「大阪都構想」より「道州制」の実現を!

 

東京都文京区 松井 孝司

 

「大阪都構想」とメデイアの偏向報道

2012年に与野党7会派の共同提案で成立した「大都市地域特別区設置法」にもとづき大阪市を廃止して4つの特別区を設置する「大阪都構想」の是非を問う住民投票が2020年11月1日に実施された。

 

都構想の背景には大阪経済の地盤沈下への危機感がある。名目府内総生産の低下に歯止めがかからず2019年に府外に転出した企業は237社もあったという。

二重行政の解消に加え、東京一極集中の是正と大阪を日本の副首都にするために大阪維新の会が10年に亙って築き上げた構想を実現するための戦いであったが既得権益を死守する与野党の抵抗勢力に負け反対多数で否決されてしまった。

 

 投票日の一週間前、10月26日付毎日新聞の「大阪市の4分割でコストが218億円増える」との報道は「大誤報」である。NHKと朝日新聞が真に受けて続報し、誤報に気づいて訂正したが毎日新聞は訂正しないまま投票日を迎えており、反対勢力と結託したメデイアによる意図的な偏向報道であった。(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/76959参照)

 

巨大メデイアの報道が地域住民の投票行動に大きく影響したことに疑問の余地はない。反対票を投じた人の多くがメデイアに洗脳され易い女性と既得権を持つ高齢者であり、大阪の未来を担う若年層や大阪市北部に居住する政治意識の高い住民は賛成票を投じたようだ。

 一貫して都構想に反対してきた公明党が衆議院大阪選挙区の議席欲しさに賛成に転じ、若干の修正を加えて住民投票実現に協力したが女性票が多い公明党支持者の意識を変えることはできなかった。

 

 誤報を訂正したとはいえNHKと朝日新聞がデータの真偽を確認もせず毎日新聞の報道に追従した影響は大きく、SNSSocial Network System)を含めフェイクニュースの安易な拡散と視聴者に迎合するTV各局の横並び報道が日本国民の考える力、問題解決力を低下させている。

 民主国家では政府よりメデイアの影響力が強く東日本大震災の福島第一原発事故に起因する「放射線の風評被害」が10年を経過した今もなお終息せず、1000個の巨大タンクにトリチウム水を溜めつづける愚策の原因は不正確な知識で放射線のリスクだけを煽る日本のメデイアの偏向報道にある。

核反応エネルギーの利用やパンデミック予防のためのワクチン開発は最先端の科学知識が求められる高付加価値の知識集約産業である。日本の高付加価値産業が欧米や中国に後れをとる理由もリスク・ゼロを求める科学音痴の政党とメデイアの報道姿勢にあり、日本産業の破壊的イノベーションを許さないからである。

 

日本のメデイアと自民党と共産党が共闘する不可解な行動の背景には天下り利権団体や公務員と巨大メデイアが持つ既得権益を死守する意図があり、改革反対勢力と結託するメデイアが攻撃したいターゲットには既得権と悪しき前例主義を否定する菅内閣も含まれているのではないか?

 

 

中央集権制を解体して「道州制」の実現を!

 大都市が行政権の拡大を求める動きは早くから始まっており、1956年に現行の政令指定都市制度ができたが、「都道府県」と「政令指定都市」は行政権が重複するので業務や施設も重複する無駄が多くなりがちで是正が求められる。

 日本経済を成長軌道に乗せるために必要となるのは大都市を分割して特別区とすることではなく広域行政による行政権の重複解消と業務の効率化であり、国と地方の行政が抱える不効率解消は今なお日本政治の未解決の課題である。

日本国憲法に三権分立は明記されておらず立法権に加え司法権まで行政権の配下にある。日本は政府と省庁縦割りの交付金・補助金漬け行政が既得権益の巣窟になり資金循環の効率を悪化させて経済の付加価値を減らし、日本経済が低迷する原因をつくっている。

 

