生活者主権の会生活者通信2004年02月号/08頁..........作成:2004年01月24日/杉原健児

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イラク特需も国益か?

練馬区 板橋光紀

 「自衛隊をイラクへ派遣」は現実のものとなって
きた。小泉さんはそれが「国益に適う」ことだから
と言う。口にこそ出さないが、ブッシュ大統領との
個人的な良い関係を維持、又は北朝鮮問題の解決は
アメリカの絶大な支援無しには成らないから、アメ
リカの機嫌を損ねたくないと言った計算が働いたの
であろう。それであるならば「人道復興支援」とか
「人的国際貢献」等の「美し過ぎる」言葉をあまり
多用すべきでない。ましてやアフガンやイラク問題
を「奇貨」として、このドサクサ紛れに憲法改正を
企てたり、あわよくば「防衛庁を省に格上げ」等、
「焼け太り」を計るような追加議題を出したりして
欲しくない。                 
 日本政府は1967年の佐藤内閣以来、我々貿易業界
に、共産国、要注意国、紛争当事国に向けて「ハイ
テク技術」と「武器に転用可能な物資及び部品」を
輸出することを制限している。「紛争当事国」の定
義が軍隊による戦闘及びその準備中であることを指
すならば、アメリカは1941年以来今日に到るまで恒
常的に世界のどこかしらで軍隊を動かしていた訳だ
から、過去の62年間のみならず多分エンドレスで今
後も「紛争当事国」であり続けるはずだ。不思議な
ことに日本の経済産業省はアメリカを紛争当事国の
カテゴリーに入れていない。「国益を損なうから」
を理由に安易なもたれ合いが過ぎると、日本は半永
久にアメリカの関与する紛争に付き合わされること
になりかねず、「国益に適わない」結果になり得る
ことを認識しておく必要がある。        
 「人道支援」について野党から追求され答えに窮
した場合、「日本さえ良ければいいのか?」との強
弁で返してくることがある。小泉内閣は「日本の国
民は今非常に恵まれた環境にある」と思い込んでい
るらしい。国の財政は借金地獄にあり、増税メニュ
ーと国民負担の増大は弱者虐待の様相を呈している。
賃金切り下げやリストラに多くの労働者は怯え、失
業者は400万人を超えて官民の不公平感は充満して 
いる。中小零細企業経営者や中高年の自殺者は毎年
3万人を下らない。警察や厚生労働行政の怠慢によ
り各種の社会不安が蔓延している。日本政府こそが
国民に「非人道的」な政治を行っているとは言えま
いか。                    
 アフガンやイラクの人々も気の毒だが、中東とア
フリカの問題解決には、過去にそれらの遠因を作り
出したアングロサクソンとユダヤ人が沢山居る国々、
200年もの間十字軍を派遣してきた国々、武力を背 
景に他国の国境線を勝手に引きなおした国々、途上
国に大量の武器を輸出した国々、それにオイルマネ
ーに胡坐をかいていまだに贅沢三昧に浸っている国
々が金と血と汗を出すべきではないか。日本に将来
余力ができて国際貢献できる時期が来るとすれば、
その活動地域はかつて迷惑をかけたアジアの国々に
専念すべきであろう。             
 「日本はあの地域に石油供給の90%以上を依存し
ている」もイラク派兵の根拠に使われるが、これま
た説得力に欠ける。この半年以上の間イラクの石油
輸出はほとんど麻痺したままで、テロリストによる
イラクの石油コンビナートやパイプラインの破壊は
益々激しくなっている。しかし世界の石油は引き続
き余り気味であり、すべての産油国が厳しい減産を
強いられている。大きな消費国はいずれも十分な備
蓄を抱えており、あと数ヶ月でイラクの問題は沈静
化すると思うが、たとえ更に向う半年間イラクの石
油輸出が止まったとしても大問題とはなり得ない。
ガソリンの値段が過去20年以上もリッター100 円前
後に張り付いたままで、近年大幅な値上げとなる気
配は全く無いことがそれを物語っている。    
 「国益」も「人道」も「国際貢献」も、表向きの
派遣理由が多くの国民に今ひとつピンと来ないが故
に、何か口に出せない邪な理由でもあるのではない
かと疑っているのは私一人ではあるまい。  国民の
70%以上と全野党のみならず、与党の一部からさえ
「反対」の大合唱が叫ばれている中、何が何でも押
し通そうとする「派遣」の背景には我々一般市民が
知る由もない「特別なエネルギー」が小泉内閣に強
いインパクトを与えているような気がする。   
 私は小泉内閣の「自衛隊派遣」に向けた異常なま
での執念の源にはいかなる「特別なエネルギー」が
働いているのかについて考えてみた。それは最近報
道された以下にあげる8つのニュース、それらのい
ずれもは驚天動地の大事件ではなく、メディアの扱
い方としては中型のニュースバリューでしかないも
のばかりではあったが、ジグソーパズルの要領で置
き並べてみると、ひとつのストーリーのような全体
像が浮かび出てくる。             

