1.景気の実態が悪い。細かい数字は避けるが、多
くの経済指標が実態の悪さを示している。
(1)上がることが望ましい数字は下がり:経済成
長はマイナスの世界、消費・設備投資の低迷、
生命保険予定利率引き下げ容認、企業年金切
り下げ…
(2)下げたい数字は軒並み上がっている:企業倒
産の激増、個人破産の増加、失業率上昇、凶
悪犯罪・自殺の増加…
と、惨澹たる有様である。
2. そこで政府への対策要請、特に財政出動=政府
支出増大への大合唱である。これから総選挙を睨
んでますます声高に主張されることになろう。
・懸念されることは、こういった主張が、族議員・
癒着業界・特殊法人など利権を露骨に求める面々
だけでなく、まともな政治家、学者、まじめな官
僚、マスコミ、癒着と無縁な産業界、労組、多く
の市民もそう思い始めていることである。消費・
投資の低迷で他に選択肢が残されていない、この
ままではデフレスパイラルに入り恐慌につながる
恐れ大、と云うのがその理由である。さすがに支
出対象として従来型の公共事業は見直し、もっと
国民生活に必要な分野に使うべき、と云う正しい
指摘は増えているが。
・それでも私はその動きに大反対である。非常に危
険だと思っている。以下その根拠である。
(1)現在の日本政府には公正なお金の使い方はで
きない。
・景気対策として効果を期待するなら、少なくとも
年間10兆円規模で3年は続けないと(日本商工
会議所他)、500 兆円規模の総需要には響かない。
・しかし、現在の政府がそれだけの巨費を「正しい
分野」で「公正」「公平」に「腐敗」なしで支出
できるだろうか。
・私は絶望的だと思っている。理由は単純。毎日の
新聞紙に全国版・地方版;大小を問わず、公金支
出に関する犯罪が毎日報道されていることが何よ
りも雄弁に実態を示している。
・それだけではない。形式的には犯罪でなくとも税
の浪費と私腹肥やし、という実質的な犯罪があら
ゆる分野で行われていることである。例を挙げれ
ばきりがないが、
・「福祉」という免罪符:全国の企業から徴収する
多額の雇用保険料は失業保険金の原資なのだが、
それが一件100 億円を超える超豪華な多数の研修
施設に化け、高級職員と天下り役員で経営される
ため赤字の塊になり、経営不能に陥った結果、民
間に売りに出ている。その多くが1件1,000 円で
売却されている!責任者なし!差額は税金で国民
が負担!
・「環境」という免罪符:ダイオキシン騒ぎを奇禍
として、全国の自治体で必要以上の高価な焼却炉
・溶融炉が発注されたがその多くの受注価格は予
定価格の99%を超えている。明らかな談合(官
製または官関与)である。談合でないケースでは
贈収賄で問題になった。
・「ODA」という免罪符:供与先の住民から無用
・有害な施設として日本政府が訴えられるような
使い方でも「口を利いた」議員が「3%が相場」
といわれれる斡旋料をポケットに入れる。
・そのほか、ガラガラの高速道路、船の来ない大型
港湾、必要なくなったダム・埋め立て、豪華美術
館の乱立、建物だけ立派な研究施設、なんとかセ
ンター……きりがない。
・これらは遠い自治体での大型公共事業だけではな
く、皆さんの自治体での小さい支出、例えば水道
工事・公民館・道路工事・福祉施設…でも同じこ
とが起こっているのである。
・そして補助金や各種許認可をちらつかせながら、
事実上の恫喝をこととする「高級」官僚。
・これらは例外的な悪例ではないのである。現場で
真面目に努力している職員がいることも事実だが、
残念ながらそちらが例外である。
・これが官僚制社会主義国家日本の実態である。
・恐いのは、これらの悪弊が「官僚が悪い」「政治
家が悪い」「癒着業界が悪い」で済まないことで
ある。皆さんのように例外的に真面目な市民でさ
え、その前で偉そうに話している私でさえ、この
ような場面(競争がなく・密室内で・一応の建前
はあり・お金が入る世界)が与えられれば、敢然
としてそのシステムを否定し、改革を実現できる
だろうか。別言すればまともな市民を税金泥棒に
変えるシステムが「大きい政府」である。若い頃
革新系の自治体議員として高い理念で活動してい
た人が、ここ数年福祉・介護ビジネスのウマミを
知り、競争排除のために手段を選ばず暗躍始めた、
というような例は皆さんの周囲にも多いのではあ
るまいか。
・こんな化け物のような伏魔殿に何兆円もの血税を
|
預けてまともに使って貰えると思いますか?
