このところ、韓国へ出張する頻度が多くなって来
た。韓国の景気が急速に上向いてきたせいでもあろ
う。3年前、金融危機でIMFの世話になっていた
当時10%を超えていた失業率も今では2%台にまで
下がって、特にIT関連の業種に元気の良い企業が
多い。多忙なビジネスマンが日本への出張を日帰り
でやってのける人達が居るのは今に始まったことで
はないが、次回の私のソウル行きも日帰りを強いら
れそうで、還暦を過ぎた身には少々キツい。
ソウルの町を南北に二分する大河「漢江」には23
本の長い橋が架かっており、ソウルの市民のみなら
ず、我々外国から来たビジネスマンでもソウルに滞
在中は必ず一日に1〜2往復はしないと仕事になら
ない。
もう7年ほど経つが、金容三大統領の時代にこの
中の一本「ソンスー橋」が突然落下し、たまたま朝
のラッシュアワーであった為、数台の車や路線バス
が川に落ちて26人が死亡すると言った痛ましい事故
が発生した。落ちた「ソンスー橋」は直ちに新しく
架けかえられることになったが、当然の事ながら市
民の間で「他の22本の橋は大丈夫なのだろうか?」
といった疑問が湧き上がり、政府は早速専門家から
成る調査団を編成して、これら22の橋を全部査察す
ることになった。
ところが市民の側から、「調査団が韓国人で構成
されているのなら、その調査報告内容を信頼できな
い」との大合唱が起こり、結局外国人専門家を招請
して、韓国人抜きで点検に当たってもらう事になっ
た。乏しい財政事情の中、点検作業は巨費を投じて
アメリカのコンサルタント会社に依頼、「ルーティ
ンチェック」と呼ばれる飛行機バリの点検方法で、
年に一度点検すべき箇所、月に一度見ればよい箇所、
週に一度検査を必要とするチェックポイント等が法
的にも定義づけられた。
しかも点検対象は漢江に架かる23の橋にとどまら
ず、全国の小川に架かる短い橋にまで拡大、そして
点検は半永久に続けられることになっている。危険
箇所が発見されると直ちにその橋を施工した業者に
対して役所から改善命令が出される。改善の費用は
公費で賄われているものの、業者は調査団の要求す
る改善工事を一定期間内に完了する義務を負う。
ソウル滞在中は度々運転手代わりにしてしまって
いる旧友のK君は、「韓国人が韓国人の調査報告を
信用できないのだから困ったものだよこの国は」と
自嘲気味に言う。私はそれを聞いて日本の現実を思
いめぐらせ、そして「外国人に査察を依頼する決断
と実行が出来る韓国人のほうが、面子にこだわって、
または汚点を隠すとか過小の評価値を出すために内
部調査だけで押し通そうとする日本人よりも立派だ
よ」と答えた。
菅直人さんが厚生大臣をしていた時に、役所が隠
していた薬害エイズに関する資料が白日に曝された
出来事があって以来、不徹底ながらも市民が請求す
れば情報が公開される制度になったせいもあろうが、
役所による「人の道に外れた悪行」がエンドレスに
出てきている。件数があまりに多いため、紙面の都
合上ここで一つ一つを詳しく挙げて指摘しきれない
ことと、書けば筆が汚れるような、「読むに堪えな
い噴飯もの」の羅列を余儀なくされるハメに陥る。
それらがテレビや新聞等で報道された際の『キー
ワード』の一部だけを挙げてみても、「入札妨害」
「贈収賄」「癒着」「縄張り」「馴れ合い」「闇に
葬る」「水増し」「機密費」「真相糾明」「底無し」
「族議員」「臭いものに蓋」「嘘」「トカゲのシッ
ポ切り」等々きりがない。我々はこれからもう何が
起こってもあまり驚かない。国民の多くが見馴れた
芝居の進行を見ているような「マヒ状態」に陥るこ
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とを恐れる。
