生活者主権の会生活者通信2004年03月号/06頁..........作成:2004年03月14日/杉原健児

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地方自治法244条改正とその影響
……公施設の運営が民営化される……

埼玉県所沢市 河登一郎

1.志木市の実験:              
・生活者通信2004年1月号で板橋さんが志木市の行
 財政改革に関して素晴らしい報告をされた。  
・多くの自治体が中央依存の非効率な行政を続けて
 いる中で、志木市長穂坂氏が推進中の改革は括目
 に値する。行政改革の原点のような魅力的な構想
 が数多く採用され、(「行政パートナー」:行政
 実務のNPO委託、「市民委員会」:公募市民に
 よる調査・研究・提言、「第三者機関」:行政と
 市民協力による評価・監視組織など)実行に移さ
 れている!                 
・ただ、あまりにも思い切った構想だけに、否定的
 な意見もある。既得権益にあぐらをかいてきた人
 々(行政自身・市議会議員や労働組合の一部・癒
 着業者など)の拒否反応は当然予想されるとして
 も、真面目な改革派の中にも、行政実務を素人の
 市民がボランテイア・ベースや時給700 円でやる
 と、コストダウン効果はすぐ見えるにしても、プ
 ライバシー保護、行政の専門性や公共性の維持な
 どの面で問題が残るのではないか、と云う懸念で
 ある。                   
  しかし、行政の裏まで知り尽くした穂坂市長の
 明快な方針と市民の協力により、これら諸点にも
 配慮されており、予想以上に順調に進捗している
 ようである。                
・どんな改革にも問題は伴うが、方向は正しいのだ
 から、問題点をあげつらうのではなく、前向きに
 試行錯誤を続けて頂きたい、と思っている。  
                       
2.凡庸な自治体では:            
・最近このように、改革に意欲的な首長があちこち
 で誕生している。志木市や長野県は有名なケース
 だが他にも面白い実験をしておられる自治体がふ
 えて来てはいる。しかし、全体から見ればほんの
 一握りの例外でしかない。          
・長野県や志木市のように卓越した首長のいない、
 凡庸な自治体は救えないのか。        
                       
3.地方自治法244 条の改正:         
・もっと広範囲な影響ををもたらす制度として、最
 近私が注目しているのが、昨平成15年6 月の地方
 自治法244 条の2改正に伴う、「公施設運営の指
 定管理者制度」(民営化)である。      
・改正前の地方自治法では、自治体公営の諸施設の
 運営は自治体職員または公法人職員が当たらなけ
 ればならないことになっていたのだが、改正後は
 一括して民間委託して良いことになった。その背
 景には、どうにもならなくなった財政危機がある。
 国も自治体も大赤字・大借金で、交付金・補助金
 も今後ジリ貧・激減が予想される中で、金食い虫
 だった上記のような公施設の運営を、この改正に
 より民間委託する方向に一斉に走り出したのであ
 る。今後、全国で大きなうねりになる予感がする。
・既に多くの自治体で、「指定管理者制度」に関す
 る条例を策定し、公営の地域センター、図書館、
 保育園、体育館、斎場、美術館、公民館などの運
 営を指定管理者という形で民間委託する方法が始
 まっている。一定のガイドラインの下で運営につ
 いては受託団体(企業でも、NPO 法人でも、法人
 資格のないNPOでも可能)が自主的に行って良
 い。通常、自治体が一定の委託料を支払うことに
 なる。(それでも、従来の官営に比べればコスト
 の大幅ダウンが期待される)。        
・その効果として期待されることは(1)大幅なコ
 ストダウン、(2)サービスの向上(私は「コス
 ト半減;サービス倍増」の可能性を秘めていると
 思っている)及び(3)NPO 活動の場と主婦や中
 高年層の雇用拡大である。          

4.懸念される点もいくつかある。       
(1)受託先選定が公平に行われ、公正な競争のメ
   カニズムが働くか否か:         
・所沢市の実例で云えば、選定手続きは@まず行政
 事務局が一定の基準で候補を絞りこみ、A市長が
 決定し、B議会が承認する。C入札は行わない。
 当然想像されることは、行政・特に首長と特別な
 関係にある団体が受託者になるケースであり、期
 待されたメリットが生まれず、逆に行政・特に首
 長の権限が強化されること・形を変えた癒着が生
 ずる可能性である。官営の弊害を除くための民営
 化が民営化先選定の段階(ここまでは官の分野だ
 から)で歪められる可能性は小さくない。   
・この弊害への対策は、@情報公開:説明するまで
 もない。指定委託制度を決める条例の中に明文で
 織り込むことである。A一定の資格要件を前提と
 した入札、B住民参加:選定・評価・監査に際し
 ては、志木市のような公募市民を中心とした組織
 を活用するなど行政だけの恣意を極力排除する工
 夫が不可欠である。             
(2)「安かろう・悪かろう」の弊害:     
・コストダウンの面だけが強調されると、「安かろ
 う・悪かろう」の弊害も充分考えられ、行政サー
 ビスが公共性の維持やプライバシー保護を含め逆
 に低下する可能性も否定できない。現にいくつか
 の自治体で、住民同志が2 派に分かれた紛争が始
 まっているケースもある。          
・かかる事態を避けるためにも、情報公開と住民参
 加が不可欠である。             
(3)かくして節約された財源の使途である。  
・ややもすると、浮いた財源が別のハコモノや開発
 に向けられる恐れがある。財政難を理由に削減方
 向にある福祉・環境・教育或いは減税に充当しな
 ければ意味がない。ここでも住民の監視が不可欠
 である。                  
                       
5.以上の如く、この制度は運用のよろしきを得れ
 ば凡庸な首長の下でも自治体財政改善・行政改革
 の救世主になる可能性を秘めてはいるが、両刃の
 刃でもある。住民の問題意識の高さが問われる。
  皆さんもそれぞれお住まいの自治体での動きを
 チェックされ、NPOとして前向きに取り組まれ
 ること及びそれと併せて上記問題点を厳しい目で
 評価・監査することをお勧めしたい。     
  私は、当会の活動として、「首相公選制」「道
 州制」や「憲法問題」など、大上段に振りかざし
 た大テーマを追いかけることもさる事ながら、こ
 ういった身近で具体的なテーマへの取り組みも極
 めて重要だと思っている。          

生活者主権の会生活者通信2004年03月号/06頁