(2)政府には景気対策が正しいタイミングで実施
できない。
・次の問題は、仮に政府が正しくお金を使えるとし
ても、支出のタイミングがずれ、経済に対して有
害な結果をもたらす可能性が高いことである。
・この問題はやや専門的になるが、そんなに難しい
ことではない。
・不況時に政府支出をふやし、好況時に政府支出を
減らす、というケインズ政策は、景気変動の波を
なだらかにし、経済を安定成長させる、という
「知的」な政策であるが、実施のタイミングが誤
り、逆に景気変動の波を拡大する可能性が高い。
・理由は単純である。景気が悪い、政府の財政出動
が必要だ、と判断するためには正確な統計資料が
必要だが、それには早くて数ヶ月はかかる。そん
な状態が何年か続いて、ようやく対策が必要、と
の政策が決まるまでにも数ヶ月から長ければ数年
はかかる。国会での補正予算策定や法律改正・新
法制定が必要な場合もある。それから支出対象・
金額他詳細が決まるまでにもまた時間がかかる。
・一方、景気は放っておいてもいずれ自律的に変動
する。我慢して買わなかった衣類も、修理しつつ
使ってきた家電製品も車も何年か経てば寿命が来
る。新製品・新技術・好み・気象も変る。買い替
え需要もいずれ起こる。これが景気の自律変動で
ある。変動の期間は短期・長期いろいろあり正確
な予測は困難だが通常短期では5 ないし10年で
景気の次の局面に移ることが多い。
・そういう事情で、景気回復を目的とした政府支出
の増大が景気の自律回復と重なると、制御困難な
インフレやバブルを助長する(逆に景気の過熱を
抑えるための政府支出減額は…一旦増大した支出
は既得権益になって減らし難くなる弊害とは別に
…同じ理由で谷と谷が重なって今回の如く悪性の
デフレスパイラルの原因となることも多い)とい
う比較的単純な理由と歴史的な事実が何よりも雄
弁な証明である。
・経済というシステムは官僚の小手先で操作できる
ほど単純ではない。政府というシステムは景気対
策の判断も実行時期も正確には行い得ない、とい
う冷厳な事実を明確に認識すべきである。
3.どうすれば良いか。打つ手はある。
(1)まず、構造改革は待ったなし。スローガンでは
なく、具体的な内容のある改革である。
(2)今や実態は当初の建前から大きく離れ、「省益」
と「官僚権力温存」のためにのみ存在している
といっても過言ではない多くの規制は緩和では
なく撤廃しなくてはならない。これだけでも経
済は飛躍的に活性化する。
(3)財政投融資を含む政府支出は大幅に削減するこ
とである。極端に肥大化した政府機構・特殊法
人の大幅な整理が最優先課題である。
(4)これで巨額の原資ができる。その使途は、@所
得税を中心とした減税、A雇用調整など期間を
限ったソフト・ランデイング、及びB借金の返
済に充当する。
(5)社会保障は弱者保護と自己責任の両面からの見
直しが必要である。
(6)もちろん、福祉・環境などそのままでは市場経
済になじみ難く政府の果たすべき役割のある分
野はある。この分野で政府の役割を高めながら
支出の浪費を止め、効率的に実行するために欠
かせない条件がある。
@可能な限り民営化で行う:多くの「 公益法人」
が血税浪費の温床になっていることは周知の通
り。公正な競争条件の下で民営化すれば、コス
トは半減・サービスは倍増する。
A競争入札:外国企業を含む公開入札制の完全実
施。
B情報公開:不正や癒着を激減させる効果大。
C市民参加:ボランテイア・半ボランテイア志向
の市民パワー活用の意義は大きい。
D斡旋利得の全面禁止・行政訴訟支援・内部告発
者保護など制度的な後押し。
(7)これらを本気で実行すれば国民は安心する。そ
うなれば、ここ数年将来の不安に備えて抑えに
抑えてきた需要は着実に上昇する。その結果、
税の自然増収が財政赤字を大幅に改善する。
(8)かかる本格的な改革を如何に実現するか。現政
権では実現できない。小泉首相がいくら構造改
革を総論として叫んでも、上記のような既得権
益システムの構造に組み込まれており各論で事
実上骨抜きにされてしまった例を我々はあまり
にも多く見てきた。上記の改革を実行できる・
既得権益に毒されていない政権を圧倒的な大差
で実現するしかない。政権交代が実現できるか
否かも我々国民の責任である。交代後の監視も
含め、国民の責任は重い。
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