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<Vol.5>
━━━生活者通信メルマガ版━━━━平成17年3月1日 Vol.5━━

自立と共生
                  生活者主権の会 松井孝司

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「自立」の理念には「自由」が、「共生」の理念には「平等」が対
応する。政治・経済のシステムとしては「自由」には「資本主義」
が、「平等」には「社会主義」が対応する。両者をシステムとして
両立させることは難しい。

「自立」と「自由」には規制の少ない「小さな政府」が、「共生」
と「平等」には規制の多い「大きな政府」が必要とされるからであ
る。

 オランダ紙極東特派員のカレル・ヴァン・ウオルフレン氏は日本
の問題は規制が多いその「システム」にあることを鋭く告発してい
る。

 1962年以来30年近く日本に滞在したウオルフレンはその著
書「日本/権力構造の謎」と「人間を幸福にしない日本というシス
テム」のなかで、官僚独裁を批判し、日本の現実は民主主義の儀式
は存在するが、市民を欺く偽りの民主主義であることをさまざまの
事例を挙げ実証している。

 しかもその独裁は他の独裁体制と異なり、権力が一人の人間、一
つの集団に集中しない特異な無責任体制で持続していることに疑念
を持ち、そのようになった理由を日本の歴史と文化から探ろうとし
ている。

 ウオルフレンは神道や儒教の思想を考察しているが、仏教思想へ
の考察が足りないようだ。

 1500年前から日本人は無意識のうちに仏教思想の影響を受け、
敵さえも是認する仏教の「共生」の思想を持つに至った歴史を理解
する必要がある。

 矛盾を内包し、非論理的な仏教の思想や、禅問答を理解する欧米
人は皆無に等しいだろう。ウオルフレンが権力に従順で、法による
正義が機能しない「日本というシステム」を見て理解に苦しむのは
当然だ。

 聖徳太子の「17条憲法」以来、日本人は「和」の精神、仏教の
寛容の精神を尊重し、争いを避ける工夫をしてきた。大化改新にお
ける「公地公民」は、まさに「共生」を具体化した施策であり、明
治維新での版籍奉還、戦後の農地改革など激変を伴う制度改革が短
期間に実現できたのも、「共生」の思想が根付いている証拠だ。日
本人の多くは資本主義の顔をした社会主義である日本の矛盾した
「システム」に違和感を持たないのである。

 日本人が「共生」の思想を持つに至ったもう一つの理由は、日本
が海に囲まれた閉鎖系のためと思われる。不満があっても国外に逃
げることが難しいため、村八分にならないよう我慢をし、閉鎖系に
おける生存戦略として「共生」の戦略を意識することなく採用して
きたのである。

 一方、欧米や中国などは大陸の上に存在する。不満があれば簡単
に他の土地に移動できる。陸地は広く開放系のため生存戦略として
「自由」「自立」を選択することができたと見ることができる。

 中国が日本とは全く逆の社会主義の顔をした資本主義体制に変っ
てしまったのは開放系民族の当然の成り行きなのだ。国外で活躍し
ている華僑は、開放系生存戦略の生き証人だ。

 インターネットが普及しグローバル化した今日の日本も閉鎖系で
はなくなった。ヒト、モノ、金、情報は国境を超えて自由に飛び交
い、日本人も閉鎖系生存戦略では生き残ることが難しくなった。肥
大化した日本政府は返済不能の巨額の借金を累積させ、財政破綻は
目前だ。「悪平等」と「過剰規制」を是正し、「大きな政府」から
「小さな政府」へ「システム」の変更が迫られ、個人と地方自治体
は「自立」を求められている。

 しかし、「共生」の理念が不要になったのではない。地球という
閉鎖系では人類の生存戦略として重要だ。「共生」の理念は、NG
O活動や国際連合などの場で、今後ますます重要性を増すことだろ
う。

 「自立と共生」は民主党の基本理念でもある。

 1998年4月27日付の民主党のホームページには「自立した個人が
共生する社会をめざし、政府の役割をそのためのシステムづくりに
限定する『民主中道』の新しい道を創造します」と書いてある。し
かし、最近作成された民主党のマニフェストを見ると「自立と共
生」という文字は「道州制の実現」の項目に小さく記載されてはい
るが、「政府の役割をそのためのシステムづくりに限定する」ため
の具体策は見えていない。

「自立」と「共生」が両立できる「システム」を日本から発信する
ことができたら素晴らしいことである。「共生」の思想から生まれ
た「公地公民」の施策が永続できなかったのは「公=天皇」と考え
たからだろう。「公=Public」と考えれば「公地公民」の施策は普
遍性をもつ。地球上の土地は本来誰のものでもなく、全生物の共有
資源だし、人種差別の撤廃、紛争の解決、弱者の救済、少子化、高
齢化の問題も個人レベルでは解決が難しいからである。

 人間社会の土地所有をめぐる争いは、動物の縄張り争いと変わり
はない。土地の公有化は都市、街づくり計画の策定、投機バブルの
防止、環境保全のためにも有益な普遍性を持つ施策であり、国土が
狭い日本に相応しい制度である。戦後米国が与えてくれた現行憲法
の草案から土地公有化の条文が削除されたことが残念だ。

 新しい「システム」の設計には、憲法第29条に規定されるよう
に財産権の再定義から始める必要があるだろう。

 ウオルフレンが言うように「仕方がない」と我慢する時代は終っ
た。21世紀に相応しい「自立」と「共生」が両立できるシステム
の構築は主権者の意志に架かっている。国民は政治家を通し、主権
を行使する意志のあることを示さねばならない。



「著者・松井孝司氏関連のHP」
 「市民が創る日本再生のシナリオ」
   http://www2u.biglobe.ne.jp/~shimin/saisei/
 「松井孝司氏の生活者通信掲載一覧」
   http://homepage3.nifty.com/ne/ne/ma/


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