 民主制に関する不朽の名著A.トクヴィルの「アメリカの民主政治」(講談社学術文庫、上)によれば「国民は強力な政治的中央集権なくしては、生活することはできない」としながら「行政的中央集権は、これに服従する諸民族を弱め衰えさせる」ことを指摘しているが日本の現状はトクヴィルが指摘した通りだ。

日本経済が東京一極集中になり地方が衰退し日本の国力が低下するのは行政的中央集権が機能しているからである。日本の国力低下を阻止し、国民を強くして日本全国を繁栄させるために行政の中央集権システムは解体されなければならない。

 

日本国憲法は第8章で「地方自治の本旨」という意味不明確な言葉で自治の組織と運営に関する条文を定めているが、米国から与えられた英文の憲法草案では地方自治(Local autonomy)が民主主義の普遍的な原理(The principle )であることを明記している。

 福沢諭吉はA.トクヴィルの著書からヒントを得て「分権論」を執筆し、政権(ガバメント)と治権(アドミニストレーション)を区別し、中央政府は政権を執り、地方の人民は治権を執り、互いに助け合って国家を維持することを提案している。

 地方に居住する人民の幸福を図る道路、橋脚、堤防の営繕、学校、寺社、遊園の設立を全国一様にする弊害を指摘し、「政府の手をもって自ら事を行えば結局浪費乱用の弊を免れ難し」と述べている。

 

過去30年間、日本経済が低迷をつづける間にお隣の中国が国民の可処分所得を増やす経済の驚異的な大発展を成し遂げたのは中国の中央政府が行政権を大幅に地方政府に委譲して公有企業を市場経済の競争原理に晒し、地方政府は経済開放特区でBAT(バイドウ、アリババ、テンセント)などの新興企業に自由な経済活動を許し、行政のデジタル化を推進し個人情報を活用して生産と消費の破壊的イノベーションに成功したからである。

 

行政的中央集権を解体するには中央省庁の縦割り組織と「都道府県」が持つ行政組織を解体し、地域ごとに再統合して新たに広域行政を担う「道州」を設置する構造改革、即ち地域主権の「道州制」の実現がその具体策になる。地域主権の「道州制」は行政区画をゼロベースで見直す「第二次廃藩置県」であり、明治政府が廃藩置県で確立した中央集権の組織を見直し、グローバル化する世界経済に対応する地域産業の自立振興策でもある。

 

地域産業を振興するための行政区画は「府」と{県」では狭すぎる。人口規模が500〜2000万人になるように日本国内を8〜12の「道州」に分割して地方政府とし、地域住民への行政サービスを担う行政区画は大き過ぎても小さ過ぎても効率が悪く、自治の単位は人口規模が20〜50万人になるように縮小または拡大する。

老齢化で崩壊の危機にある人口規模が1万人以下の山村や過疎地の自治体は隣接する大きな自治体に吸収または合併し、交通の便利が良く安全な場所に店舗、医院・介護施設などを備えたコンパクトでバリアフリーのスマート・シティーを築いて居住区とし、都市部の年金生活者も受け入れて消費需要を拡大する必要がある。

 

 パンデミックとなった新型コロナウイルスの大流行は国民の価値観を大きく変えるので平時には不可能であった構造改革を実現する大チャンスである。

行政の効率化は経済活動に伴うコストの低減により日本経済の付加価値を大幅に増やし、日本のGDP(国内総生産)増大に貢献する。霞が関の省庁縦割り組織と都道府県の行政組織を解体して道州制を実現し、行政組織のスリム化と行政システムのデジタル化で効率の良い電子政府と電子自治体を実現できれば長期に亙り低迷してきた日本経済を再び高度成長の軌道に乗せることができるだろう。

 

大阪維新の会は住民投票に負け行き先を失ったと論評されているが、日本国憲法の不備と行政システムの抜本的な改革をめざす賢明で信頼できる政策集団に変身し、政府組織の構造改革をめざす実行力のある政党に協力して既得権益まみれの抵抗勢力を牽制しながら政権与党となる道が残されている。