生活者主権の会生活者通信2002年12月号/06頁..........作成:2002年12月20日/杉原健児

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高速道路無料化の是非について

埼玉県所沢市 河登一郎

0.はじめに:
・岡戸氏の当会代表立候補宣言に高速道路無料化を
 提起・手始めに首都高¥100値上げ反対運動を
 開始した。これに対し松井氏は「無料化は費用対
 効果を無視する・無責任なばら撒き行政である」
 と反論(生活者通信10月号)。いずれも当会の
 理念=生活者の視点からスタートして正反対の結
 論が導かれた。どう考えれば良いのか。    
・この問題は、単に高速料金だけの問題ではなく、
 道路公団・公共事業・税制(石油及び自動車関連
 諸税:目的税か一般財源か)・公会計・民営化・
 地方分権・など・更には環境への配慮も含めた幅
 広い視点が必要だが、本稿では以下3点に絞って
 論点を整理してみたものである。       
(1)国民負担軽減の視点:          
  最大の問題は、道路需要の大小と関係なしに毎
 年巨額な予算を使うことが自己目的化し、無限に
 増殖する道路建設を如何に歯止めするか、である
 完成後の運営経費削減もファミリー企業の暴利・
 天下りを含め問題がある。          
(2)負担の公平さ・有効性の視点:      
 仮に不要不急な道路建設を止めたとしても、必
 要な道路建設がゼロになる訳ではない。    
 このコストを誰がどう負担・分担するのが公平か、
 且つ、正しい諸政策実現のために効果的か、の視
 点である。                 
(3)環境の視点:              
  これは上記とは異質の視点である。高速道路及
 び化石燃料を含む自動車文明はその利便性の反面、
 環境や健康への負荷が大きい。これを本件との関
 連で如何に考えるか。            
                       
1.国民負担軽減の視点:           
(1)現状:残念ながら、現状の道路建設は中央・ 
  地方とも政官業癒着の見本と云っても過言では
 ない。毎年何兆円もの金を食い、このままでは今
 後も増え続ける。高速道路建設の即時全面凍結が
 緊急提言される事態である。高速道路全体ですで
 に28兆円とも40兆円とも云われる巨額の負債
 があるが、公会計・ドンブリ勘定(プール制)・
 情報出し渋り・ファミリー企業等の存在のため、
 正確な把握さえ困難(!)。公正な競争原理が働
 かず、一部の「族」が不正利得を得、世界的にも
 異常に高い高速料金が課され、それでも足りず、
 つけは孫子の代にまで及ぶ。         
(2)対策案:                
 @云うまでもないことだが、「高速料金無料化」
  が「国民負担の軽減」にはならない。コスト構
  造にメスを入れ、無用な道路建設を止め、運営
  費を削減しない限り、その費用(+α)は税金
  の形で「生活者」の負担になる。      
 A不要道路建設の歯止め策の第一は民営化である。
  但し、民営化の一言で済ませられるほど問題は
  簡単でない。いくつかの問題点を指摘したい。
 ・国土交通省案の上下分離案(高速道路建設は国
  が決め、資産とする。民営化会社は建設・運営
  面を担当)では建設の歯止めにならない。官僚
  と族議員と業界がニーズに関係なく道路建設に
  邁進すると云う構図が温存されるからである。
  独立採算制にして上下一体で採算見込みの立た
  ない路線は建設しない、と云う選択肢があって
  始めて歯止め効果が生まれるのである。   
 ・一般道路は後述のように民営化になじみ難い。
  その他必ずしも採算性だけで判断できない場合
  (過疎地・離島対策、国防上の理由など)には、
  例外として税金を投入することはありうるが、
  極力限定すべきである。一般道路をどこに建設
  すべきか、は独立して重要な課題である。その
  際、数年後から始まる人口減少を考慮しないと
  がらがらの道路がまたふえる。       
 B次のポイントは受益者負担の大原則である。こ
  の点は次項で少し詳しく触れる。      
                       
