石川さんのご指摘について
東京都小平市 小俣 一郎
239号の私の投稿に対して石川さんにご指摘頂いたことについて、改めて私の考えを述べさせて頂きたいと思います。
1.「地球温暖化」について
まず「地球温暖化」についてですが、確かに長い地球の歴史の中では現在より気温の高い時期はいくらでもあったでしょうし、千年前は今より高かったかもしれません。しかし当時の世界の人口は3億人ぐらいではないかと言われています。それに比べて現在の人口は約77億人です。人類の人口はとてつもなく増加し、海辺へ海辺へとその活動範囲を広げてきました。東京を例にとれば、徳川家康が江戸を拠点としたときには日比谷あたりまで海が入り込んでおり、その後、埋め立て埋め立てて現在に至っているわけです。現在の東京ではそれに地盤沈下も加わって、江東5区には海抜ゼロメートル地域が広く存在します。ですから、海面上昇によって受ける被害は膨大なものになると想像します。
「海面が上昇するのは最大で80センチ程度で、堤防で防げるレベル」とされていますが、海面が上がれば河川の水面も当然上昇しますが、それも含めて堤防で防げるのでしょうか。百歩譲って「堤防で防げる」としてもそれは平時のときですから、昨年のように巨大台風が襲ってきた場合や大地震のときは防ぐことはできないでしょう。
18世紀後半にヨーロッパで産業革命が起こり、エネルギーの大量消費時代が始まり、人口もどんどん増えました。それまでとは違い、人類が地球の気候変動に影響を与えるようになってしまったのです。
パリ協定では「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という世界共通の長期目標を掲げましたが、人類が地球上に生存できるように、人類が地球の気候に与える影響をできるだけ抑えようという試みだと私は理解しています。
現在の気温上昇は、産業革命以降の人類が経験する最高の「地球温暖化」とは言えると思います。ただしそれは人類を基準にしたものであり、地球を基準にすればいまの温暖化など些細な出来事でしょう。しかし、人類がいまの生活を維持しようとすれば、被害をできるだけ少なくしようとするならば、「自らができることをできる限り行う」という方法しかないと思います。
また「一部の環境NGOが喧伝する」とありますが、地球温暖化へは国連が対策を呼び掛けています。グテーレス国連事務総長は、昨年9月の気候サミットに続いて、12月のCOP25の開会式でも、石炭火力発電からの脱却を訴えています。
事業運営に必要なエネルギーを100%、再生可能エネルギーで賄うことを目標とする『RE100
プロジェクト』には、世界の多くの企業が参加しており、日本企業も2020年2月現在で31社が参加しています。「地球温暖化」に対する危機感は広く共有されているのではないでしょうか。
2.「再生可能エネルギー」について
「日本は太陽光にも風力にも恵まれてない」とのご指摘ですが、「環境省は再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査を行い、太陽光発電、風力発電等の国内全域の導入ポテンシャルを推計・・・平成24年度の調査では、太陽光発電の合計値は日本全体で3億3,204万kWであり、この値は、年間発電電力量で3,490億kWh程度となり、2011年度の日本全体の発電量である1兆1,131億kWhの約3割程度に相当する。・・・陸上(2億6,756万kW)と洋上(13億8,265万kW)をあわせた風力発電の導入ポテンシャルは16億5,021万kWと推計され、日本国内に現在ある発電設備の全設備容量を遥かに上回る量である」(「環境エネルギー政策研究所」の「自然エネルギー白書 2017」参照)という数字があります。もちろん潜在力ですが、それだけの可能性が日本にはあるということです。
ただ残念ながら安倍内閣が熱心でないがためにそれが生かされていないのが現実です。先日は、「日本の風力発電開発は、世界に比べ、大幅に遅れている。洋上風力の導入実績(2018年資源エネルギー庁調べ)で言えば、同じ島国の英国が818万キロワットに対し、日本はわずかに2.3万キロワットだ。」(朝日新聞4月14日 日本海の風を風力発電に)という悲しい記事を読みました。風力に恵まれていないのではなく、恵まれた風力を利用していないのです。
