著者:田中秀征
(元さきがけ代表代行・経済企画庁長官)
発行所/価格:朝日新聞社 ¥1800+税
朝日文庫版 ¥ 600+税
主な内容:
ご存知のように著者は元さきがけ代表代行で、細
川・橋本両内閣時代、首相特別補佐と経済企画庁長
官を勤め、日本の政治と行政の実態を身をもって体
験した人である。詳細は本書に譲るが、
第1章(「質実国家」の生活経済)では、南太平
洋のラロトンガ島と云う人口一万人足らずの小島が、
グローバル・エコノミーと称する開発と投機の荒波
に見舞われた悲劇的な実例から説き起こし、既に人
類は地球資源の有限性により経済成長を前提としな
い社会へ向かうべきこと、一方、ボランティア、N
PO・NGO,学生実習、地域通貨など "無償経済"
の比重を高めるべきことを熱く説く。
第2章(この国の生き方)では、一転して日本外
交が冷戦時代の対米追随の姿勢を無自覚に続けてお
り、国連安保理常任理事国への" 国際出世主義" の
ため、理念もなく、正論も主張せず、ひたすら対米
追従と多数国への人気取りに堕している姿勢を痛烈
に批判する。寧ろ、常任理事国の拒否権が国連を歪
んだ機構にしている実態とそれゆえにこそ国連の改
革が必要なことを正論として堂々と主張すべきとす
る。そして今や国連の役割は地球環境問題・汚染・
温暖化、資源・食糧・エネルギー問題、人口・健康
・貧困の問題など、地球規模で考えなければならな
い問題が山積している、と指摘する。まさに正論で
はないか。
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第3章(官権から民権へ)では、細川首相補佐官
としての経験から、本来行政は主権者への奉仕者で
あるから、主権者の代表としての政治は行政に対し
て (1)目標を与え (2)監視する、と云う役割がある
のに、日本では政治がその機能を果たし得ず、逆に
選挙の面倒・情報・政策策定まで官僚に依存してお
り、政策は官僚が実質的に決め、且つ政府や審議会
に隠れて責任は一切取らぬ、と云う異常な構造にな
っていると分析する。今回の省庁再編も外部から分
かり難い巨大組織になっただけ改悪であり、審議会
制度は今や弊害が大きく、全廃すべきと主張してい
る。斡旋利得に関し、これは情報独占、経済規制、
行政指導、許認可、補助金など裁量行政の当然の結
果であり、斡旋体質の政治家への糧道を断つ意味か
らも規制緩和、情報公開、地方分権、行政簡素化な
ど実行すべきと説く。なお、小選挙区制度への批判
も、賛否は別にして、9回も選挙を闘った経験に裏
打ちされているだけに、抽象論でない迫力がある。
最後の
第4章(新しい政治潮流)では、明治維新前夜、
高杉晋作の「功山寺の挙兵」を例に挙げ、現在の自
民党が既に統治能力を失っていること、野党にとっ
て時代の要請は、官権政治を打破し民権政治を確立
すること、経済成長・物量に代わり、心の豊かさや
安らぎ・優しさと云った価値観を大切にする「質実
国家」の実現を目指すべき、で結ぶ。
評価:部分的には異論もあるが、全体としてまさ
に "我が意を得た" と実感できる、読み応えのある
内容である。文庫版¥600と買い易い値段にもな
ったし、是非ご一読をお薦めしたい。
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