2.負担の公平さ・有効性の視点:
  最近の世論を背景に不要な高速道路の建設が凍
 結・中止・縮小されたとしても、既に多くの高速
 道路は存在しているし、今後も必要な道路は作ら
 ねばならない。それには膨大な費用がかかる。そ
 れを誰がどのように負担・分担するのが公平且つ
 諸政策実現に対して有効に働くか、と云う問題で
 ある。                   
  日本の道路には大きく分けて(1)無料の一般
 道路と(2)有料道路(高速道路と一般有料道路)
 があり、内容はいろいろあるが、本稿では大雑把
 に二つに分けて考える。           
(1)一般道路:我々が日常生活で使う普通の道で
 ある。利用者は車だけでなく、自転車、歩行者、
 車椅子などいろいろあり、且つ、そこへのアクセ
 スは管理不能である(利用料金の徴収が物理的に
 不可能)。従ってこの費用は一般財源で負担し無
 料とすることに異議はあるまい。但し、例えば北
 海道の道路建設費用を九州や首都圏の納税者が負
 担するのは公正ではないし、「他人の金」では不
 要道路建設の歯止めが利き難いので、なるべく当
 該地域の自治体が資金の過半を負担するシステム
 が望ましい。このことは、地方分権の方向にも合
 致する。この考えの延長が次項の受益者負担であ
 る。                    
(2)高速道路と一般有料道路:厳密にはいくつか
 の類型はあるが、いずれも特定地域間を主として
 限られた自動車利用者が使う点で、一般道路と性
 格が異なる。このための必要経費は原則として受
 益者が負担すべき、なのである。       
 理由:@ある道路の利用者がその道路にかかる費
 用を負担するのが最も公正・フェアーであること
 に説明の必要はあるまい。本四国連絡道路の費用
 を東名道路利用者が負担したり(プール制)、関
 空道(泉佐野〜関空)の費用を山形の農民が、関
 空利用者と同じ比率で負担すること(税負担)は
 フェアーではない。A受益者負担と民営化との相
 乗効果を通じ、利用者の少ない(=採算見通しの
 悪い)道路建設に歯止めがかかるのである。B受
 益者負担原則は、高速道路に限らず、すべての公
 共料金に共通である。電気代・ ガス・上下水道・
 電話・鉄道…ごみの収集さえ有料化の方向である。
 ものやサービスの供給に伴う費用は受益者負担と
 自由競争(民営化)の二大原理を通してコストダ
 ウン努力に経済的動機づけが働き、不要・不急な
 出費に歯止めがかかる。高速道路を例外にする理
 由はない。                 
(3)無料化を主張される方は、必要経費を誰が負
 担すべきと考えておられるのだろうか?…選択肢
 としては次の3つが考えられよう。      
 @コストダウンの実現:無料化・値下げが、コス
  トダウンに直結するなら大変に望ましいことで
  ある。公団の予算消化優先・コスト垂れ流しの
  結果が高料金の主因なのだから、無料化・値上
  げ反対を主張したい気持ちは充分に共感できる。
  しかし、無料化・値下げをいくら叫んでも、コ
  スト構造にメスを入れない限り、国民負担は軽
  減されない。               
 A他人の負担:そうだとすれば、¥100(無料
  化の場合は¥700)の大半は誰か他の人が負
  担することになるだけである。他の人とは、将
  来の世代か・現代の一般納税者(地方の生活者
  を含め)か・他の高速道利用者(プール制)で
  ある。負担者を高速道路利用者からその他の人
  にシフトする為の運動では意味がない。運動を
  するなら、せめて公団コスト削減に結びつく運
  動=民営化・談合禁止・競争入札・情報公開な
  ど、高コストの原因排除の運動と併せて行わな
  ければ意味がない。            
 B石油・自動車関連税を充当:三つ目はガソリン
  税や自動車関連税の充当である。両方併せて年
  間10兆円にも上る税収の一部を充当すれば高
  速料金は無料化可能、且つ二重課税も避けられ
  る、と云う議論である。          
 ・石油/自動車関連税が高すぎることに異論はな
  い。(環境問題への配慮を別として)。   
 ・しかし、「だから、首都高速料金を無料化せよ」
  は短絡過ぎる。それは前述の受益者負担原則に
  反し、渋滞を激化させ、不公平、且つ不要道路
  建設の歯止めにもならない。        
 C正論:先ず石油・ 自動車関連税をできる限り削
  減すべきである。それぞれの税の原点に戻って
  重複課税や暫定措置の見直しなど大幅削減の余
  地はある。一方、これとは別に、無用道路建設
  中止、民営化などにより大幅に軽減されたコス
  トをその高速道路の受益者が負担すべき、なの
  である。この二つを混同して「そこに巨額の税
  金があるから」高速料金にまわせでは、形を変
  えた税食い虫が発生するだけである。二重負担
  解消のために石油/自動車税で高速料金を無料
  にすれば、今度は高速道路を利用しない人が二
  重負担を強制される不公平が生ずる。受益者負
  担が大原則たるべき所以である。      
                       
3.環境対策の視点:
(1)最後は環境問題との接点である。環境の視点
 を入れると問題は非常に複雑になる。環境対策の
 視点は当然ながら、上記の合理的・コストダウン
 優先の志向とは逆の方向(コスト増により高速道
 路需要を減らすのが目的)だからである。簡単に
 整理すると、環境対策としては次の2面がある。
 @環境負荷の大きい商品(車・石炭・ 石油・プラ
  スチック・塩ビ・防腐剤・農薬……現代生活に
  は無限にある)の価格を上げることにより、そ
  の需要を減らし、環境に優しい競合商品の供給
  を増やす。                
 A環境税などの手段を通じて行うことにより、環
  境対策費を捻出する。           
(2)環境対策として最も効果的な政策手段は環境
 税である。これはもう一つの有力な政    策手段
 であるEPR (拡大生産者責任)との相乗効果によ
 り、生産者段階での環境対    策費軽減に経済的
 動機づけを与え、最小コストで最大効果を上げる
 制度であり(環    境に優しい商品をより安く供
 給できる企業が儲かる)、さらに巨額の環境対策
 費の財源を提供する。            
   将来の方向としては、石油・自動車関連諸税の
 過半が環境税に姿を変え、無用道路建設から環境
 対策に向けられて行くことを期待したい。   
                       
4.最後に:                 
  限られた紙面なので、論じ足りない点も多かっ
 た。特に道路関係は実態が複雑な割に整理された
 資料が少なく、有料が建前の高速道や一般有料道
 路にも路線によってかなりの税金が投入されてお
 り、公会計の限界も重なって私自身も正確な数字
 を把握できていない、のが実態である。従って、
 本稿では「考え方」の整理に重点を置き、「実現
 可能性」への検討にまでは及んでいない。   
  更に、「道路公団民営化推進委:中間報告」、
 「構想日本案」、「大前研一氏案」などへのコメ
 ントもできなかった。            
  環境対策や景気・産業活性化との関連にも触れ
 たかったが、及ばなかった。         
  これほど豊富な問題を含む本件だから、一度討
 論会を行ってはどうだろうか。問題提起と論点整
 理くらいなら引き受けますよ。        

生活者主権の会生活者通信2002年12月号/06頁