【まえがき】
・坪内元通産大臣の意向を受けて、税金浪費と天下
りの温床だった石油公団が廃止されることになっ
た。しかし、転んでもただでは起きない・逆に焼
け太りを図るのが官僚社会の通例である。
・先般、経済産業省が「石油公団廃止に伴う資産処
分中間とりまとめ」に対するパブリック・コメン
トを募集した。「中間とりまとめ」の要旨は(1)
巨損を抱えて廃止される石油公団のあり方を反省
し、(2)公団資産は時間をかけても最大価値で
売却(3)公団資産処理を通じて「中核企業」を
形成する。中核企業は民間企業だが、外資による
買収を防ぐ為政府が「種類株」(一種の拒否権)
を持つ(4)別途設立される独立行政法人に公団
の持っていた政策金融・開発技術支援・石油備蓄
などの機能を移す。(詳細については経産省ホー
ムページ参照)。
・以下は長年石油業務に携わっていた筆者が、一納
税者の立場で応募した「意見」である。石油公団
は仕事上接点があったのである程度具体的なイメ
ージをもって提言できたが、他の多くの公社・公
団にも共通する問題が多い。これからも機会を捉
えて「公益法人」「宗教法人」と云うラベルを貼
った「私益法人」に対しても発言して行きたい。
(一方、市民レベルのNPO =本当の公益法人は逆
にもっと優遇せねばならず、課税など制度上両者
の区別が新しい難問であり、最近では猪瀬直樹・
堀田力両氏の論争がある。これも整理してみたい
問題である。)
【意見本文】
0.はじめに:検討時間が短く、判断材料としては
「とりまとめ」と若干のマスメディアの記事だ
けなので各論を詳細に論ずるには不充分だった。
更に本件は各論以前に全体としての考え方に問
題があるので、総論としての意見を中心にした。
1.過去の失政に対する責任が問われていない。
(1)本中間とりまとめでは「多額の損失を抱えて廃
止されるに至った石油公団」による損失の前提
・範囲・評価基準など税金の浪費の実態が不明
確である。公平な第三者が客観的に評価すれば、
公団を中心とした我が国の石油開発全体では、
本とりまとめで示唆される金額の数倍の失敗が
あったと推定される。
(2)本稿の目的は数字以前の議論なので、本論に戻
ると、「戦略性のない」「場当たり的行政」に
よる「多額の欠損」という「厳然たる事実」に
対する「過去の反省」と云う表現で過去の失敗
が免責される訳ではない。
(3)過去の責任者(歴代の公団総裁、巨損を放置し
た開発諸会社社長、METI責任者など)に対して
は法を厳格に適用し可能な限り厳罰に処すべき
である。もちろん、官に依存した民にも責任の
一端はある。しかしそのことで公団の責任はい
ささかも減ずるわけではない。
国民の血税をかくも壮大に浪費した罪は、利権
目的なら云うに及ばず、仮に純粋な目的で行わ
れた業務の結果だったとしても、個人的には立
派な人物であっても、納税者に対する重大な犯
罪であるという原点を当局者はまず銘記すべき
である。
2.今後目指すべき方向は、
(1)この大失敗を繰り返さぬためには、石油公団を
中心とした悪弊を一掃することである。即ち、
無責任体質・放漫経営・依存体質・非効率・コ
スト高・天下りの温床…は理由の如何を問わず
完全に撤廃しなければならない。それが本件の
原点である。
石油ガス開発事業の戦略性・政治性・安定供給
・巨額の資金需要・研究開発支援…と云った実
態を伴わぬ一連の美辞麗句に隠れて公団体質や
利権が一部でも温存されては公団廃止の意義は
失われる。
(2)これに代って「あるべき姿」は民間企業による
自己責任が貫徹される体制である。リスク判断
はもとより、金融・技術研究開発も基本的には
当該企業の責任と判断で行うべきである。政策
金融が必要な場合があるとしても、日本国に複
数の機関は必要ない。
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3.その意味で独立行政法人が公団の業務の多くを
承継すべきではなかった。
