生活者主権の会生活者通信2003年12月号/05頁..........作成:2003年月日/杉原健児

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「ダイオキシンで稼いだ人々」について

所沢市 河登一郎

・生活者通信11月号の「ダイオキシンで稼いだ人々」
 (峯木貴氏)を拝読しました。この論旨は今年前
 半話題を呼んだ「ダイオキシン:神話の終焉」 
 (渡辺正著)と共通点が多いので、渡辺東大教授
 の主張もふまえ、要点を二つに絞って以下私見を
 申し上げます。               
1.「ダイオキシンの危険性は過大評価されている」
 について:                 
・同著で指摘された諸点については首肯される部分
 もありますが、素人が読んでも明らかな誤りもあ
 り専門学者の反論も多く、私には専門的(化学的
 ・疫学的)に正しく評価する充分な知見がありま
 せん。学者達の数ある論文の中から、自分に都合
 の良い部分だけを引用することは簡単ですが、そ
 れでは反論のための反論に過ぎず、責任ある主張
 になりません。               
・はっきり云えることは、           
 (1)「ダイオキシンは大した問題ではない」と云う
  主張は、引用された数字以外にもいくつかあり
  ますが(その多くは上記の著作に引用してある)、
  「ダイオキシンは極めて危険」と云う趣旨の論
  文はその 100倍もあるでしょう。云うまでもな
  く、真理は論文の多数決ではありませんが、そ
  のうちのどれが正しいのか、正確に評価するこ
  とは至難です。              
 (2)参考になるとすれば、専門家同士の冷静な学問
  上の論争です。本件については何人かの学者が
  渡辺教授に公開実験と公開討論を申し入れたの
  に対して渡辺教授は拒否されています。あれだ
  けの信念を持った主張なら、公開の場で自説を
  主張されることはその正しさを世に訴える良い
  機会だと思うのですが、それを避けるのは、そ
  の論旨が専門的には欠陥があることを推測させ
  ます。専門家の意見が常に正しい保証はありま
  せんが、真正面からの論争を避ける態度は自信
  の無さを示す根拠だと思っています。    
 (3)ダイオキシンと云う物質は、農薬や焼却などの
  化学反応により生み出された、意図せざる無数
  の有害物質の一つで、異性体も多く、人類はそ
  の全貌をまだ正確に理解していない、のが実態
  です。特に産業廃棄物の如く、あらゆる化学合
  成物質や薬品、塗料などの雑多な混合物を高熱
  で焼却すればどんな有害物質が合成されるのか、
  人間にはまだそのほんの一部しか分っていない
  ことだけは素人でも容易に想像できます。渡辺
  教授の「ダイオキシンのことはもう全部分って
  いる」と云う表現はまさに彼の限界を示すもの
  ではないでしょうか。私の長い人生で得た人間
  観察の要諦は「人間は真実に近くなるほど謙虚
  になり、権力に近くなるほど傲慢になる」。皆
  さんの身近で思い当たりませんか。     
 (4)日本の廃棄物政策が、大量生産・大量消費を 
  「善」とする産業政策の下僕のように、大量廃
  棄・大量焼却を推進することは極めて危険だと
  思っています。公害については原因と結果が具
  体的に特定できない限り「安全」と見なす現在
  の環境行政は、食品の安全性問題と併せ、すで
  に許される限界を超えていると考えます。  
2.二つ目の論点は、「ダイオキシン騒ぎを奇禍と
 して、焼却炉メーカーが無知な地方自治体へ、必
 要を遥かに超える規模の焼却炉や溶融炉を、談合
 により高く売り付けた」点です。       
 (1)この点に関しては全く同感です。主権の会の皆
  さんにはこのことに関して詳しく論ずる必要は
  ないでしょう。我々の調査でも、日本の大手焼
  却炉メーカーがほぼ同じ規模・規格の炉を台湾
  や欧米で約1/3の値段で成約している実例が
  数多く報告されています。         
 (2)ただ、これを「ダイオキシンが危険だ」と問題
  提起した学者や市民団体の責任にするのは筋違
  いです。上記著書で渡辺教授は、私が属してい
  る団体(ダイオキシン・環境ホルモン対策国民
  会議)が民主党やマスコミをたきつけて世論を
  煽り、ダイオキシン類特別措置法を制定させ、
  機械メーカー・行政・族議員の癒着のお先棒を
  担いだように報告されていますが、全く的外れ
  です。心ある学者や弁護士(多くは女性です)
  が、自分の時間を犠牲にして、手弁当で、遠隔
  地からも旅費をかけて、会費を負担し、ポケッ
  トマネーを出して将来の世代のために夜遅くま
  で議論しているのです(渡辺教授はここでも事
  実確認をせず、想像で議論を進めています)。
  その成果として「ダイオキシン類特別措置法」
  の制定に少しは貢献できたと喜んではいます。
  その他、環境省や農水省に対して情報公開請求
  を行い、食品(特に日本近海の魚類)中のダイ
  オキシン濃度分析や、化学汚染が胎児を含む子
  供の健康に与える影響も地道に研究し、複数の
  本も刊行しています。           
 (3)我々が許せないのは、環境対策を免罪符に、評
  判の悪くなったダムやハコモノに代る公共事業
  として税金の浪費を進める癒着構造であり、ま
  た、安全宣言をしてこと足れりとし問題が起こ
  るまで(起こっても)放置する行政や御用学者
  の姿勢です。               
3.最後に:ダイオキシン以外にも、諸々の環境問
  題、健康被害があることはご指摘の通りです。
  日本中で、心ある人々がいろいろな分野で必死
  にがんばっています。当会の会員の中にも環境
  問題で努力している仲間は大勢います。多くは
  は非力です。皆さんも身近な環境運動に少しで
  も協力して頂きたい、と切望します。その際、
  御用学者や癒着構造に悪用されぬよう、「小さ
  い政府」への運動も併せて行う必要があること
  は云うまでもありません。         
(ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議常任幹事) 

生活者主権の会生活者通信2003年12月号/05頁