生活者主権の会生活者通信2002年04月号/07頁..........作成:2002年04月11日/杉原健児

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尾崎行雄翁の廃国置州論(2)

文京区 松井孝司(tmatsui@jca.apc.org)

  「学校では国民教育などと鎖国的になるような教
育を施し、事実無根な神話的歴史などを根拠にして、
この国は他の国とは大分ちがうものでもあるように、
子供の頭に吹き込んでいたことはもっての外の誤り」
であり、「どこまでも道理の通った物差し、そろば
ん、はかり、ます、これを根拠とした科学的合理主
義の精神」が世界精神であると述べている尾崎翁は
慶応義塾を中退しているが、科学的合理性を尊重す
る点で福沢諭吉翁の精神を引き継いでいるようだ。
  明治初期には国家主義にもとづく征韓論、征清論
のような強硬論がある一方で、国家主義を否定する
平和主義、国際主義の精神が厳然と存在しており、
経済的には貧しかったが、精神的には豊かで、異説
を受け入れる余裕があった。尊皇攘夷論者が開国論
者に豹変したように、強硬論を主張した尾崎翁も自
らを君子豹変させたのであろうか?              
  中江兆民は明治20年に出版した「三酔人経綸問
答」の中で洋学紳士を登場させ「地球の各部分を切
り裂き、居住民の心をたがいにわけへだてるのは、
王制ののこした禍いです。」                    
  「世界人類の知恵と愛情とを一つにまぜ合わせて、
一個の大きな完全体に仕上げるのが民主制です。」
と語らせている。洋学紳士の「民主、平等の制度を
確立して、人々の身体を人々に返し、要塞をつぶし、
軍備を撤廃して、他国にたいして殺人を犯す意思が
ないことを示し、また、他国もそのような意思を持
つものでないと信じることを示し、国全体を道徳の
花園とし、学問の畑とするのです。」「保護関税を
廃止して、経済的嫉妬の障壁をとり去り、風俗をみ
だしたり動乱を煽動するのでないかぎり、いっさい
の言論、出版、結社にかんする法令を廃止して、議
論するものには、舌の自由をあたえ、聞くものには
鼓膜の自由をあたえ、書くものには手の自由をあた
え、読むものには眼の自由をあたえ、集まるものに
は足の自由をあたえる」との主張は現行憲法の精神
そのものである。洋学紳士の発言内容は東洋のルソ
ーと言われた中江兆民の思想の一部ではあるが、こ
のような発想が明治の初期に存在したことに注目し
たい。                                        
  インターネットや交通手段の発展で、人、もの、
金、情報は国境を越えて自由に飛び交い、21世紀
の国境は殆ど意味のないものとなりつつある。日本
同様、国家の保護規制に依存する社会主義的傾向が
強いヨーロッパ諸国で狂牛病が拡大したこと、強大
な軍備を誇る米国でテロ攻撃を防止できなかったこ
と、進行しつつある地球規模の環境破壊を阻止でき
ないことなど、人々の生命財産を守る上で国家は無
力である。人々の生命と財産を守るためには、国家
の枠を超えた国際協力体制に基づく危険防止策と安
全保障システムが不可欠だ。                    
  人類の生存権を保証するためには地域分権と自己
責任による新たな世界秩序、経済秩序の構築が求め
られているのである。                          
  狂牛病の病原体プリオンの存在は脳、脊髄などの
特定臓器に限定されるため、わが国の農林省は一貫
して肉や牛乳は安全と主張してきたのに、族議員の
言いなりにことを進め、何百億円もの税金を投入し
て事実上不良在庫となった肉を国が買い上げてしま
った。しかし、この処置で安全が保障されたわけで
はない。英国では菜食主義者が発病しており、感染
経路は肉以外のところに潜在していることは間違い
ない。                                        
  日本国家が管理する郵便貯金250兆円、簡易保
険積立金112兆円、年金積立金140兆円の融資
先も心配である。融資先の財政投融資対象機関には
赤字法人や倒産状態の第3セクターがごろごろ転が
っており、融資先には民間銀行を凌駕する不良資産、
不良債権の山が累積されているのではないか?郵貯
はお金を集めるだけで貸手責任を問われないから維
持出来ているが、小泉総理が主張するように民営化
し貸手責任を問われたら即破綻となることは間違い
ない。郵貯は税金で補填しながら目立たないように
こっそり貸出しを減らし、廃止することが最善の策
だ。それが判らず国民の財産の保全を無責任な国家
に託していると裏切られるだけではなく、郵貯と無
関係な国民が政府の失策の尻拭いをさせられること
になるだろう。                                
  1400兆円といわれる国民の貯蓄はすでに大幅
に劣化している可能性があり、700兆円を超える
政府と自治体の借金は増える一方で、この借金は近
い将来実質貯蓄額を上回ることになる。「公」とい
う名の寄生虫があまりにも大きくなったため、日本
経済は税金では支えきれず沈没寸前だ。行政改革と
称して中央省庁の数を減らしたのに寄生虫の頭とも
いうべき官僚の住まい(霞ヶ関のビル群)には巨費
が投じられ拡大の一途である。                  
  官僚や族議員が税金や公的資金を使う権限を手中
にし、国民の義務に見合う権利が国民に与えられな
いような国家は無い方がよい。税金や公的資金に寄
生する「公=国家」という名の巨大な寄生虫を退治
するために、「廃国」とまで行かなくても国家機能
を大幅に縮小し、永田町、霞が関、虎の門に集積す
る寄生虫の温床を遷都(首都機能移転)により一掃
することは不可欠、緊急の課題ではなかろうか?  
  東京は知事も議会も遷都に大反対だが、遷都に抵
抗勢力は憑き物である。抵抗をそぐために明治維新
では「遷都」ではなく、「奠都」と称し、改革を実
現した。改革実現には「廃国」「遷都」に代わる新
しい表現が必要かも知れない。                  

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