生活者主権の会生活者通信2004年02月号/03頁..........作成:2004年01月24日/杉原健児

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一神教は何故世界宗教になったか?

文京区 松井孝司(tmatsui@jca.apc.org)

 ギリシアのポリスには多くの守護神がいたが、守
護神は多くいれば、それだけ心強いというものでも
ない。古代イスラエルの人々は多数の神々から一つ
の神を選び、氏族の守護神にしていたという。  
 ユダヤ人は全能にして唯一の絶対神ヤーヴェを独
占して、バビロニア人やローマ人によって虐待され
たが、ユダヤ教から派生したキリスト教はすべての
人々に開放され、ユダヤ教の煩瑣な戒律も緩和され
ていたため、当初の迫害にも屈することなく、ロー
マ帝国の退廃と混乱に乗じて、心の拠り所を失った
人々の間に急速に普及し、ローマ帝国の国教になる
ほど勢力を伸ばした。             
 キリスト教という一神教が広く普及したのは、教
義の内容が、利己主義という生物がもつ原理に合致
していたからである。自己だけの存在を許し、自己
以外の存在を許さない利己主義の原理は、生物に普
遍的な原理であり、分子レベルでも免疫のメカニズ
ムとして見出すことができる。         
 「一神教は利己主義の原理に基づく」ことを発見
したのはフォイエルバッハである。フォイエルバッ
ハは「キリスト教の本質」の中で「創造説はユダヤ
教の特徴的な教義であり根本教義でさえある。然し
ながら、ユダヤ教において、創造説の根底に横たわ
っている原理は、主観性の原理というより利己主義
の原理である」とし、「人間が神を世界の創造者と
なすのは、自分を世界の目的となし、世界の主人と
なさんがためである。」と述べている。     
 フォイエルバッハによれば、キリストは人類の原
像であり、人類の概念が実存的になったものである。
神性という概念は人類という概念と一致し、神学は
人間学になる。神の意識は人間の自己意識以外の何
物でもない。                 
 一神教徒は、自分が利己主義者であることをまっ
たく意識することなく、神の意志にもとづき利己主
義を堂々と実践することができるのだ。アメリカに
渡ったキリスト教徒は、インデアンが所有する土地
を手当たり次第に略奪したが、罪の意識は全く持た
なかった。自爆テロを厭わないイスラム教徒も罪の
意識はなく、同じ精神構造を持つに違いない。利己
主義は、一神教であるユダヤ教、キリスト教、イス
ラム教に共通する原理なのだ。         
 自己増殖を特徴とする利己主義は、生物の遺伝子
の組み込まれた原理であり、誰びとも否定すること
が出来ない普遍的な原理であり、これこそ一神教が
世界宗教に成り得た科学的根拠と見てよいだろう。
神の意志とは利己的遺伝子の意志だったのである。
 しかし、生物の遺伝子に組み込まれた構造は自己
増殖のメカニズムだけではない。遺伝子の構造には
自己増殖のメカニズム以上に重要な相補性の原理が
組み込まれていることを認識すべきである。   
 相補性原理は、量子力学の父ニールス・ボーアが
1927年に提唱した原理で、光が波動と粒子とい
う側面を持つように「すべての物事には外観上相反
する側面があり、それぞれの側面は互いに補い合っ
てこそ、ひとつの実在が描き出せる」というもので
ある。遺伝子を構成する核酸は、4種類の核酸塩基
の相補的構造に基づいて自己複製が行われる。生物
界に存在する動物と植物の関係、動物界のオスとメ
スの関係など、性質が相反する個体は他者と相補的
関係で結ぶことによって、個体を維持させている。
 相補性の原理こそ、生命と遺伝子を維持するため
の基本原理であり、個体を維持するだけではなく、
集団を維持発展させるためにも必要な普遍的原理な
のだ。相補性を喪失し、自己増殖だけを目的とする
個体は、癌細胞のような存在で、自己増殖を際限な
く繰り返すうちに、集団は勿論、自分自身も破滅さ
せることになる。               
 科学が立証した普遍的原理からは、誰びとも逃げ
ることができないし、無視し拒絶することもできな
い以上、現代人に求めるべきことは相補性原理を体
得して利己主義の原理を克服し、無益な争いを止め
ることだろう。                

生活者主権の会生活者通信2004年02月号/03頁