2004年12月7日の毎日新聞「余録」欄に憲
法改正するときに留意すべき問題点を指摘していま
した。わたしも憲法を改正する必要性を感じていま
すが、今の政治家には官僚や軍人をまとめきれるだ
けの力量が感じられませんので、この問題はやはり
慎重に取り扱うべきかなとも思っています。
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2004年12月7日 毎日新聞朝刊1面「余録」
「統帥綱領・統帥参考」という戦前陸軍の二つの
文書を、軍による国家乗っ取りを方向づけたものと
して注目したのが司馬遼太郎だ。それらは一部の参
謀本部将校しか知らない「機密文書」でありながら、
憲法を超えた参謀本部の権力を規定していたのだ。
とくに「統帥参考」は統帥権を超法規的なものとし、
参謀本部のような統帥機関は憲法上の責任が問われ
ないものとした。また軍事上必要ならば直接国民を
統治できるという。司馬は秘密裏に憲法を私議した
幕僚らが、明治人の苦労して作った国家をあっとい
う間につぶしたことに怒りをぶつけた。
「政治に拘らず只々一途に己が本分の忠節を守り」
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とは戦前の軍人に叩き込まれた軍人勅諭だ。それが
政治を支配したのだから権力がからむと人はあてに
ならない。今の自衛隊法も政治活動を制限している
が、こと文民統制について心配しすぎと思えるほど
神経質な人がいるのも仕方ない。
陸上幕僚監部というから陸自の中核をなす幕僚機
関だ。その佐官クラスの幹部が「国民の国防義務」
を掲げた憲法改正案を作成し、自民党憲法調査会の
改憲案起草委員会座長に渡したという。軍隊設置や
集団的自衛権の行使もうたったものだ。
自衛隊OBの中谷元座長は「私個人の研究のため」
案作成を頼んだと明かしている。公務員の憲法尊重
擁護義務や文民統制に抵触するかどうかは、政府で
調べるという。ただ現職幕僚が与党の憲法改正に向
けた政治プロセスに加わるというのは何ともいただ
けない。
自衛隊幕僚といえば安保防衛のプロフェショナル
だ。おのずとプロとしての職業倫理がある。司馬遼
太郎が昭和陸軍の幕僚にマユをひそめたのは、彼ら
にプロとしての合理性と倫理が欠けていたからだ。
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