何が政治の大きな対立軸なのか。これがハッキリ
しないことが政権交代可能な2大政党政治へ進まな
い原因だ。
私は対立軸は、国(政府)と国民との関係に視点
を置くべきと考える。国が国民を管理する国家か、
逆に国民が国を管理・チェックする国家か―――。
どちらの国家観を持つのか、これが本来の対立軸で
あるべきだ。「国民や民間を信用しない国家」VS
「国民や民間を信用する国家」という対立軸につな
がる。
【国民は管理されるべきとの現与党】
今なお、与党は、国民をきちんと管理する国がい
い国である。国には間違いがない――との意識が強
い。
野党の反対を押し切って成立させたいわゆる盗聴
法(通信傍受法)や国民総背番号制(住民基本台帳
改正法)にその思想が見て取れる。
盗聴法を制定している先進国はあるが、日本は濫
用防止、プライバシー保護が弱い。国民背番号制は、
国や自治体が把握している国民の情報を11ケタの
ID番号で一元管理される恐れがあり、その濫用防
止は心もとない。
国民を管理することに重点を置く延長線上にある
のが、中央集権制だ。
中央官庁が北海道から沖縄まで、教育から家の建
て替えまで事細かに指示を出す。果ては補助金とい
う手段で自体対に対して霞ヶ関の公共事業計画を押
し付けてくる。
経済の分野でも管理思想が抜けない。株価を税金
で支え、景気は地方公共事業のバラマキなど財政出
動によってコントロールすべきとの発想。
日本には官でもなく、純粋に民間でもない、団体
がたくさんある。特殊法人は77法人。公益法人(財
団法人、社団法人)は国と都道府県合わせて2万63
54法人(平成11年10月時点)。年間新たに 200以上
の法人が“増殖”している。株式会社という形態は
取っているものの隠れ官の要素の強い第3セクター
は3266法人(平成11年1月時点)もある。
天下り官僚の受け皿という役割とともに、これら
の団体の多くは中央官庁の支配下に置かれ、民間の
活動を指導・補完することを目的としている。背後
には民間は信用できない、管理すべきものとの発想
がある。
民間には任せ切れない、と官自らがマンション分
譲・賃貸業、銀行業、保険業、運輸など多くの産業
に進出している。公団住宅、公営住宅、郵貯・簡保、
郵便局の宅配業などである。
「国民や民間は信用できない」「国が一番信用で
きる」――。この発想では国に間違いはあってはな
らないことになる。
国と国民が争う裁判の勝率を見ると、日本は国民
が勝訴する率は一割前後と驚くほど低い。国は間違
いをなかなか認めない。
一方で国の犯す間違いは、影響度がケタ違いに大
きい。すみやかに間違いを認めなければ重大な被害
が発生する。ハンセン氏病の強制隔離政策しかりで
ある。
【国こそ国民が管理・チェックすべき存在】
政府・与党と対峙し、政権をうかがう政治勢力は、
国は間違いを犯す可能性が高いという前提を持ち、
「国こそ国民が管理・チェックすべきもの」「国民
や民間を信用する」、この観点に立脚した明確な対
立軸を持たなければならない。
まず、徹底した情報開示が必要となる。現在の情
報公開法は一歩前進だが、まだ不十分。現在、情報
開示の是非は、一義的には役所が判断するため、開
示情報は絞られる。警察の捜査情報や安全保障上の
機密、プライバシーなどを除いて完全な情報開示が
必要である。
国民背番号制の具体的運用方法、官僚天下り団体
の税金浪費、不良債権の本当の実態、機密費、危険
な食品添加物、携帯電話の電磁波による健康被害の
可能性、欠陥車に関する情報etc・・・・国が把
握している情報を包み隠さず開示することが必要だ。
そのことによって、国の運営に関して、国民1億
2000万人の脳みそが問題点をチェックできる。まさ
に国民が国を管理、チェックしていくわけだ。
現政権下では、国の基本的方向性は、政党幹部や
閣僚、財界・官界・マスコミ界の幹部など100人
に満たない脳みそ実質上決定されているのではない
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だろうか。
