生活者主権の会生活者通信1998年03月号/08頁..........作成:2002年09月15日/杉原健児

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[リレーコラム・世相を斬る]

亡国・革命・新しい文明の創造

大田区 大谷和夫

 やや物騒な題名をつけてしまったが、日本の現状
は経済、政治共に未曾有の事態を迎えている。金融
システム不安と財政の大赤字、アジア通貨崩壊と経
済の失速、危機管理能力欠如の不安に加えて、4月
から予定されている金融ビッグバンで、現在漂流中
の日本丸は果たして難破・沈没を免れることができ
るであろうか?                
 既に53年前になるが、敗戦により大日本帝国は
滅亡した。そして米軍に占領され、その保護のもと
に新しい日本国が誕生した。長年の天皇主権から初
めて国民主権に変わったのであるから、正に画期的
な革命であった。しかし当時は東京をはじめ多くの
都市は度重なる米軍の空襲で破壊され、家も食糧も
なく、どん底の飢餓状態であり、まず最低限の衣食
住の確保、ついで産業復興から始まる経済再建が急
務であった。                 
 敗戦直後、マッカーサーが乗り込んできて、非軍
事化、民主化により日本を二度とアメリカに敵対で
きないように五大改革を指令した。即ち、男女同権
と婦人の解放、労働者の団結と組織の助長、教育の
自由主義化、圧制諸制度の廃止、財閥解体と農地解
放等であった。更に憲法の自由主義化を指示し、内
閣案が気に入らず、結局総司令部が僅か一週間で戦
争放棄・軍備完全撤廃の現在の日本憲法を作り上げ
てしまった。                 
 しかし、今になって考えてみると、肝心の行政に
対しては何ら改革せず、1940年体制のまま官主国家
を温存してしまった。と同時に衣食住の改善に夢中
で、日本人自身が文明論的な意味で歴史的使命を検
討することを怠り、折角の革命も中途半端になって
しまった。                  
 その結果経済は奇跡の復興を遂げたものの、甘え
の構造を引きずり、島国根性で伝統的国際音痴から
は脱却できず、視野狭窄症のまま一国平和主義に埋
没し、政官財民共にモラルは腐敗し、経済的危機に
も後手の対症療法に終始し、建設的な未来ビジョン
も見えてこない。これではとてもじゃないが将来に
希望がもてず、いっそこんな国は早く潰して革命を
起こし、新しい文明社会に作り直した方が余程まし
じゃないかとすら思えてくる。         
 ところで、歴史には法則なんかないというのが専
門家の定説のようであるが、古今東西の世界の歴史
を調べると、伊東俊太郎氏の「文明移転の法則」、
村山節氏の「文明興亡の法則」や「東西文明周期的
波動の法則」、深川保典氏の「集中と分散の運動法
則」などがある。紙面の都合で詳しくは説明できな
いが、過去6千年位の人類の歴史を分析すると、社
会や国家には必ず盛衰があり、その態様には一定の
パターンがある。そして何れも21世紀が世界的に
も又日本にとっても大きな転換期に当たっているこ
とを指摘している。              
 人類は過去1万年に4回の革命を経験している。
つまり農業革命、都市革命、精神革命、それに科学
革命である。科学革命は産業革命につながり、物質
文明は飛躍的に進歩した。その結果現在環境問題の
深刻化と共に情報革命が進行中である。これらの社
会的影響は想像以上に大きいと思われるので、当面
はまず情報革命に対するパラダイム・シフトが必要
である。                   
 続いて中期的にはライフスタイルと社会システム
の再構築が要請されている。短期及び中期的な戦略
目標については大前氏をはじめ既に多くの提言が出
されている。だが肝心なのはそれらの基盤となる長
期的な戦略目標ではなかろうか。        
 それは端的に言って人間の本質的な価値を実現す
る新たな文明の創造、つまり人間革命の実現である
と思う。具体的には種々二極分化してきたものの調
和・統合をはかることであろう。物質と精神、個と
全体、先進と後進、経済発展と環境保護などの調和
・統合であり、精神革命と科学革命、科学技術と人
間的価値との統合を求める人間革命の実現である。
 文明移転の法則からいえば、古くから東洋の精神
文化の伝統を受け入れ、近代には西洋の科学技術を
消化吸収した日本が、この新たな統合の課題を遂行
するのに最も適した立場にいるとも言える。又過去
専ら外国文明を輸入し、その恩恵に浴して来た日本
にとって、絶好のお返しの時がきたとも見られる。
そのためには日本人が意識を新たにして、つまり長
年の島国根性や甘えの構造から脱却し、思い切り創
造性を発揮して、究極の人間革命の実現に向けて積
極的に努力することが求められているのではなかろ
うか。                    

生活者主権の会生活者通信1998年03月号/08頁