想定外の水没

 

東京都小平市 小俣 一郎

 

今年も全国いたるところで大雨の被害が発生しているが、中でも特に驚いたのが9月8日に発生した茨城県の日立市役所での電源喪失である。日立市では災害対応の中枢を担うはずの市役所が、近くを流れる川の水があふれて浸水し、地下の電源設備が被害を受け、8日夜から9日夕まで全ての電源を喪失した。小川市長はマスコミに対して「東日本大震災を経験して災害に強い庁舎を造ったはずだが、想定外の出来事だった」とし、「構造も含めて課題があった。しっかり検証する」と述べている。

日立市では2011年の東日本大震災で震度6強を観測。いまの市役所は、そのときの震災で旧庁舎が被災したことをうけて、防災拠点機能の充実などを掲げて建て替えられたもので、2017年から使われていたという。その防災拠点として建て替えられた市役所が役に立たなかったのである。このことはあまり報道されていないが、もっともっと重大に考えるべきことではないか。

9月12日のNHKニュースを聞いていたら、総務省消防庁が去年6月に行った調査で、川の氾濫や津波の浸水が想定されるにもかかわらず、庁舎の非常用電源の浸水対策がとられてない自治体が全国で192にのぼることがわかったが、このうち7割近くの131の自治体は、費用などを理由に、今後も対策をとる予定がないと回答したという。その調査では、日立市は川の氾濫による浸水を想定していなかったためその192の自治体に含まれていない、とのことで、総務省消防庁は、調査結果以上に自治体の対策が進んでいない可能性があるとし、「災害時の拠点となる自治体の庁舎などでは、最低3日間は非常用電源が稼働し続けることが求められる。国の支援制度も活用して、早急に対策を進めてほしい」と話している、とのことだった。

自治体の庁舎はまさしく災害時の拠点である。その非常用電源への浸水対策が進んでいないというのは大問題であるが、つまりは、お金がないから対策が進んでいないのであろう。

岸田首相は、「先手先手」という言葉をよく使うが、ならば国費を強制的につぎ込んででも自治体庁舎の非常用電源の確保を、浸水対策を行うべきではないのか。

日立市役所の近くを流れる川は大きな川ではない。だから川の氾濫による浸水を想定していなかったのであろう。それが浸水した。雨の降り方はそれほどに大きく変わってきているのである。今後はこれを「想定外」とすることはできない。国が主導してしっかりと対処する必要があるだろう。

国は2021年5月に「流域治水関連法」を公布し、流域治水に舵を切ったが、それをより進展させるためには水没予定地域等を十分に補償することが不可欠であり、それにも予算がいる。地震等々も考えたら防災予算はいくらあっても足りない。それこそ、防衛費の増額を一部先送りし、「当面は防衛費増額分の半分は災害予防に割り当てる」くらいの英断を下す必要があるのではないか。