今日本で議論されている「有事法制」は、有事の
際に
イ、自衛隊(軍隊)が行使できる範囲を拡大。
ロ、私権主張に制限を加える。
ハ、官民が軍隊に協力することを義務づける。
もので、日露戦争や太平洋戦争を想定したかのよう
な古典的発想、ドイツの非常事態対応システムとは
隔世の感があり、この案では再度国会に上程されて
も賛成する気にならない。
日本人はドイツ人と気質の面で共通点が多いと思
う。今の日本が置かれた現状をあまりドラスチック
に変えることなく、しかも新たな出費を極力押さえ
た形で非常事態に対応するシステムをドイツ型に切
り換えることはそれほど難しくない。以下はその骨
格を体系的に整理した私の提案である。
先ず海上保安庁を国土交通省から切り離し、独立
させて「非常事態対応省」を創設する。平時は大臣
が統轄し、非常時における指揮権は総理大臣に移管
される。大臣は直属の(A)、情報収集及び調査委
員会の報告を受け、(B)、検討委員会の判定を得
て権限を行使する。
本省の指揮を受ける部局を5つ置く。その内訳は、
(ア)軍事防衛局
今の自衛隊を半分程度に縮小してハイテク化を進
め、日頃は対空防護網の管理と大量破壊兵器への対
応に専念、PKO 、PKF 、外敵の侵略、大規模テロ対
応、叛乱、暴動鎮圧、等重火器や各種重装備の使用
を必要とする場合、及び災害時の救助作業に人的応
援を必要とする場合にのみ出動させる。(出動は非
常事態対応省の命令によってのみ決定され、石原都
知事がいかに自衛隊の出動を要請しても、出すべき
でない場合は出さないし、関西地方の首長がいかに
自衛隊嫌いでも、出すと判断されれば出動の命令が
下される。)問題は日米安保条約だ。これは早いう
ちに解消したほうが良い。日本は国連中心主義を堅
持しているのだから、外国へ人員を派遣する場合は
軍事、非軍事に拘らず、国連決議に基づき、国連旗
を揚げて出動すべきだ。
アメリカがイラクを攻撃したい気持ちはよく判る。
大量破壊兵器開発の疑惑に対し、国連の度重なる無
条件査察受入れ決議に従わないなら、かつて国際連
盟の決議に逆らって連盟を脱退、連合軍を相手に大
戦争へ突入していった日本と同様、世界中から制裁
を受けても己得ない。日本人の多くが湾岸戦争直前
に、多数の日本人駐在員とその家族がイラク政府に
拘束され、人質そして多国籍軍の攻撃をかわす人間
の盾となった歴史を忘れてしまっているかのようだ。
フセイン大統領は話し合って理解し合える相手で
はない。国益を慮る前に人類益を優先させて判断す
べきである。
国連決議に従わない国を制裁すべき点ではイスラ
エルも同様だ。イラクのみならず、イスラエルへも
制裁の国連軍を派兵すべく日本も各国を説得するこ
とに汗をかくべきだ。
(イ)非軍事防衛局
災害時の救助作業に人的応援を軍事防衛要員に求
めることが可能であることの裏返しで、軍事防衛行
動に非軍事防衛部間からの支援が必要である場面が
ある。要員と装備の輸送や物資の供給、人的・物的
資源及び労役の調達、補給路の確保等々、事態の性
質やサイズによって柔軟に対応でき得るシステムを
構築しておく必要がある。特に外国へPKOに出る
場合、戦闘要員と装備だけを派遣すれば済むケース
は極めて希で、紛争地域の正常化には、文民警察官、
土木建設チーム、医療チーム、選挙監視チーム、国
造りの行政指導官など各種の専門家を送り出す必要
がある。また継続して食糧や医薬品、各種の技術供
与を行うことも紛争地域の正常化につながる訳だか
ら、ODAの仕事は外務省から取り上げてこの部署
へ移管したらよい。
ドイツ方式を取り入れるとこの非軍事防衛局の守
備範囲は広い。非常事態に対応する業務の大半はこ
の局が中心的役割を担うことになろう。東京・ 中野
にあった警察大学校跡地への活用提案コンクールが
ある。非常事態対応要員を育成する学校にしたらよ
い。
(ウ)地方自治管理局
今の自治省をそのまま持って来て、海上保安庁に
合体させると話は早い。消防署や警察署など、住民
の身近な公的サービスに関する機能は末端の市町村
単位に隅々まで行き渡るように配置すべきだが、環
境とか水・ 食糧・エネルギーの確保やテロ・ 天災へ
の警戒・ 対応などについてはもっと広域にカバーで
きて、そして各々がもっと充実した内容のものであ
ることが肝要である。
今の海上保安庁の分掌事務が偶然にも11の管区
保安本部に分けられていることを利用して、最近呼
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ばれている「道州制への移行」運動へ呼応、全国を
11のブロックにわけて、1ブロックの平均人口を
