と問われれば「なにがなんでも生きぬく」生命力です。