「自立」の理念には「自由」が、「共生」の理念
には「平等」が対応する。政治・経済のシステムと
しては「自由」には「資本主義」が、「平等」には
「社会主義」が対応する。両者をシステムとして両
立させることは難しい。
「自立」と「自由」には規制の少ない「小さな政
府」が、「共生」と「平等」には規制の多い「大き
な政府」が必要とされるからである。
オランダ紙極東特派員のカレル・ヴァン・ウオル
フレン氏は日本の問題は規制が多いその「システム」
にあることを鋭く告発している。
1962年以来30年近く日本に滞在したウオル
フレンはその著書「日本/権力構造の謎」と「人間
を幸福にしない日本というシステム」のなかで、官
僚独裁を批判し、日本の現実は民主主義の儀式は存
在するが、市民を欺く偽りの民主主義であることを
さまざまの事例を挙げ実証している。
しかもその独裁は他の独裁体制と異なり、権力が
一人の人間、一つの集団に集中しない特異な無責任
体制で持続していることに疑念を持ち、そのように
なった理由を日本の歴史と文化から探ろうとしてい
る。ウオルフレンは神道や儒教の思想を考察してい
るが、仏教思想への考察が足りないようだ。
1500年前から日本人は無意識のうちに仏教思
想の影響を受け、敵さえも是認する仏教の「共生」
の思想を持つに至った歴史を理解する必要がある。
矛盾を内包し、非論理的な仏教の思想や、禅問答を
理解する欧米人は皆無に等しいだろう。ウオルフレ
ンが権力に従順で、法による正義が機能しない「日
本というシステム」を見て理解に苦しむのは当然だ。
聖徳太子の「17条憲法」以来、日本人は「和」
の精神、仏教の寛容の精神を尊重し、争いを避ける
工夫をしてきた。大化改新における「公地公民」は、
まさに「共生」を具体化した施策であり、明治維新
での版籍奉還、戦後の農地改革など激変を伴う制度
改革が短期間に実現できたのも、「共生」の思想が
根付いている証拠だ。日本人の多くは資本主義の顔
をした社会主義である日本の矛盾した「システム」
に違和感を持たないのである。
日本人が「共生」の思想を持つに至ったもう一つ
の理由は、日本が海に囲まれた閉鎖系のためと思わ
れる。不満があっても国外に逃げることが難しいた
め、村八分にならないよう我慢をし、閉鎖系におけ
る生存戦略として「共生」の戦略を意識することな
く採用してきたのである。
一方、欧米や中国などは大陸の上に存在する。不
満があれば簡単に他の土地に移動できる。陸地は広
く開放系のため生存戦略として「自由」「自立」を
選択することができたと見ることができる。
中国が日本とは全く逆の社会主義の顔をした資本
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主義体制に変ってしまったのは開放系民族の当然の
成り行きなのだ。国外で活躍している華僑は、開放
系生存戦略の生き証人だ。
インターネットが普及しグローバル化した今日の
日本も閉鎖系ではなくなった。ヒト、モノ、金、情
報は国境を超えて自由に飛び交い、日本人も閉鎖系
生存戦略では生き残ることが難しくなった。肥大化
した日本政府は返済不能の巨額の借金を累積させ、
財政破綻は目前だ。「悪平等」と「過剰規制」を是
正し、「大きな政府」から「小さな政府」へ「シス
テム」の変更が迫られ、個人と地方自治体は「自立」
を求められている。
しかし、「共生」の理念が不要になったのではな
い。地球という閉鎖系では人類の生存戦略として重
要だ。「共生」の理念は、NGO活動や国際連合な
どの場で、今後ますます重要性を増すことだろう。
「自立と共生」は民主党の基本理念でもある。
1998年4月27日付の民主党のホームページには「自
立した個人が共生する社会をめざし、政府の役割を
そのためのシステムづくりに限定する『民主中道』
の新しい道を創造します」と書いてある。しかし、
最近作成された民主党のマニフェストを見ると「自
立と共生」という文字は「道州制の実現」の項目に
小さく記載されてはいるが、「政府の役割をそのた
めのシステムづくりに限定する」ための具体策は見
えていない。
「自立」と「共生」が両立できる「システム」を
日本から発信することができたら素晴らしいことで
ある。「共生」の思想から生まれた「公地公民」の
施策が永続できなかったのは「公=天皇」と考えた
からだろう。「公=Public」と考えれば「公地公民」
の施策は普遍性をもつ。地球上の土地は本来誰のも
のでもなく、全生物の共有資源だし、人種差別の撤
廃、紛争の解決、弱者の救済、少子化、高齢化の問
題も個人レベルでは解決が難しいからである。
人間社会の土地所有をめぐる争いは、動物の縄張
り争いと変わりはない。土地の公有化は都市、街づ
くり計画の策定、投機バブルの防止、環境保全のた
めにも有益な普遍性を持つ施策であり、国土が狭い
日本に相応しい制度である。戦後米国が与えてくれ
た現行憲法の草案から土地公有化の条文が削除され
たことが残念だ。
新しい「システム」の設計には、憲法第29条に
規定されるように財産権の再定義から始める必要が
あるだろう。
ウオルフレンが言うように「仕方がない」と我慢
する時代は終った。21世紀に相応しい「自立」と
「共生」が両立できるシステムの構築は主権者の意
志に架かっている。国民は政治家を通し、主権を行
使する意志のあることを示さねばならない。
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