新型コロナウイルスのリスクについて 第2報(修正版)
東京都文京区 松井 孝司
新型コロナウイルスの感染予防
人体に対する免疫反応の観点からみると新型コロナウイルスには謎が多く、PCR検査数を増やせと主張する感染症学者や統計疫学者の意見がメデイアを賑わせているが解決策を求められている免疫学者の多くは理解に苦しみ沈黙をつづけている。
極微量のRNA遺伝子を増幅して定量する現行のPCR検査の精度は70%とされ、変異が早いコロナウイルスの病原体は分離されておらず、PCR検査は遺伝子配列を調べないので感染力のないウイルス断片の保持者も陽性として感染者に数えている可能性があり、コロナ騒動はPCR検査がつくっているとする意見さえある。
児玉龍彦東大名誉教授らの主張に従いPCR検査を増やしても治療薬、ワクチンが無い現状ではパンデミックの終息も期待できず、検査数を増やせば感染者数を際限なく増やし患者隔離のコスト負担と医療崩壊のリスクも増やすことになる。
2020年8月現在、日本国内にコロナウイルスの感染者が存在することに疑問の余地はないが最新の免疫研究から、1)回復した感染患者の一部で抗体が検出されないか、または抗体の消失が早い、2)抗体は検出されなくても感染を記憶するT細胞が存在する、3)新型コロナウイルスが流行前2015~2018年に健康人から採血した血液サンプルにもコロナウイルスを認識するT細胞が存在することなどが判った。ウイルスのたんぱく抗原に対する抗体産生を期待するワクチン開発には困難が予想されるが、免疫記憶を担うT細胞制御による新型ワクチン創製の可能性がある。
上久保靖彦京都大学教授によれば日本では2019年にインフルエンザとコロナウイルスS型の同時流行があり、2020年初頭にはK型が流行したため現在流行のG型にもT細胞による免疫記憶が成立しており「日本ではすでに集団免疫が達成できている」とする興味深い仮説を提出された。上久保教授は仮説ではないとされており、早期の都市封鎖でK型コロナウイルスを流行させなかったイタリアではS型の抗体が感染を増強させるADE(抗体依存性感染増強)現象がみられるという。無策で自然に任せたために達成できた集団免疫の有無は今後の致死率の推移が立証してくれるだろう。
(https://www.youtube.com/watch?v=hF0HBmIFWMs参照)
新型コロナウイルスのリスク対策について吉村大阪府知事が「嘘のような本当の話」として発表したポピドンヨードの「うがい薬」は判り易いためか日本の各メディアが一斉に取り上げた。医学データベースPubMedなどで検索すると幾つもの試験結果の報告があり、ポピドンヨードは0.5%の濃度、15秒の処理でコロナウイルスを不活性化し、70%のアルコール消毒より有効であることが判明している。ヨードはウイルスに付着して中和抗体のように作用するためワクチンがない現状では貴重な感染予防薬になる。
多くの批判が集中したためか吉村知事は後日の会見で予防効果を否定したのは残念であった。外用薬のため内服による治療効果は期待できないが、使い方により感染予防効果を期待できることは嘘ではないからである。
新型コロナウイルス感染症の治療
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は感染しても無症状、軽症の人が多い一方で罹患した人の中にはPCR検査で陰性になっても倦怠感、呼吸困難、頭痛、関節などの局所の痛み、臭覚障害などの「後遺症」に悩まされる人が少なくない。COVID-19の重症化防止と後遺症治療には肺や血管を損傷する免疫暴走を阻止する治療薬が求められる。
COVID-19の治療薬として米国ギリアドサイエンシズ社の「レムデシビル」が承認されたが免疫の暴走阻止には無力であり、ステロイド系免疫抑制薬「デキサメタゾン」の併用が推奨されている。ステロイド薬を安易に使用することは要注意ではあるが、安価に入手できるジェネリック医薬品、類似の作用機作と治療効果を持つステロイド製剤も多く吸入ステロイド薬「オルベスコ」が有効であった症例も報告された。
サイトカインIL-6のモノクロナール抗体「アクテムラ」にもサイトカイン・ストーム抑制による治療効果が期待されたが臨床試験の結果、有効ではなかったという。
免疫暴走で肺の血管が傷つきARDS(急性呼吸促拍症候群)、DIC(播種性血管内凝固)に陥る患者には病態に応じた対症療法が求められる。ARDSには人工呼吸器、ECMOによる治療が、DICには「フサン」(一般名ナファモスタットメシル酸塩)による治療が承認済であり、「フサン」の類薬もジェネッリク医薬品として入手できる。
重症のCOVID-19は新型の免疫疾患でもあり、過剰な免疫反応を抑制する観点から重症化予防と後遺症治療のために参考にすべきはリウマチなど自己免疫疾患の治療方法である。リウマチに有効な薬物が存在しない時代には放射性ラジウム温泉での温浴療法が繁用されていた。PubMedの文献調査によれば低線量放射線がリウマチに効く理由は人体の免疫制御にあり、制御性T細胞を活性化することが判ってきた。
20世紀の初期、治療薬が無い肺炎に対してX線による治療が試みられ有効性が確認されたが、その後抗生物質が登場し、放射線はどんなに少なくても危険と考えるLNT(直線閾値なし)仮説が定着したため免疫制御に係る放射線の臨床研究は途絶えていた。
最近になってLNT仮説が見直され世界の各地でCOVID-19の重症化予防と治療に低線量放射線療法が試みられるようになった。低線量放射線の有効性が再確認できればX線による胸部の画像診断は同時に肺炎の重症化の予防と治療にも効果が期待できるのでCOVID-19のリスク解消に貢献できる可能性がある。