1.H16年1月14日、最高裁で「平成13年参議院選
挙における一票の格差と非拘束名簿式比例代表制
に関する違憲訴訟」に対する最高裁の判決が下さ
れた。
2.結論は両訴えとも「棄却」。即ち、選挙区によ
って一票の価値に5倍もの差が生じても、それは
「立法権の裁量」の範囲内だから違憲ではない、
という従来からの最高裁判決を変えるには至らな
かった。
ただ、今回の判決では違憲と判断した6名の厳
しい意見に加えて、合憲と判断した9名の裁判官
の中4名も、「次回も現状のままなら、違憲判断
になる余地あり」との意見を付したことが特筆さ
れ、今後の展開に期待が持てる結果となった。こ
の点については後記4、に詳述するが、その前に
今回の訴訟の内容をもう一度簡単に要約してみる。
3.訴状の要約:
(詳細は、生活者通信2001年4月号参照)
(1)一票の格差:平成13年7月に行われた参院選挙
では、人口最大の東京都(人口147万人で議員一人
しか出せない)と最小の鳥取県(31万人で一人)
との間では実に4.8倍(立法時:選挙時点では5.06
倍)の大差がある。これは日本国憲法で保証され
た、国民の普通・平等選挙権に違反し無効である。
(2)非拘束名簿式比例代表制:これは平成12年の公
職選挙法改正でそれまでの「拘束性」から変更さ
れたもの。投票に際して、特定候補者個人に投票
しても、その所属する政党の得票とみなされ、そ
の政党内の得票数の多い順に割り当てられる。
その結果、特定候補者に投票してもその候補者
の得票数が少ないと、得票数の多い別の候補者に
まわされてしまう。つまり、投票者の意思に反し
て票が横流しされる結果になる。これは改正手続
きの不明朗さともあわせ、「直接選挙」を予定し
た憲法諸規定に違反する。
4.今回の最高裁判決についての補足:
(1)判決に先立つ最終公判(昨年12月)では、大法
廷弁論と云って原告弁護士10名がそれぞれの立場
から1時間強にわたって違憲性を主張された。こ
れは過去何回も行われた違憲訴訟でも異例とのこ
とである。
(2)判決は「一票の格差」と「非拘束名簿式比例代
表制」とに分けて行われ、両方とも訴えは「棄却」
されたことは前述の通りだが、そのうち「非拘束
| 性…」については裁判官15名全員が合憲と判断し
たのに対し、「一票の格差」については15名中9
名が合憲、6名が違憲と判断された。
(3)従来から、違憲の訴えを支持した裁判官は数名
いたが、それらはいずれも弁護士・学者・法務省
以外の官僚出身で、法務省出身の裁判官はほぼ常
に合憲判断だったことは興味深い。三権分立の一
つの頂点である最高裁判事が政府の方針を守る結
果になっており、司法が行政と立法に従属してい
る、と批判される所以である。大統領の権限が強
いアメリカでさえ、下院では 1.5倍が厳しく守ら
れている。(上院は合衆国の名残りあり、事情が
異なる)
(4)違憲判断の裁判官からは、「最高裁が憲法上認
められた違憲審査権を自ら放棄するなら、別途憲
法裁判所が必要」、「国会に一票の格差是正を期
待するのは百年河清を待つに等しい」など厳しい
注文がつけられた。
(5)今回特に注目すべきは、合憲と判断した9名の
裁判官のうち4名が、「次回も現状のままなら違
憲判断となる余地あり」との意見を付したことで
ある。(*)参照。「次回」とは今年7月の参院
選挙 だが、それまでに議員定数を是正する立法
措置が間に合うとは思えないので、本格的な違憲
判決が出るとすればその次=3年後になろう。従
って、今年の選挙後に当然行われる予定の違憲訴
訟では、一挙に10対5で「違憲」との歴史的判決
にはなるまいが、一段と踏み込んだ判決が期待さ
れる。正しい運動を諦めずに継続すれば「遅々と
して進む」のである。
5.次回違憲訴訟には、当会からももっと多数参加
され、大きな運動に盛り上げませんか。会員各位
の積極的なご参加を期待します。
(*)公平のために、あくまでも合憲とする裁判官
5名の意見を一部引用すると、単に「立法の裁量範
囲」と違憲判断を逃げている訳ではなく、人口比で
議員数を割り振ると人口の少ない15の県では議員定
数が1人となって6年に1回しか投票の機会がなく
なり(通常は3年毎に半数づつ)、別の意味で不公
平が生ずる、という。これに対する反論も行われて
いるが、きりがないのでこのへんにします。皆さん
はどう考えますか?
ご関心あれば、1月15日付け朝日新聞の判決要旨
が良くまとまっていますのでご参照下さい。
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