900〜1300万人単位に編成、各ブロック毎に
1つの管区保安本部が配置されるようにアジャスト
する。11の管区保安本部は各々の置かれた事情や
環境に合わせて態勢を立てることとする。
この部署の機能を早急に充実させるため、現自治
体の既存災害対策部門の職員をこの地方自治管理局
の管轄下へ配置転換、転勤・出向させる必要がある。
各地の灯台には観測機器を追加、津波観測や不審船
・密航船の探知等仕事の幅を広げてもらわなくては
ならない。灯台守には照明機器の操作やメインテナ
ンス業務の他に、追加される装備や機器の操作も覚
えてもらわなくてはならない。この他11の自治体
単位で行われるべきアクションメニューとして考え
られる項目を挙げると、
大事故、自然災害時の救援、衛生・健康保護、文化
財保護、環境保護、介護態勢の維持、被害補償業務、
交通・通信・輸送路の確保などが考えられる。
(エ)研究開発局
悪の枢軸国のみならず、テロリストの使用兵器も
日進月歩、環境問題から来る災害、原発を始めとす
る各種の事故も我々がかつて経験したことのない人
知の予測の範囲を越える新しい形態が見られる時代
である。あらゆる災害を想定し、少なくとも公的研
究機関の多くは「市民の生命と財産を守る」方向へ
研究テーマを転換させてもらわねばならない。
(オ)民間協力推進局
非常事態が発生した際、国はそれを速やかに、正
しく市民に通報し、その被害を最小に止める方策を
アドバイスすべきだ。そして市民の自発的な協力を
呼びかけ、官民が一丸となって苦難に立ち向かうこ
とが出来るような環境を醸成してもらわなければな
らない。
ましてや常日頃から、寄附行為に課税してみたり、
NPO の結成に諸々のハードルを設けるとか、市民運
動グループによる街頭での呼びかけ活動に道路交通
法を引っ張り出してきて規制したり、政治的色彩の
臭う集会に公民館を貸さない等、補助金の支出等援
助の必要はないが、せめて役人が市民の自発的な意
欲を削ぐような行政は止めにしてもらいたい。
日本でも昔から「青年団」や、ほぼ無報酬で仂く
「消防団」の健在な町村は多い。大都市の繁華街で
は「ガーディアンエンジェルス」も活躍している。
去る8月には日本財団(曽野綾子会長)が10万人
規模のボランティア団体「海守」を発足させた。漁
業、港湾関係者や治岸住民など、地域の海を熟知し
た人達を組織し、不審船や密航密輸、密漁、不法投
棄などの情報を関係機関に通報する全国組織である。
ボランティア精神の点で日本人もまだまだ捨てたも
のではない。
いざ非常事態が発生した際に、役所と公務員だけ
で対応できるならともかく、市民の協力が欠かせな
い筈だから、各種ボランティアグループの実態を掌
握、リーダー達との情報交換、インターネットや無
線によるコミュニケーション等が常時可能な体制を
構築しておく必要がある。
新しく「省」を創設するからには多くの要員を配
置しなければならないが、是非ともトータルの公務
員と準公務員の数を増やさずに済ませて欲しい。そ
もそも日本は公務員、準公務員の数が多すぎる。国
家公務員が100万人いて、地方公務員は350万
人、それに公団や公益法人等の準公務員が150万
人で、税金から給与を得ている人の合計は600万
人。一所帯平均4人家族とすると、日本の人口の5
分の1にあたる2400万人が税金で生活している
ことになる。一人当りの人件費が年平均1000万
円だとすると、600万人の人件費総額は60兆円。
国の歳入が50兆円で、地方の税収総額が25兆円
しかない場合、歳入総額75兆円の中から公務員と
準公務員の人件費だけで60兆円が消える。残りの
15兆円で他の歳出すべてを賄うことは至難の技だ。
公務員と準公務員の数を大幅に減らさないことには、
国も地方も借金体質は永久に改善されないばかりか、
借金総額は益々増え続ける。
国家の最重要任務は国民の生命と財産の保護にあ
る。ここでいう「国家」とは公務員および準公務員
を指すと言って差支えあるまい。コンピューターを
始めとする各種事務用品や交通輸送手段が高度に発
達した現在、半分以下の人員で行政サービスの質を
落とすことなくルーティンワークをこなすことはさ
程難しくないと思う。多くの民間企業ではやってい
ることだし、公務員と準公務員は国も地方も不必要
な仕事は片っ端から切り捨てて、有能な人材を非常
事態対応省へ捻出、市民の先頭に立ち、命がけで国
民、そして人類の安全のために働いてもらいたいの
だ。 (完)
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