新型コロナウイルスのリスクについて

東京都文京区 松井 孝司

 中国の武漢市から拡散が始まった新型コロナウイルス感染症は世界的な広がりをみせつつあり、世界経済にとって新しいリスクとなることが確実になった。しかし、リスクに挑戦せずリスクを避け逃げ回ってもリスクが無くなることはなく問題の解決にもならない。

 新型コロナウイルス(Covid-19当初は2019-nCoVと略称)の市中感染が世界規模になりリスクを早期に解消できないと2020年7月に我が国で開催が予定されるオリンピックにも脅威となる。日本にとってもCovid-19のリスク解消は至上命令なのだ。

 幸いにしてCovid-19は2002年に中国広東省で発生した重症急性呼吸器症候群(SARS)の病原体であるコロナウイルスと類似性が多く、SARSの知識、経験に学び叡智を結集すれば早期終息も夢ではない。(https://www.nejm.org/coronavirus参照)

肺炎重症化のリスクと不安解消のために当面急ぐべきは有効性が確認された治療薬の使用許可である。中国の臨床グループは効果が期待できる米国のギリアド・サイエンス社が開発中の「レムデシビル」(治験コードGS-5734)と市販の抗HIV薬「ロピナビル・リトナビル」合剤(商品名カレトラ)の臨床試験を開始しており、日本政府も2剤に加え富山化学(株)が開発したインフルエンザ治療薬「ファビピラビル」(商品名アビガン)を試用する方針を固めた。コロナウイルスの正体は一本鎖RNAであり、インフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)にRNAの構造が似ている。「レムデシビル」、「ファビピラビル」はウイルスの増殖を抑えるRNAポリメラーゼ阻害薬である。RNAポリメラーゼに阻害作用を有する毒物はすべてのRNAウイルスの増殖抑止が期待できるので副作用のリスクはあるがエボラ出血熱など広範囲のウイルス疾患の治療薬になる可能性がある。重症肺炎の予防と治療に効果が実証できれば感染の不安は激減するだろう。

核酸とたんぱく質で構成されるRNAウイルスの核酸配列も解明されており、リアルタイムPCR法で微量のRNAを分析することにより感染者の迅速診断も可能になっている。

 武漢市の事例や日本に立ち寄ったクルーズ船、ダイアモンド・プリンセス号における感染事例からCovid-19は重症の肺炎など感染の危険度が高いため検体の取り扱いはバイオセイフティレベル(BSL3とされ、世界の各国で感染防止対策が施行されている。

 病状が顕著なSARSは早期に終息したが今回のCovid-19感染症は感染後の初期症状が軽く無症状の患者が歩き回り市中感染を拡大させ風評被害を拡散させるリスクもある。

 新型コロナウイルス感染症の発生源とされる中国の武漢市はBSL4の実験設備も整っており、臨床試験実施のための患者も多く治験を実施するための必要条件を備えている。

最新の知識を活用し治験の成果を上げることが出来れば武漢市は汚名を返上し付加価値の大きい知識集約型製薬産業を育成して中国の経済成長に貢献することが出来るが、有効な治療薬が見つからないと短期の終息は難しくなりリスクの解消にはワクチンの開発を待つか、または市中感染の拡大により多数の感染した人々が免疫を獲得するまで待たなければならない。

 

 第二の仏陀といわれる竜樹(ナーガルジュナ)は「大智度論」の中で「大薬師の能く毒をもって薬となすが如し」と述べているが「毒」と「薬」は一体不二と見るのが仏教の教えである。すべての薬は使い方により「毒」を「薬」に変えているといっても過言ではない。求められるのはウイルスと人体の構造について蓄積された膨大な知識を活用し、正しい知識で「毒」を「薬」に変える「知力」である。

 驚異的な経済発展を実現してきた中国にとって新型コロナウイルス感染症の発生は大ピンチだが、医療システム改革のチャンスでもある。中国のピンチは他人事ではなく日本の未来の発展も「毒」を「薬」に変え、ピンチをチャンスに変える「知力」を持つ人財の有無にかかっている。

 

追記:

3月8日(日)11:30〜14:00に新宿三井クラブで開催される21世紀のライフスタイルを考える会は「新型コロナウイルスのリスク」の最新の知識について情報交換を行う予定です。ご質問、疑問などお持ちの方の参加を歓迎します。参加希望の方は峯木委員長(携帯090-9377-0048)までご連絡ください。