◆対イラク攻撃への疑問
今年の5月と9月の訪米で感じたことですが、必
ず米国のテレビでは、どこかのチャンネルが米国の
対イラク攻撃の是非や攻撃時期についての議論を報
道していました。私はブッシュ大統領の対イラク攻
撃判断に対して大きな疑問をもっています。
ブッシュ大統領が言うように、本当にイラクが米
国や世界にとって、大きな脅威となっているのでし
ょうか。率直に言って、戦争理由は、米国人にもピ
ンときていません。なぜなら、
@悪態はつきますが、イラクが米国に攻撃をしかけ
る意志と能力はない(核兵器等の大量破壊兵器を
米国まで飛ばせる飛行機やミサイルがない)。
A一方、仮に大量破壊兵器がつくられている恐れが
高いのであれば、ピンポイントで空から攻撃をす
れば事足りる話です。独裁的で問題ありとはいえ、
民主的プロセスで選ばれたイラクの政権を「武力
で交代させる」のは、やり過ぎです。
B対イラク攻撃決定を強力に支持するのは英国くら
いのもので、中東諸国やイスラム圏をはじめ、ド
イツやフランス、ロシア、中国等は冷淡、或いは、
反対の論調が強いのです。この反対を押し切って
攻撃をすることは世界中で反米派を醸成し、将来、
米国人やその友人たち(日本等)が世界中でテロ
にあい、混乱が深くなる原因をつくってしまいま
す。(ということは、米国人を危険にさらそうと
しているのは、むしろブッシュ大統領の方である
という話になってしまいます)。
Cまた、私もイラクの罪状が書かれた米国の文書
(国連で配布)も見ましたが、CIA等のレポー
トを寄せ集めた印象が強く、テロとの関連も薄く、
「一国が他国に戦争を仕掛ける」に足る理由とし
ては正直言って弱いと思いました。(先日私が会
談したゴア前副大統領の言葉を借りれば、「説得
力はなかった」)
D今戦争を起こせば、瀕死に近づいている世界・日
本経済が、石油価格の急騰などで更なるダメージ
を負う。そもそも、6ヶ月の戦争経費(米議会予
算局が出したイラク攻撃戦費試算を基に計算)の
約6〜9兆円(米国のみ)や、イラク占領費用、
復興費用を誰が負担できるのか疑問です。
Eイラク占領後、フセイン後の親米政権?や占領軍
が対米憎悪を持った民衆の前でどこまでもつので
しょうか。米国は何らビジョンを提示していませ
ん。・・・等々です。
◆ブッシュの本音?(米国の街の噂)と建前
私の9月末の訪米で、街で聞いた話です。ブッシ
ュ大統領の本音は、
@米国の11月の中間選挙狙いであって、人々がパ
ニックに陥っている米国株価・経済急落の怒りを
何とか戦争開始で外にそらしたい、
A湾岸危機での父親ブッシュの仇を討ちたい、
Bブッシュ家というとテキサスの石油利権がいつも
噂されていますが、そういった業界への利益供与、
C戦争がないと困る軍産複合体制からの要請を受け
入れたものだった。このようにクールで批判的な
見方が一般的でした。
ただし、戦争開始の建前の主張は、さすが米国だ
と思います。
@1991年の湾岸戦争の停戦協定で、イラクは、
国家機関等が無条件で軍事査察を受けることを了
承した、
Aにもかかわらず、イラクは軍事査察を途中で拒否
(抵抗)した、
B従って、停戦協定は無効となり、イラクとは戦争
状態にもどった。そういう理屈ですが、それなり
の理屈ではあると思います。
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◆我が国の対応
私自身は、対イラク攻撃には大反対ですが、国政
を預かる政治家として、わが国の対応は微妙かつ細
心の注意が不可欠です。心情的に、フセイン政権に
味方することが日本の国益に合致するとは思えませ
ん。フセイン政権はクウェート侵攻など以前から問
題視されており、その点は、私も外交官として2年
間大使館勤務していたので良く理解しています。一
方、米国も度を超した強圧的な対応だと言わざるを
得ません。
ブッシュ氏は、米国民のみならず、多数の犠牲者
が出るイラク国民のことを考えたことがあるのでし
ょうか。また、同攻撃は、「国際紛争を武力で解決
することを放棄した」日本国憲法の基本方針にも合
致しません。
日本の対応としては、イラクに対し、あくまでも
国連安保理決議の遵守を求める一方、武力を使った
イラク政権転覆の試みへの協力に対しては、距離を
置いて慎重に対応すべきです。(元々、法的枠組み
もない) 従って、軍事協力につながる新法制定や、
戦費・占領費協力には反対です。このことは、今後
世界中に広がるであろう反米空気に実際に接すると、
その価値がよくわかることになるでしょう。
一方、同盟関係にある米国から過度に睨まれない
ように、前広に、わが国の軍事協力の限界(法的枠
組の限界、日本国内における反米感情の高まり阻止)
を米国に強調していかねばなりません。同時に、石
油価格等の急騰を抑える努力を米国や産油国等にも
求めるべきです。
特に、今、気にかかっているのは、小泉総理が北
朝鮮との交渉の中で、米国の存在が極めて重要なの
で、(このイラク問題とリンクさせて)米国に対し
て邪険な態度はとれないとばかりに攻撃を無思慮に
支持することです。これでは本末転倒です。
◆北朝鮮問題(安保理決議を採択せよ!)
私自身、小泉総理の北朝鮮訪問は歴史の新たなペ
ージを開いたということで評価しています。北朝鮮
も米国の強行策(悪の枢軸国との指定)を恐れ、ま
た食糧を中心に経済が本当にガタガタになってきた
ことに対して(最後の)日本カードを使い始めたと
思われます。
さて、拉致行為という北朝鮮の国家テロ核開発問
題は座視し得ず、わが国や地域の安全保障上の最重
要課題です。ここは、国家戦略的に考えて、米国と
緊密に連携をとりながら、国連の安全保障理事会決
議として「北朝鮮の核開発や国家テロは地域の安全
にとり大きな脅威だ」と言わしめることがとても大
切です。この点は民主党の部会でも強く主張してい
ます。これについては、中国やロシアも究極におい
ては、拒否権等の反対をし続けられないと判断して
います。そうして、世界中が北朝鮮の核開発に批判
的な態度を取り始めたときに初めて、北朝鮮は崖っ
ぷちに立たされていることに気づき、核開発を放棄
するのではないかと期待します。日本は、今、北朝
鮮との関係で強い立場に立っています。焦ったり卑
屈になる必要はなく、あくまで北朝鮮に最大限の圧
力をかけていくべき時です。現政権だけを前提にす
る必要はないとの長期的な視野に立って国益を追求
していけばよいのです。
一方、拉致問題に関しては、今度は第2次大戦中
のことを北朝鮮から切り出され、日本人の朝鮮人強
制連行問題、従軍慰安婦問題等に対する責任を問う
声が高まるでしょう。いずれにせよ、韓国との決着
方式が参考になるでしょうが、北朝鮮との交渉は息
の長い、そして極めて複雑かつ困難な交渉になりま
す。でもこれを一歩一歩進めていくしかありません。
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