中でも外務省の殆どの部署で存在していた「プー
ル金」については開いた口が塞がらなかった。しか
し間もなく「裏金」は検察庁にもあり、PTA連合
会や自治労にも蓄えられていたところを見ると、役
所又は公務員、及び準公務員の集まっている殆どの
場所に「裏金」が存在していると決めつけても大き
く間違ってはいまい。公僕によるこれら常軌を逸し
た悪質な犯罪行為の数々を、もはや「不祥事」など
といった安っぽい流行語ではリアルに表現し切れな
い。
旧約聖書の詩篇4−4に「寝床の上で自分の心に
語り、静まれ」とある。これは、「自分の行為が誰
に見られても恥ずかしくないものであるかどうか、
自分自身に問うてみよ」と云う意味で、公僕の方々
に座右の銘として採用するようお薦めしたい。
しかしこれは雪印乳業が3年前に集団食中毒事件
を引き起こした後に、グループ企業の従業員全員に
配布された社員心得の文言に似ている。雪印食品の
従業員は、「自分自身に問うてみた」上で今回の狂
牛病問題に絡んで、「偽装工作」「巧妙」「大胆手
口」「架空伝票」「詐欺」「証拠隠滅」等を謀り、
消費者と国を欺いた訳だから、公僕の方々が座右の
銘にしてくれても、腐敗の浄化作用を期待する効能
の程は定かではない。
厳正な内部調査と自浄作用が期待できない場合、
残念ながら再犯の防止を徹底するには量刑を大幅に
重くするしか方法はないだろう。そもそも日本では
反社会的な犯罪に対する量刑が軽過ぎる。特に公務
員に適用する行政処分と企業による組織ぐるみの犯
罪における量刑の甘さが目立つのではなかろうか。
1995年に発生した埼玉県警による覚醒剤事件の揉
み消しとその隠蔽問題で、決定した県警本部長に対
する処分は「警察庁長官注意」であった。警察の行
為が市民の信頼を著しく失堕させるものであっても
責任者に対して「注意」で終わるのである。かなり
悪質な内容であっても訓戒とか減俸1ヶ月等の軽さ
ではやりきれない。各地の警察署に似たような不祥
事が続発するのも不思議ではない。
交通違反に対する量刑だけは度々引き上げられ、
日本の量刑は世界でトップクラスになっていると云
ってよい。青少年の犯罪が増えてきて、犯罪者の低
年齢化が著しい。昨年刑事罰の適用年齢が引き下げ
られたことから少年犯罪は多少減るだろう。
台湾では飛行機の中で携帯電話を使用した場合最
低7年の懲役、墜落しなくても飛行機の操縦に支障
を与えた場合は死刑になるという。シンガポールで
は麻薬を 100グラム以上所持していた場合、売る売
らない、使用するしないに拘らず死刑となる。中国
では日本円で70万円以上の金品を盗んだ場合「重窃
盗罪」となり、やはり死刑が適用される。
日本もこの際刑法を大幅に改正して、公僕による
公金横領やその隠蔽等、あり得べからざる悪質な犯
罪に対しては厳罰に処すべきだ。民間の犯罪に於い
ても、消費者を欺き、社会悪をまき散らした非道な
犯罪に対しては、その企業の足腰が立たなくなるく
らいの重刑を適用すべきだ。処分を受ける当事者に
とってはその家族が路頭に迷う等、「非人道的」な
刑罰に映るかもしれないが、「人道」とは人として
の道であり、人の道に外れた犯罪を犯したものが非
人道的な罰を受けることは理に叶っている訳だから
己得まい。
K君によると韓国には「ワイロ」という言葉があ
り、日本の統治時代に渡ってきた外来語で、意味も
日本語の「賄賂」にあたり、辞書にも出ていて韓国
語化してしまっている。誠に不名誉なことで恥じ入
る次第である。
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