(1)リスク対策の一つとして一定期間の備蓄義務は
それなりに効果はあるが、これを国の事業とし
て行う必要はない。石油産業に公平な基準で一
定の備蓄を義務づけることで必要且つ充分であ
る。石油業界に拒否反応があっても、公正・公
平な基準であれば競争条件は平等であり国家備
蓄の数分の一のコストを最終的には消費者が負
担することが国民経済的に最善の選択である事
に議論の余地があるとは思えない。
(2)公団廃止までのシナリオが不明確である。資産
評価最大化努力は当然だが、そのために公団の
廃止時期が遅れたり、政策判断業務が残っては
本末転倒である。公団廃止までの残務も、独立
行政法人の業務も基本的には公団業務の残務整
理のみに限定し、政策判断を要する新たな業務
はすべて排除すべきである。
既存開発会社に対する公団出資・債務保証の整
理に時間が必要な事情は想定できる。その為に
は、「金融再生機構」又は同様な民の組織に、
目的・業務・期限を限定の上、委託すればすむ。
(3)但し、この問題は既に法として決定されたこと
である。今後あらゆる機会を捉え、第二の公団
にならぬよう監視せねばならない。政治・報道
・法曹・国民及び正しい行政を含めすべての視
点からの監視が不可欠である。
4.中核企業は必要ない。その発想が有害である。
(1)複数の民間開発企業が自由な競争をすれば、結
果として中核的な企業が生まれる可能性はある。
数社の比較的有力な企業が育つ可能性もある。
しかしそれらはいずれも結果であり、その中核
(有力)企業も翌年には経営の失敗により市場
から消え去るかもしれない。かかる弾力性・活
力こそが日本経済にとって何より重要なのであ
る。固定的・政策的な中核企業の存在意義はな
い。官主導で政策的に作った中核企業や独立行
政法人が「政治判断」による投・融資の結果、
多額の赤字と負債を残し、国の責任で支援し、
失敗が糊塗され…公団の失政の再現、は許され
ない。「中間とりまとめ」でもこのような事態
は避けるべきとの趣旨の表現はあるがそのため
の制度的な裏付けはない。公団的な体質を残し
ては、いくら美辞麗句を並べても実効は保証さ
れない。
(2)石油・ガス開発が優れて戦略的な事業であると
の指摘はそれなりに正しい(もっともそれは石
油・ガスに限らず、他産業にも程度の差こそあ
れ共通だが)。しかし、だからといって、「国
が関与し、支援しなければならない」「国とし
ての資源外交が不可欠」である根拠はない。
その発想自体を変えない限り日本中の殆どの公
社・公団による失政と税の浪費と不公正は止ま
らない。
理由は繰り返すまでもなく、無責任体制・非効
率・高コスト体質であり、さらに石油危機など
の場面でも有害である可能性さえある。イラク
攻撃に日本が加担したためにアラブ諸国からボ
イコットされたと仮定した場合、公団やナショ
ナル・フラッグ・カンパニーでは対応できず
(その為にサウジに鉄道を寄付する、如き別の
浪費をせぬ限り)、複数の民間会社なら世界中
から自由に調達できる。事実、過去数回の石油
危機に際して石油の調達に貢献したのは、「1」
日本の経済力(購買力・信用力)「2」民間石
油会社や総合商社の機動力、国際交易力「3」
海外石油会社、産油国国営石油会社等との取り
引きの厚みや人的関係などの総合力であり、国
の貢献に期待する所はあまりなかった。
(3)「とりまとめ」では中核企業の構成は明確でな
いが、巷間報道されている社名で判断する限り、
非常な不自然さ・政策的な恣意を感じざるをえ
ない。かかる、行政による恣意的な運用こそが、
石油・ガス開発事業の健全な発展を妨げる元凶
である。
法的にも多くの問題が予想される。いずれ明ら
かにされる具体的内容に照らして、政治・市民
・報道・株主・法曹・さらには正しい行政を含
めた幅広い視点からの監視が不可欠だと考える。
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