10増10減の先

東京都小平市 小俣 一郎

 

自民党内で反対論が持ち上がり、どうなるかと思われたが、衆議院の定数を「10増10減」する改正公職選挙法が11月18日に何とか成立した。そして12月中に施行される見通しとなった。次の衆議院選挙から新たな区割りが適用されることになる。

これで一票の格差が2.096倍から1.999倍に縮小した。 また神奈川県の議席が2つ増えることにより、大阪府より人口の多い神奈川県の定数が少ないという逆転現象も解消されることになった。その意味でも前進したことには間違いがない。

ただ、一票の格差が2倍以上に戻るのは時間の問題のようである。その原因は「各都道府県に1ずつ配分した上で、 残りを人口に応じて比例配分」しているからだ。 しかし衆議院選挙における一票の格差が2倍を超えるのはどう考えても好ましくない。いや、本来は限りなく格差を小さくするよう努力すべきだろう。

そこで、この際「各都道府県に1ずつ配分」することは止めることにしてはどうか。当面は鳥取1区と2区を合区し、鳥取選挙区とすれば、格差が2倍を超えることは防げる。

今回和歌山県の定数が3から2になったことにより、人口ランキング40位から46位までの和歌山県、山梨県、佐賀県、福井県、徳島県、高知県、島根県は、皆定数が当初の3から2になっている。現在島根県の人口は約66万人、鳥取県の人口は約54万人。鳥取全県を鳥取選挙区にすれば格差が2倍以上になるという問題は、当分は発生しないだろう。その間に改めて一票の価値の平等について根本的な見直しを行ってはどうだろうか。

ただ「地方の声が届かなくなる」という声にも一理はある。しかし、それは衆議院で対応するのではなく、参議院で対応してはどうか。総理大臣の指名等で参議院に優越している衆議院では一票の格差は限りなく小さくすべきである。

 具体的には、衆議院では鳥取県の定数を2から1にする。その代わりに参議院の合区はなくし、元の鳥取選挙区、島根選挙区に、徳島・高知についても同様に、徳島選挙区、高知選挙区に戻すのである。

 ただ、それでも参議院選挙区の一票の格差の問題は残る。

 そこでさらに、大胆に、アメリカの上院のように、47都道府県の議席をすべて定数1(半数改選なので47都道府県各2議席)にしてはどうか。そして定員が複数区から出てくる議席はすべて比例代表に回すのである。具体的には選挙区選出議員は47×2で94名。参議院の定数は248名だから比例代表選出議員は154名になる。現在が100名だから54名増えることになる。

 選挙区は各都道府県の定数をすべて1にする、という新たな制度を採り入れることにより、参議院の選挙区選出議員はまさしく各都道府県の代表となる。

 先の参議院選挙では「参政党」が新たに議席を獲得したが、比例代表の定数を増やすことにより、衆議院での議席の獲得が難しいような小さな声でも参議院では議席が獲得しやすくなるはずである。

 衆議院のカーボンコピーと揶揄されることのある参議院を、「地方の声」と「小さな声」を拾い上げる議院とすることで、その特徴とするのである。

人口の多い都道府県選出の議員は、その獲得票数の多さからその影響力も大きくなるだろう。アメリカの大統領はしばしば上院議員から転身することがあるが、参議院の選挙区選出議員こそ「将来の総理大臣候補」とみなされる時代が来るかもしれない。

もちろん、小選挙区制では基本与党系の議員が選出されるだろう。しかしそれは一概に悪いわけではない。通常は参議院の議決は第一院の衆議院の議決通りで構わないのではないか。それよりも衆議院で見落とされた問題について議論を重ね、衆議院を補完する形で、それこそ「参議院として衆議院に提案する」ことに参議院は重きを置いた方がよいのではないか。

小選挙区は時に大きなうねりを持ち込むこともある。2007年の参議院選挙での民主党の大躍進は2009年の政権交代につながった。各都道府県という大きな選挙区がすべて1人区になれば、それこそ予想できない力が働いて、オセロのように白と黒が入れ替わるかもしれない。

そしてそれは政権党の政治運営に対しての一定の影響力となり、参議院選挙に負けないためにも心して政権運営を行う、ということにつながるかもしれない。