その1:中国が有人衛星の打ち上げに成功。   
注)財政事情の多難な折、日本はODA予算を削減
 すべき、特に経済発展の著しい、核を保有、有人
 衛星を打ち上げるほど目覚しい発展の見られる中
 国へのODAは見直すべきとの声が強い。今なお
 中国へODAが続けられていることすら理解に苦
 しむ。                   

その2:防衛庁への物品納入業者による水増し請求
    が発覚。               
注)民間による通常の商取引では想像することすら
 出来ないモンキービジネスといえる。納入業者は
 水増しした金額を国庫へ返還するよう命ぜられた
 が、返還金額が減額されていたことが判明した。
 これらの行為から防衛庁と納入業者との間に根深
 い癒着が恒常化しており、納入業者のほうが立場
 が強く、防衛庁側に弱みがあることをうかがわせ
 る。買い手より売り手の立場が強いのは防衛庁と
 自衛隊が多くのOBを天下りとして納入業者に引
 取らせられているせいだと考えられる。    

その3:アメリカでも国防総省へ納入されたガソリ
    ン代金に66億円の水増し請求があった。 
注)私の知るアメリカの軍需産業は軍関係OBの技
 術や知識を買って移籍を受け入れることはあって
 も、日本のように見返りに仕事を出す条件を付し
 て天下りさせることはない。アメリカでは軍事費
 で66億円もの水増し請求といった巨額の血税浪費
 が発覚すれば癒着の当事者の中でも特にペンタゴ
 ンの担当者は国賊か売国奴扱いされる。そんなハ
 イリスクがあるにもかかわらず不正が行われる背
 景には納入業者の立場がかなり強いことが想像で
 きる。それはたいていの軍需産業が要人やロビー
 イストに出す多額の献金のせいであろう。   
その4:ブッシュ大統領はCPA 連合国暫定当局によ
    る復興事業の受注を人的貢献のあった61カ
    国に限定。              
注)イラク復興事業は当面、石油プラント、電気、
 ガス、水道、道路、病院、学校建設等で、総額18
 6億ドルの土建事業の数々になるものと思われる。
 湾岸戦争の際は1 兆4 千億円も拠出したにも拘ら
 ず、人的貢献をしなかったが故に日本はカヤの外
 に置かれて「仕事」にありつけなかった。今回の
 イラクへは自衛隊を派遣することによって物品納
 入や役務受注の入札に参加でき、日本の土建は価
 格はともかく、戦時入札に重要視される品質と納
 期の点では競争力が強いから多分拠出した金額を
 大きく上回る仕事量を獲得できるだろう。幸か不
 幸か連合軍がイラクで破壊したサイズが大きけれ
 ば大きいほど日本企業が受注する仕事量が多くな
 る可能性がある。              

その5:今回のイラク戦争では米軍によって劣化ウ
    ラン弾が使用された。         
注)旧ユーゴスラビアのPKO に参加した兵士たちに
 体調不良が広がり、癌や白血病、子孫に奇形児が
 発症することから、劣化ウラン弾との因果関係が
 米軍はもとよりNATOやEUで調査されている。調査
 結果が近々まとまり、近い将来米軍は在庫してい
 る劣化ウラン弾を使用できなくなる可能性がある。
 あらゆる兵器は日進月歩しており、砲弾には誤爆
 率と不発率の絡む有効期限があることから、早め
 に古い兵器を一掃して常に最新兵器を保有する形
 になる必要があり、劣化ウラン弾の早期使用を含
 めてアメリカはイラクへの攻撃を急いでいたと思
 われる。アメリカの戦闘開始が早すぎた為、日本
 政府は議論と手続き不十分のまま自衛隊派遣を迫
 られる羽目に陥った。            

