生活者主権の会生活者通信2004年11月号/08頁..........作成:2004年11月07日/杉原健児

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<ネットデモクラシー特集>
ユビキタス社会とネットデモクラシー

東京都文京区 松井孝司 (tmatsui@jca.apc.org)

 21世紀の初頭は明治維新、戦後改革につづき、
わが国では3回目の財政破綻を伴う大変革の時代を
迎えている。しかも、それには大きなパラダイムの
変化を伴っており過去に経験しなかった非連続の変
化が想定されるため、文明史的にも社会構造の上か
らも想定外の大きな変革をもたらすのではないかと
予想される。
 特にコンピュータと通信技術の発展がもたらす社
会の変化には計り知れないものがある。コンピュー
タは情報処理、計算速度が速いだけではなく、通信
への応用が情報化社会に於ける利用範囲を著しく拡
大しているからである。最近IT(Information Techn
ology)にC(Communication Technology)を加え、ICT
(Information & Communication Technology)という
用語が使用されるようになった。
 総務省は、ICTの急速な発展を視野に入れ、「ユビ
キタスネット社会の実現に向けた政策懇談会」を発
足させ、2010年の社会像「u-Japan(ユビキタスネッ
ト・ジャパン)」を提示しようとしている。 
 「ユビキタス」ネットとは、「いつでも、どこで
も、何でも、誰でも」ネットにつながることを意味
しており、ユビキタスネット社会では殆どすべての
国民がネットワークの恩恵に与ることを想定してい
る。ネットワーク接続のための通信回線使用料は、
数年の間に大幅に低下し、ADSL、FTTHなどブロード
バンドの大容量通信回線も企業だけではなく、一般
家庭にも急速な普及を示している。
 ユビキタスネット社会は、コンピュータを直接目
にすることはなくても、携帯電話から家電製品を含
めて社会のあらゆる分野にマイクロコンピュータが
潜み、それがネットで繋がる社会であり、これはす
でに社会の現実となっているのだ。コンピュータを
目の敵にする人も、コンピュータなくしては自分の
生活が維持できなくなっているのである。そうであ
ればコンピュータの弊害を指摘して利用を拒否する
のではなく、セキュリティー対策など弊害の防止策
を講じ、善用することが望まれる。
 コンピュータ利用技術の進歩で社会が大きく変化
しようとしているにも拘らず、政治の世界は旧態依
然として変らず、憲法で保障されている国民主権、
地方自治の原理が機能しないことこそ問題視しなけ
ればならない。
 行政サービスが肥大化し、政府、自治体が水ぶく
れ行政となる一方で、要求し批判ばかりしている無
責任な地域住民がいる。無責任な議員と地域住民が
政府、自治体の財政危機をもたらしているのだ。
 衆愚政治の現状を打開するため、ICTの活用により
国民の政治分野における行動様式を大きく変えるの
が「ネットデモクラシー」と言っても良いのではな
いだろうか?
 「ペンは剣より強し」と言われるが、現代におけ
る「ペン」とはICTなのだ。この新しい「ペン」で日
本のデモクラシーを書き換える必要がある。国民主
権が機能せず、官僚主導の行政がまかり通ってきた
のは官僚が情報を独占し、税金を徴集する政府と税
金を納める国民との間に巧妙に情報格差を設けてき
たからである。
 民主主義とは「住民の住民による住民のための政
治」を意味しており、情報の発信も受信も主役は住
民でなければならない。税金を使って出来た成果は
住民の所有物であり、住民主導で情報は保管し、活
用されなければならない。
 この情報の処理と活用を、ICTを活用して国民の誰
もが自由に差別されず、効率よく行うのが「ネット
デモクラシー」である。幸いにして不十分ではあっ
ても国では情報公開法、地域では情報公開条例が施
行され、中央省庁だけではなく地方自治体でも、住
民の意思さえあれば行政情報へのアクセスの道は開
かれている。
 行政には透明な組織と運営が求められ、行政情報
はすべて公開し、政府は情実ではなく合理性にもと
づき運営されなければならない。中央政府を頂点と
した行政のヘラルキー構造は、ICTが無かった過去の
産物だ。縦割り行政の弊害を解消するために、時間
と空間に制約が無いICTは格好の手段となるだろう。
 ICTのキーワードはリアルタイム(同時性)とイン
タラクテブ(双方向性)である。公職選挙法は大幅
に書き換え、同時性のICTを利用して電子投票を実施
すれば、投票率の向上と集計の効率化が可能となり、
政党政治の質的向上と行政コストの大幅な削減が期
待できる。立候補者が、選挙の度に大金を使う必要
も無くなる。
 選挙管理だけではなく、公的業務は殆どが法律に
定められた定型業務であり、ICTで処理できる業務が
多い。公務員が業務の説明責任を果たすためにもICT
は格好の手段になる。公務員にはICTの習得を義務付
けるべきだ。電子政府、電子自治体が実現できれば、
行政の大幅な効率向上が期待できるだろう。人間が
介在しない方が、公的業務は正しく公平に処理され、
効率も向上する。付加価値の乏しい公的業務はICT化
し、付加価値が期待できる業務には人間を配して事
業を民営化し、課税の対象とすることが望ましいの
である。
 かくして、ICT利用により公務員の大幅削減が可能
となり、税金を伴食してきた公務員(Tax Eater)は
民間人に変身することによって納税者(Tax Payer)と
なり、民主主義を支える真の主権者となることがで
きる。
 日本では良識のある多くの主権者が、沈黙の人(Si
lent Majority)となっており、行政とは無縁の存在
であるが、これでは民主主義社会とは言えない。双
方向性のICTを手段に用いれば、一個人でも全世界に
向けた発信が可能となり、市民からの政策提言、行
政への住民参画も容易になり、真の民主主義社会が
実現する。
 デモクラシーの元祖ともいうべき米国では大統領
選でICTが大活躍しているが、日本も大いに学ぶべき
だ。(URL>http://www.us-election.org/参照)
 ICTはデモクラシーを支える不可欠の道具であり、
真の民主主義、真の地方自治実現のために、ICTを
武器とする「ネットデモクラシー」の推進が求めら
れるのである。

生活者主権の会生活者通信2004年11月号/08頁