3月1日にNHKBS1で放送された「再生エネルギー100%」という番組を見ましたが、世界の企業の多くはいま再生可能エネルギーの方向へ大きく舵を切っています。すでにアップルは2年前に自社の『RE100』を達成し、現在は部品製造のパートナー企業に対してもそれを求めています。世界は大きく動いているのです。
番組では、欧米では再生可能エネルギーで作る電気の価格が化石燃料より安くなってきており、それは発送電が別会社で、送電網には政府の支援も入っており、再生可能エネルギーと化石燃料が同じ土俵で勝負できるからとの指摘もありました。
日本ではこれまで送電線を発電会社が必要なところまで引かなければならないといった制約があり、洋上発電を増やそうとしても新たに海底ケーブルを引かなければならず、また太陽光発電に適したところの近くには送電線が少ないのでここでも新たな送電線を引くことが必要で、その費用を価格に上乗せしなければなりませんでした。それが欧米との価格差につながっているわけです。
その日本でもこの4月1日に大手電力会社から配送電事業を切り離す「発送電分離」が実施され、新しい一歩を踏み出しましたが、それが今後どのように有効に機能するかは、再生可能エネルギーの活用にどれだけ政府が力を入れるかにかかっていると私は思います。
この送電網については昨年の秋、東京電力が上限を基準にしていた空き容量の計算のやり方を見直し、実際の空き容量に合わせて新たな接続を認めるという方向についに転換しました。これにはネットワーク技術の進化によって送配電と発電の均衡をより正確に調整できるようになったことが背景にあると思われますが、細部に問題はあるもののこれにより再生可能エネルギーは確実に増えて行くことでしょう。
日本にも再生可能エネルギーより活用する方向に進む企業が増えています。今年1月には再生エネルギーを使っている20社が国に対して政策提案を行い、送電網には自然エネルギーを優先的に供給することや規制緩和をすること等を強く求めています。
日本は現在いろいろな面で遅れていますが、それにしっかりと対策を施していけば、再生可能エネルギーはもっともっと増え、もっともっと安くなることでしょう。そしてその方向に進んでいかなければ日本は世界から取り残されてしまうでしょう。
3.「蓄電池」について
まず、「化石燃料」に代わると期待されるのは「再生可能エネルギー」であって「蓄電池」ではありません。蓄電池はその供給の不安定さを補うものであってそれが主役と言ってるわけではありません。
「蓄電技術に過剰に期待するのは危うい」とのご意見ですが、蓄電技術は石川さんの予想を遥かに上回るかたちでさらに進化するのではないでしょうか。
私が改めて蓄電池に注目することになったのは、239号にも書いた「昨年の大型台風で停電した被災地に電気自動車が救援に入り電気を供給した」というニュースを目にしたことがきっかけですが、「電気自動車の蓄電池としての可能性」を改めて認識して、電気自動車は、蓄電池はここまできているのに、なぜもっと普及を推進しないのかと思うわけです。
日本は災害大国です。昨年でも停電した被災地にもっともっと電気自動車が普及していればわざわざメーカーの電気自動車が救援に行かなくても済んだわけです。避難拠点には、いざという時には電源としても使える電気自動車を公的に配備しておく必要があるのではないでしょうか。
4.「原子力発電」について
私は原子力発電には反対です。理由は「人間は間違う」からです。
東日本大震災のときも、原子炉自体は地震に耐えたのです。ところが巨大津波により非常用電源も失い、冷却ができなくなってあの大惨事になってしまったわけです。東京電力はその巨大津波の可能性を事前に試算していました。にもかかわらずその対策を行わなかったのです。
事故原因に関連しては、電源喪失後も一定時間は原子炉が「制御可能」な状況にあり、その時間内に海水注入の決断を下していれば大惨事は回避できた可能性がある、との指摘もあります。
ともかく、残念ながら人間は間違いをするのです。