その6:アフガン特措法の指定する期限が来て、海
    上自衛隊の帰還が延期された。     
注)新期限内にアフガンの情勢が決着しなければ再
 延長を持ち出してくるに違いない。イラク復興支
 援は2004年12月まで続けられることになっている
 が、多分イラクの復興支援も延々と続けられるこ
 とになるだろう。              

その7:日本政府は12月22イラク南部のサマワで 
    ODAを実施する方針を固めた。    
注)今回1100人の自衛隊員をイラクへ派遣するため
 の費用として242 億円が2003年度の予備費から支
 出されることになった。差し当たりイラクで必要
 となる資材の調達品目はエアコン、防弾チョッキ、
 隊員の食糧及び生活関連物資、医療器、衛生用品、
 鉄条網、C130輸送機の防護用装備である。2004年
 12月以降も引き続きイラクへ駐留することになる
 場合はその活動費用は防衛予算から支出されるこ
 とになる。巨額にのぼると思われるODA の実施は
 比較的小さな額で済む派遣費用とは別予算で、日
 本から拠出を約束した15億ドルの一部が当てられ
 る。品目は、医療機器提供、学校建設、貧困者向
 け住宅の建設等が考えられるが、先々は対象要目
 が各種土木事業に及んで大きく膨らんでくるもの
 と思われる。                

その8:12月27日バグダッドの南カルバラで武装勢
    力による大規模な攻撃があり、タイ軍兵士
    2名が死亡した。           
注)タイは被援助国で、他国の復興に出る立場には
 ないとの批判は最初からあがっていた。しかしタ
 イ政府は12月28日イラク復興活動の継続を表明し
 ている。CPAによる食糧調達入札の「コメの部」
 ではタイが圧倒的に強く、膨大なコメの累積在庫
 を一掃したい一念からきているのであろう。  
                       
 戦後アジア諸国に対する戦時賠償が金銭の支払い
によってなされず、主に道路整備や橋梁建設、病院、
学校、慰霊碑建設等の役務賠償の形で行われた。と
ころが賠償を取り仕切る外務省とゼネコンを始めと
する大手企業の間に癒着が生じ、外務省を含む中央
官庁OBが大手民間企業へ天下りする事例が顕著と
なった。このことから、賠償をすべて完済し、役割
を終えた筈の「役務賠償業務」は「ODA」に名を
変えて継続され、ほかの先進諸国によるODAが主
に金銭やソフト面の提供によってなされる中で、日
本のODAだけがあいかわらず「土建」主流になっ
ている。しかも財政事情の多難な中、日本のODA
総額が最近まで裕福の絶頂にあるアメリカを抜いて
トップの座にあり続けていた不可解な現実もここに
理由がある。                 
 中国へのODA打ち切りは時間の問題だ。財政多
難の折、ODA予算の大幅縮減は避けられなくなっ
てきた。高速道路もダムもますますやりにくい環境
下にある。公共事業を仕切る役所と利権を漁る政治
家や、主に役所から出される仕事で企業を運営し、
多くの官僚OBの天下りを受け入れてきた企業と、
少しは軍隊らしい活躍の場を得て世間から認知して
もらいたかった自衛隊、それに国粋主義者とナショ
ナリズムを煽る人達の利害が「イラクで一致」した
訳で、「渡りに舟」だったのだ。        
 先遣隊の出撃に時を同じくして、貿易業界やゼネ
コンを始めとする入札参加常連大手企業の中にも、
社員を復興活動の兵站基地となるクエートやヨルダ
ンへ派遣するところが増えてきた。日本の駐在員達
はCPAと自衛隊と外務省の三者から各々別々に出
る入札に速やかに対応するため、手ぐすね引いて待
ち構えているに違いない。小泉さんの自衛隊イラク
派遣に掲げた錦の御旗に刻まれた「人道」や「国際
貢献」は「三分の理」でしかなく、残りの「七分」
を占める復興支援のシナリオが「国益」という名の
「海外土建特需」を目論む「特別なエネルギー」に
後押しされた「経済効果」にあったとすれば、復興
の使命感に燃えて出動する自衛官の方々には誠にお
気の毒。これらを私の穿った見方と笑う読者は多い
かもしれない。                
 私自身も「偏屈者の杞憂」であって欲しいと願っ
ている。                   






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