1.土壌汚染の実態:高度経済成長のツケと環境対
策の遅れの結果、現在日本各地で工場跡地や廃棄
物処理場周辺土壌からの有毒化学物質・重金属汚
染が問題になっています。健康被害、不動産取引
上のトラブル、それらに伴う工事差し止めや損害
賠償問題など深刻な事件も瀕発しています。風光
明媚な別荘地も裏山に入ると、建築残土や廃棄物
のごみ山が異様な景観を呈し、得体の知れない有
毒物資が異臭を放ち、不気味な色の廃液が滲み出
している、と云う実態が日本各地で起っています。
2.「土壌汚染対策法」:このような事態への対策
として「土壌汚染対策法」が4月に衆議院、5月
に参議院で可決され、5月29日に公布されまし
た。半年以内に政・ 省令等で詳細を決め施行され
ます。しかしこの法律を精査すると、従来の無法
状態より一歩前進とは云え、多くの点で欠陥の多
いザル法と云わざるを得ない内容です。
3.環境NGO 共同声明:本法の問題点を6点に絞り
要求として整理したのが下記共同声明です。
『土壌汚染対策法案に対する環境NGO共同声明
2002年5月8日
取りまとめ団体:ダイオキシン・環境ホルモン
対策国民会議
今通常国会に、環境関連法案のなかでも最重要法
案といってよい「土壌汚染対策法案」が上程され、
今月9日に、衆議院本会議を通過し、今月末には
参議院環境委員会での審議が予定されています。
この法案は、昨今、全国各地の工場跡地等で有
害物質による土壌や地下水の深刻な汚染が、次々
と発覚している現状に対して、汚染土壌対策を講
ずることを目的としたものです。
しかし、肝腎の「汚染の未然防止の観点が盛り込
まれていない」「汚染者負担の原則が貫かれてい
ない」「汚染土壌の調査対象が限定的」「情報公
開・住民参加が不十分」など、多くの面で不十分
な内容と言わざるを得ません。
衆議院環境委員会では、野党4党が提出した修
正案が否決され、法案は付帯決議を付けたかたち
で原案通りに可決されました。付帯決議では「汚
染の未然防止」や「住民からの申し出」、「見直
し期間の短縮」などが要求されましたが、最も大
切な「汚染者負担の原則」が盛り込まれておらず、
さらに、この付帯決議には法的拘束力がありませ
ん。これに対して、私たちは実効性のある法律の
成立にむけて、以下の6項目を盛り込むことを求
め、実現に向けて国会議員、マスコミ等各方面へ
働きかけます。
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――要求6項目――
(1)本法案は事後対策法に過ぎず、土壌汚染防止法
ではない。汚染の未然防止や汚染の拡大防止など
の予防的視点を盛り込むべきである。
(2)土壌汚染調査と汚染除去等の措置を、原則とし
て土地所有者でなく汚染原因者に義務づけるとと
もに、その費用も負担させるように明記すべき。
(3)調査の対象を工場・事業場に限定せず、廃棄物
処分場等の土壌汚染のおそれがある全ての土地と
し、廃止時のみならず土地改変時や操業中の工場
・事業場にも調査を義務づけるべきである。
(4)都道府県知事の調査・措置命令について、市町
村長および住民の申し入れる権利を明記すべき。
(5)調査結果や措置内容をすべて住民に公開するべ
きである。
(6)土壌汚染に関しては未解明な部分が多いため、
早期見直しの必要があり、見直し期間は遅くとも
3年とすべきである(法では10年固定!)。』
4.野党共同修正案:これら問題点の多くは識者や
NGOがいろいろな角度から主張し、衆院では野
党4党(民主・社民・自由・共産)の共同修正案
も提出されましたが否決されました。
5.衆参両院での付帯決議:しかしこの間「国民会
議」を中心とする多くのNGO や個人(全国40以
上の団体及び100名を超す個人:「生活者主権
の会」も共同声明に参加しました)が共同声明を
発表した効果もあり、政府原案での可決に際して
衆院で14項目、参院で10項目にも及ぶ付帯決
議が併せ可決されました。
付帯決議には上記共同声明の諸点に加え、
(1)土壌汚染の実態把握が急務
(2)汚染土壌の適正処分につき「廃棄物処理法」の
見直しを含めた早急な検討
(3)作業員や周辺住民の健康被害を来さぬよう有害
化学物質・重金属類の大気への拡散防止(4)農
薬による土壌汚染の実態解明と必要な措置、など
の諸点も折込まれました。
「付帯決議」には直接の法的拘束力はありませ
んが、国会から行政への「宿題」として今後行政
施行の際配慮しなければならない、と云う政治的
責任が生ずるものです。
6.今後の課題:
付帯決議に盛り込まれた諸点が今後の行政でい
かに活かされるかの監視(関連政令・省令等への
意見具申や要望活動など)、法の早期見直し、さ
らには廃棄物処理法など関連法令の改訂運動等今
後の課題はいくらでもあります。
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