石川さんも私も現在東京に住んでいますが、原発訴訟で、原発の運転を止める判決を出した二人の裁判長のうちの一人、元福井地裁裁判長、樋口英明氏が指摘するように、もし福島原発事故で、「二つの奇跡」がなかったら東日本は壊滅状態となり、4,000万人が避難を余儀なくされたかもしれないわけで、つまり、我々は東京に住むことができなくなっていたかもしれないのです。
私も福島原発事故以前は、特に原発に反対していたわけではありません。資源小国日本にとって「もんじゅ」や「ふげん」が成功すればどんなによいかとさえ考えていました。
原子力発電の事故は、それが起こったときの被害があまりにも大きいのです。今後も絶対に事故が起こらないとは言えません。だから、私は原子力発電に反対なのです。
5.大前研一さんについて
当会の前身は「平成維新の会」であり、『第3条(目的)本会は、大前研一氏が提唱した「平成維新憲章」の理念を実現する市民団体である。』と会則にあるように、当会が「平成維新憲章」(文末参照)の理念を実現しようとしている市民団体であることは間違いありません。が、当会は「大前氏の大切な教え」を信奉するような会ではありません。
また石川さんの上げている「大前氏の大切な教え」は、ご自身が言われているように、あくまでも石川さんが考えているものであり、それが大前さんの教えかどうかも私にはわかりません。
石川さんはその一つとして「権力を批判しろ」を上げておられますが、大前さんは「いい国をつくろう」を旗印に掲げて、自ら参議院選挙に立候補されていますし、その前には東京都知事選挙にも立候補されています。平成維新の会の発足当初は、衆議院選挙で候補者を推薦し、その力によって「いい国をつくろう」とされました。少なくとも当時は、権力を握らなければ政治は変わらない、と考えておられたと私は思っています。
6.大衆迎合とのご指摘について
私が「メディアや企業や環境運動家等の権力の主張に無批判に受け入れ、そうした大衆に迎合している」とのご指摘ですが、「企業や環境運動家等」まで権力に含まれるのかどうかは疑問ですがそれはともかく、私は「無批判に受け入れ、そうした大衆に迎合している」わけではありません。
私は平成維新の会の活動に参加する前から環境問題やエネルギー問題にも興味を持っていて、それなりに情報を収集してきました。ただ、当会の活動ではこれまでそれらが前面に出てきたことはありませんので、これまであまり触れてこなかったという事実はあります。生活者通信への投稿に関連したものがないかと確認したところ、
(2008年03月号)巻頭言:道路財源を「電気」に回せ!
(2008年02月号)人工林の間伐を急げ
を発見しましたが、それぐらいでした。
これまでこれらについてあまり発信してきませんでしたので、あたかも近年の傾向に迎合しているかのように思われたのかもしれませんがそのようなことはありません。吉野さんの受賞を契機に関連番組がいろいろと放送されました。それらを見て、「やっと技術がここまで来た。さらに一押し二押すれば、もっともっと良くなる」と改めて思ったので、239号に投稿したわけです。
◎
平成維新憲章 (1993年4月11日 『平成維新の会』全国大会にて採択)
1.私達は、官僚や政治家に全て任せきりの無責任なサイレント・マジョリティにとどまることなく、 理想を語り、政策を論じ、自らの意志で代表を選ぶ真の主権者となります。
2.私達は、何から何まで政府に過度に依存する従来の受益者意識と訣別し、自由な競争と自己責任の原則に貫かれた公正で活力に満ちた社会を構成する啓発された生活者となります。
3.私達は、政界官界財界に蔓延する利権構造の温床となった中央集権システムを解体し、自立した地方が主体的に運営される真の地方自治を実現します。
4.私達は、個人を尊び、家庭を重んじ、コミュニティにおける責任を自覚し、国を愛し、世界の一員として尊敬と信頼を得るよう積極的に行動する真の国際人となります。
5.私達は、生活の質を向上させ、コストを下げることを政治の第一の課題とし、そのために規制緩和や保護主義から開放主義への転換など行政の大改革を行い、生活者主権の国を創るまで、日本全国で建設的な活動を続けます。