野党共闘は不発だったか

東京都小平市 小俣 一郎

 

野党共闘は失敗か

 第49回衆議院議員総選挙は、自民、公明両党で293議席を獲得し与党が大勝した。一方、立憲民主党は公示前勢力に届かず、100議席を割り込み、共産党も2議席減らすという結果になった。

そしてこれをもって、「野党共闘は失敗した」とか「不発だった」と論じられることが多いが、はたしてそうだろうか。

今回の衆院選における報道各社の事前の情勢調査や獲得議席予測は、「自民単独過半数維持は微妙」といったものから、「自公で絶対安定多数視野」といったものまでその幅が非常に大きかった。NHKでさえ、午後8時の開票速報開始の段階で自民212〜253、立憲99〜141と大きく幅をもって予測したにもかかわらずそれを外してしまっている。今回の選挙はそれほど接戦が多く、予測の難しい選挙であった。

その今回の選挙での一番衝撃的な出来事は、甘利自民党幹事長の小選挙区敗退である。甘利氏は岸田内閣誕生の立役者であり、その功績で選挙の最高責任者でもある幹事長に就任したばかりであった。その選挙の最高責任者である甘利氏が小選挙区で落選したのである。甘利氏の辞任で岸田体制は早々に見直しを迫られることになったが、もし野党共闘が実現していなければ、このようなことは起こっていなかっただろう。

その他、とりわけ注目された東京8区や香川1区でも野党共闘の候補が勝っている。このような事実から野党共闘は小選挙区では十分に機能したと評価していいのではないか。

 立憲民主党は東京の小選挙区では4議席から8議席に増やしているが、ほとんどが大接戦であり、もし野党共闘がなければ1勝24敗という結果になっていた可能性さえあった。全国的見ても、与党候補に競り負けたところも多々あったが、それでも9議席増やしているのである。ただ事前調査等で期待値が高くなっていたので敗北感が強いのは仕方ないだろう。

 

比例区では大負けしたが

 では、この野党共闘の効果が比例区にも波及したかというと、それがほとんどなかったということは立憲民主党が比例区の議席を大幅に減らしたことでもあきらかであろう。そもそも、比例区では野党は別々に戦っているわけで、それを乗り越えてプラスに作用するものはなかったということである。

 4年前は希望の党の小池代表の排除発言で立憲民主党に「判官びいき」の風が吹いたが、今回の野党共闘ではそのような風は吹かなかった。旧国民民主党等との再合流で所帯は大きくなったが、その効果も限定的で、比例区では大幅に議席を減らすことになってしまった。

 ただ、 立憲民主党は比例区で22議席も減らしていて、その数字だけを見れば確かに大敗であるが、冷静に考えれば獲得した39議席はいまの立憲民主党の支持率からすれば当然の数字とも言える。NHKの10月の政党支持率を見ても、自民党は38.6%に対して立憲民主党は8.0%であった。9月はわずかに5.5%である。その数字を考えれば、健闘したとさえ言えるのかもしれない。

 

立憲民主党内閣の姿を伝えられたか

対立軸がわかりやすい小選挙区ではともかく、なぜ比例区では風が吹かなかったのか。

今回の選挙では、自民党が大幅に議席を減らすという予測もあり、与党の危機感は半端ではなかった。それゆえ立憲民主党と共産党の違いをこれまで以上に声高に強調した。そしてそれを撥ねかえす力が立憲民主党にはなかったということだろう。

2009年の本格的な政権交代の実現で、衆院選は政権選択選挙であることが広く認知されたが、今回、一部の与党幹部はこれを「民主主義か共産主義かの選択」であるとさえ言及した。

一方、閣外協力に合意した共産党は政権交代を常に叫んだが、立憲民主党には2009年の民主党の時のような迫力は感じられなかった。

今回目指していたのは野党共闘による政権交代であるが、しかし共産党は閣外協力という国民には実にわかりにくい選択肢であった。だからこそ、立憲民主党は政権交代が実現した際の立憲民主党政権の姿をもっと広く、もっと十分に国民に伝えるべきではなかったのか。それが不十分であったことは影の内閣さえつくっていなかったことでも明らかだ。

かつての民主党は影の内閣をつくり、政策ごとに担当者を決め、与党に論戦を挑んでいた。そのようにして自分たちが政権を担ったときの姿を国民に示してきたのではなかったか。

もし影の内閣をつくっていたら、そこには当然共産党の議員は入っていないわけであり、共産党が閣外協力をする姿をより鮮明に国民に説明することができていただろう。

 立憲民主党政権の姿が国民に十分伝わらず、それに対する不安のみが喧伝され、それこそ「消去法」というかたちで票が日本維新の会に向かったのではないか。

 

国会を議論の場に戻すための野党共闘

 立憲民主党の敗北を受けて枝野代表が辞任することになったが、次の国政選挙である参議院議員選挙がおよそ半年後に迫っている。あっという間である。

 新代表選出にあたっては、野党共闘をどうするかも大きな争点になってくるかと思われるが、参院選でも1人区が32もある。それに一つでも多く勝つためには少なくとも1人区での野党共闘は不可欠である。

 参院選は衆院選と異なり、政権選択選挙ではない。それゆえ「まっとうな国会を取り戻す」「衆議院の暴走を参議院が止める」といったことを最大の争点にすることができる。

 世論調査を見ても、安倍・菅内閣の最後の4年間の暴走や金権体質には、与党支持者の中にも不満を抱く人がたくさんいる。そこに焦点を絞って、公文書を改ざんさせないための法改正等々を具体的に打ち出して野党共闘で戦えば、それなりの議席を獲得することができるのではないか。

すると参議院内の力関係に違いが生じて野党側の発言力が増し、国会の開催日を大幅に増やすこともできるのではないだろうか。それこそいまの議論しない国会を議論の場に戻すことができるのである。

 自民党の長期政権で生じた政治のゆがみの是正は急務である。しかしこれを自民党の自助努力のみに期待するのは無理であろう。

 もともと参議院にはその役割として「衆議院に対する抑制・均衡・補完の機能」が求められている。

 まずは、国会を議論の場に戻すことを最優先に、野党共闘を継続すべきである。