「内部告発」という言葉は暗いイメージがあって、
あまり良い印象を与えない。実際、1998年の公
務員倫理法の制定に当たって、自民党は「密告奨励
は日本社会に馴染まない」という理由で内部告発者
保護規定の盛り込みを頓挫させた。「密告」という
表現をされると誰しも躊躇せざるをえないことを見
越した見事な作戦である。
内部告発者保護法はアメリカではホイッスルブロ
ーワー・アクトと呼ばれる。ホイッスルブローワー
とは、公衆に危険を知らせるために笛を吹く警官と
か、サッカーの試合でルール違反があると、笛を吹
いてイエローカードを示して警告をする、あの審判
員などである。また他の国では接近する危険を知ら
せる監視者の意味でベル・リンガーとも呼ばれるら
しい。
イギリスではパブリックインタレスト・ディスク
ロージャー・アクトと呼ばれる。直訳すれば「公共
のための利益を公開する法」である。いずれも公共
の利益のために警鐘を鳴らすという意味であり、自
民党の言うような「密告」といった暗いイメージは
ない。日本語として、もっと適切な用語がないもの
だろうか、皆さんのお知恵を借りたいところである。
三菱自動車のブレーキ故障問題は内部告発がきっ
かけだった。最近の雪印食品の輸入肉偽装問題は厳
密に言えば内部告発とは呼べないが、下請け会社か
らの情報提供であった。このように民間企業の不祥
事・事故が世間に知れるきっかけが内部告発やそれ
に準じたものだったケースが幾つかある。これらは、
たまたま公共の利益を企業が無視することを見るに
見かねた正義感の強い人がいたからであるが、表面
に出ない同様の不正行為は、限りなくあるのではな
かろうか。良心的な人々が勇気を出して警告を発す
るのには内部告発者保護法のような法制度がぜひ必
要である。
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情報公開市民センターは、昨年の4月に情報公開
法が施行されるに際して、全国市民オンブズマン連
絡会議が母体となって設立したNPO法人である。
市民オンブズマンは「官官接待」や「塩着け土地」
「無駄な公共工事」など、地方公共団体の税金のム
ダ遣いを追及してきたグループであるが、追及する
ためには、まず、情報公開によりムダ遣いの事実を
把握しなければならない。センターの設立は、正に
中央官庁の情報を開示させるための団体である。し
かし、情報公開法にしろ情報公開条例にしろ、あく
までも公的機関の情報の公開を求めるものであり、
民間企業などはその対象に含まれていない。内部告
発者保護法は情報公開法と並んで社会の透明性を高
めるための制度面での両輪の一つである。日本では
まだこの制度への取り組みが十分とはいえない。
まず、制度面での問題がある。イギリスでは個別
的労使紛争を簡易迅速に処理する雇用審判所や被用
者の権利を総合的に保護する雇用権利法などの制度
面の整備が出来ているが日本では十分ではない。
イギリスでは公益開示法が制定されるやいなや各
企業が自主的に内部告発手続きを整備したが、日本
企業ではどうだろうか。11月末「アシア太平洋地
域における反汚職会議」(アジア開銀・OECD主
催)に参加したとき、たまたま隣に座った製鉄会社
の法務部主幹者との雑談した。彼は「わが社には不
正行為は存在しないし、内部告発は社内メールで十
分にその役割を果たしている。そんな制度が必要な
わけがない」と話していた。
今、国会議員の一部とわずかではあるが市民団体
でこの法律を制定しようとする運動が始まろうとし
ている。日本では自分のグループの利益を全体の利
益に優先させるという企業風土があり、法律の制定
には相当の抵抗があるだろう。私たち一般市民が声
を大にして活動を始めるしか方法はない。
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