100人でなく、1億2000万人の目にさらして国を
チェックしていく――。より国の誤りを少なくする
道だ。
「国民が国を管理・チェックする」「国は国民や
民間を信用する」との発想に立つと官から民へ権限
・事業の委譲、経済への干渉の自粛、道州制=地方
分権など政府・自民党と異なる国のあり方が見えて
くる。
福祉も民間の力を中心に考えていく。現在、広い
意味での福祉である住宅政策として、公営住宅とい
う賃貸事業を官が実施している。官が事業主体とな
る場合、民間と比べて費用対効果が悪い。官は事業
主体からは撤退して、低所得者へは民間住宅に対す
る家賃補助として補助金を給付した方がよほど資金
は効果的に使える。福祉の分野でも民間を信用し、
活用する、という発想も必要だ。
【地方自治体の倒産制度も必要】
国が国民や民間に過度に管理・干渉しないことと
裏腹に、セーフティーネットの拡充、ルールの遵守
強化、責任の明確化などがより求められる。
セーフティーネット整備として国が、倒産、失業
などに見舞われた人に最低限、生活を確保できるよ
う対応するべきである。
ルール遵守強化として裁判制度の改革は急務。現
在、日本の裁判は判決まであまりに時間がかかり過
ぎる。1審から最高裁判所の判決まで、せめて1〜
2年で出るようにすべきである。判決まで10年以上
かかっていては裁判所が判断放棄をしたと言われて
も仕方があるまい。
国民が国を管理・チェックするという一方の対立
軸に立てば、陪審員制度の導入もどんどん進めるべ
きである。
責任の明確化という点は地方分権でも当てはまる。
地方に権限・財政を委譲するからには、自治体が放
漫経営を放置した場合、“倒産”制度などで責任を
明確にすることが重要。倒産自治体は首長交代、議
会解散など責任の取り方を明文化することも一考に
価する。
なぜ、政府・与党は今でも国民を上から管理する
スタイルを続けるのか。その背景には日本の官僚主
導がある。官僚は選挙で選ばれない。一回の試験で、
その権力が約束される。仕事に失敗しても国家公務
員法で守られ“犯罪”にならない限り身分は保障さ
れる。
日々、有権者と接して有権者に選ばれた政治家に
比べ、主権者は国民であるという意識が希薄になる
のは無理もない。
本来は政治家が官僚を指導するはずだが、日本は
逆に官僚に指導されている。制度的には官僚の人事
権は閣僚にあるにもかかわらず、なぜ、官僚は強い
のか。
【選挙マシーンを握る官僚が政治家の最大の後援者】
それは特定政治家にとって官僚が最大の後援者、
という側面があるからだ。
許認可権、予算の執行権、予算の箇所付け権を持
つ官僚が、その影響が及ぶ団体に有形・無形に選挙
への支援を要請する。その団体は選挙時には強力な
選挙マシーンとなる。特に参議院の比例代表区に立
候補する特定候補者は官僚の影響下にある業界団体
の応援で選挙戦を有利に進める。官僚の協力なくし
ては選挙に勝てない構図が日本社会にある。
再度言う、21世紀の今も官僚主導が続くのは官僚
が特定国会議員の最大の応援者だからだ。このまま
では「国民を管理する国家」「国民や民間を信用し
ない国家」のままだ。
政権交代を起こすために、まず重要なのは、先に
述べたように野党が対立軸を明確に持つこと。官僚
の影響の及ぶ組織の集票力をはるかに上回る集票ノ
ウハウを野党が持つこと。この二点が重要である。
この組織を上回る集票力をいかに持つか、答えは
ない。官僚の影響力の及ぶ組織に一切世話にならな
い決断をした上で、明確な対立軸を持ってメッセー
ジを発信し続けること、組織ぐるみでないひとり一
人の個人に支援を求め続けること、このあたりに答
えはありそうだ。
政治家ひとり一人がこのような覚悟を持った政治
集団を大きくする以外に政権交代はない。明確な対
立軸と明確なメッセージ、これが政権交代へのエン
ジンとなる。
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