防災省の設置を急げ

東京都小平市 小俣 一郎

 

 9月に行われた自民党総裁選挙では安倍総裁の圧勝との下馬評に反して石破元幹事長が善戦したことが話題となった。その石破さんが総裁選挙で掲げたのが「防災省構想」だったが、安倍総裁が討論を避けたこともあり、議論が盛り上がらなかったのは非常に残念であった。

今年は既に猛烈な台風がいくつもやってきて大きな被害をもたらしており、北海道では巨大台風が付近を通過した翌日に大地震が発生するという事態も起きた。昨年の九州北部豪雨、今年の西日本豪雨と近年の雨の降り方も尋常ではない。また今年2月には南海トラフ巨大地震の30年以内の発生確率が最大80%に引き上げられたし、首都直下地震も70%程度の確率で起こるとされている。

そのような状況を考えると防災をさらに、大幅に強化することは急務と思われる。地震はいつ来るかはわからないが、梅雨は、台風は毎年必ずやってくる。それゆえ防災に対して専任の大臣・スタッフを置く防災省構想は大いに議論すべき事項だと思うのだが安倍総理にはそのような思いはないようで、改造内閣でもその対応はこれまでの延長上に過ぎない。これまでの諸々の対応をみても安倍総理は災害対策にはあまり関心がないのであろう。

今回の北海道胆振東部地震では北海道内全域約295万戸が停電になるというこれまでにない事態も起こり、何日も続いた停電によって、地震の直接の被害を受けていなかった地域でも大きな被害が発生した。そしてそこではまた想定外という言葉が使われた。東日本大震災を受けて想定外という言葉を使わないようにあらゆる可能性を想定して対策を考えておくのではなかったのか。北海道の電力の半分以上が苫東厚真発電所に依存していたとのことだが、そこがダウンすればどのような事態になるのか、当然事前に予測し、対策を考えておくべきではなかったのか。東日本大震災の教訓が生かされていない。

また今年の6月7日には土木学会が、南海トラフ巨大地震が発生した際の20年間の経済的な被害が最悪1410兆円に上るとの推計を発表した。首都直下地震も778兆円に上るが、インフラの耐震化などに南海トラフ地震は約40兆円、首都直下地震は約10兆円投じれば、被害額は3〜4割減るという。

1410兆円プラス778兆円、とてつもない金額である。もしこれほどの被害が発生した場合、日本が再び立ち上がるまでどのくらいの年月を必要とするのであろうか、それこそ見当もつかない。現在のいろいろな施策がそれにより水泡に帰してしまう可能性も大いにある。

ならば被害を軽減する対策を至る所で施し、できるだけ被害を減らすのが現在の我が国の政治の最大の命題ではないのか。南海トラフ地震も首都直下地震も、明日か、1年後か、30年後か、あるいはもう少し先かはわからないが、必ずやってくる。それが地震国日本の宿命である。だから防災省を設置して、諸々の準備をし、被害をできるだけ少なくすることが必要なのではないか。

 反対論として、「災害対応は初動も含め内閣官房が担うシステムができており、屋上屋を架すことになる」「本格的にやるのであればそれは平成13年の中央省庁再編に匹敵するものであり無理である」とか「災害時の命令系統はどうするのか。防災大臣にどのくらいの権限をあたえるのか」等々があるが、私は、災害対応ももちろんだが、より防災を強化するために「防災省」を中心とした中央省庁の再編は行うべきだし、災害時の権限は総理大臣ではなく、防災大臣に集中すべきだと考える。総理大臣の職務はは多岐にわたり、多くの場合防災の専門家ではない。また災害時に総理が国内にいるとは限らない。ならば災害時には防災大臣が指揮を執るべきである。

そして防災大臣には政治家でなく、その道の専門家でしかもリーダーシップのある人を任命すべきだとも考える。知識の蓄積も必要になるので、任期も他の大臣とは別枠とし最低5年ぐらいにすべきである。また、防災大臣及び副大臣・大臣政務官は、任期中は必ず国内にとどまることとし、最低必ず1人は防災省に詰め、いざという時、速やかに対応できる体制も日常的につくっておくべきである。

防災に与党も野党もない。政争を超越した形でこれから起こる巨大災害に備える、その体制をつくるのは必須ではないのか。内閣が代わろうとも、政権が交代しようとも、防災大臣の下、防災省はあらゆる角度から減災を追及し続ける。そのような強力な「防災省」が必要だと考える。

もちろんそれはすぐには無理だろうが、まずは内閣府の防災担当と復興庁を統合して「防災省」を創設し、リーダーシップのある専任大臣を任命して、その後、順次他の省庁から権限・人材等を移動することで省の体制を整えていくことはできるはずである。      

2年後には東京五輪がある。もしその時首都直下地震が発生したらどうするのか。巨大台風が東京を直撃したらどうするのか。まずはそれについてあらゆる角度からシミュレーションし、対策を立てておく必要がある。地震はともかく、台風の可能性は高い。

地震や台風に慣れていない外国からの選手や役員、観光客だと日本に暮らすものにはよくある規模の地震や台風でもパニックになる可能性がある。そのときはどのように対処するのか。

防災省を早急に設置し、まず東京五輪の際に災害が発生したときにどのように対処するかについて綿密に検討し、準備をすることが必要ではないか。その過程で、国・都道府県・市町村が連携する仕組みをしっかりと確立し、そしてその経験を全国に広げていけば、全国の災害対応力も大幅に向上するはずである。その対応マニュアルは、それこそ「東京五輪のレガシー」になるのではないだろうか。