生活者主権の会生活者通信2005年06月号/06頁..........作成:2005年06月13日/杉原健児

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中国と韓国の反日デモを憂慮す

東京都練馬区 板橋光紀

 2005年の一月下旬だったと記憶しているが、
韓国のエレクトロニクス最大手のサムスン社が経常
利益1兆円を達成したとの報道があった。日本のト
ヨタと並んで「アジアの星」とも尊称すべき隣国の
ヱースが世界ランキングに登場したことは誠に目出
度い。企業間に勝ち組と負け組との格差が広がり、
全般的に景気が低迷する中で、このニュースは韓国
市民にとってさぞかし意気を軒昂させる朗報であっ
たに違いない。                
 しかしながら、続いて知らされた解説の中に「サ
ムスンの商品には日本製部品が40%以上を占めて
いる」と言うのがあった。これを聞いた一般の消費
者は「気にも止めない」だろうが、少しでもエレク
トロニクスに知識のある人であれば「さもありなん」
と思うだろう。そして韓国の生活困窮者とナショナ
リズムを抱えた人々の中には愕然とし、又は腸が煮
え繰り返るような心境に陥った少なからぬ人々が居
たと私は想像している。            
 エレクトロニクス業界に長年身を置いて、20年
前からサムスン社へ出入りして来た私が許される範
囲で補足説明をすると、40%は目方か数量、又は
部品コストの話で、「クリテイカル パーツ」と呼
ばれる重要な部品の大半を日本製で占め、多分それ
に準ずる重要度と特殊性を備えた15%程の台湾製
部品が採用されている筈だ。「ローカルコンポーネ
ント」と総称される純韓国産の部材が残りの45%
を占めるとしても、それらの多くは完成した商品の
品質の良し悪しにあまり影響のない、テレビや冷蔵
庫等各種電化製品にも使える用途の広い「汎用部品」
と呼ばれる部品群及び包装や梱包材料の類であろう
と考えられる。                
 韓国では自動車産業も成長が著しい。しかし韓国
製自動車を消費する市場が小さい為に、全ての部材
を韓国内で開発・生産することは極めて困難。最近
では世界の各地に輸出するようになったと聞いては
いるが、韓国製自動車に積まれているエンジンの多
くが未だに日本製で、ブレーキデイスクに塗る特殊
なノンスリップオイルは多分アメリカ産だろう。 
 重要な部材の供給を外国に依存している場合、そ
れを単に「国際分業」と位置付けて、合理的な調達
方法を自らが選択していると割り切れるひとなら問
題は無い。しかしその依存先が赤の他人、しかも選
りに選って日頃から蟠りを断ち切れず、嫌悪感を抱
いている日本であった場合、その心境は違和感に始
まって挫折感から劣等感、人によっては「被害妄想」
へと発展しかねない。韓国における今回の「反日」
の気運はサムスンの業績発表に時を同じくして芽生
えてきたものと思われる。           
 折りしも島根県議会による「竹島の日」決議が引
き金となり、「歴史教科書」と「国連常任理事国」
のことが火に油をそそぎ、寝た子を起こすように、
「靖国問題」まで持ち出されてしまった。 盧武鉉
大統領に支持率アップの目論見があったとは言え、
「反日」を鮮明に表明したことにより、「反日デモ
にお墨付き」を与える形となった。日本は誠意を尽
くして釈明する必要はあるが、これらの懸案事項全
てについて韓国側の主張を叶えて処理出来たとして
も「反日活動」は収まらないだろう。プロパガンダ
に利用し得るカードは「従軍慰安婦」、「憲法第9
条改正」、「防衛庁を省に格上げ」等など、捜せば
いくらでも出てくるからだ。韓国人が反日の感情を
「デモ」や「破壊行為」に移せる程高められるエネ
ルギーの根源は、経済の面で韓国が日本に支配され
ているとの「妬み」と、その結果直面している不況、
失業、生活苦からぬけだせない「屈辱感」にあるわ
けで、彼等の生活が楽にならない限り反日デモは止
まないものとおもわれる。           
 中国にも同じようなことが言える。過去の20年
間に中国へ進出した日本企業は28000社にも達
すると言う。30年以上も前のことだが、日本が、
「集中豪雨的に輸出をする」ことで世界中からひん
しゅくを買った時期がある。今の日本企業は「集中
豪雨的中国進出」の感がある。いくら何でも280
00社は多過ぎる。しかもその殆どが元気のよい企
業ばかりで、弱小組や倒産の瀬戸際に立たされたよ
うな負け組は少ない筈だ。一社当り500人を雇用
していれば1400万人が日系企業で働いているこ
とになる。進出企業は製造業だけでなく、レストラ
ンやデパートにスーパーマーケット、運送会社に警
備会社、結婚式場から葬儀社まで出ていると言うで
はないか。街角の広告看板や新聞雑誌、テレビのコ
マーシャルを見ても「日本製品」が氾濫し、各種の
業界で、各地の市場で大きな部分を席捲しているか
に見える。                  
 日本企業の競争相手は「集中豪雨的輸出」の時と
同様に同業の日本企業である場合が多い。日本企業
同士が中国市場で熾烈な闘いを演ずることによって、
十字砲火に巻き込まれた欧米の商品は弾き飛ばされ、
地元中国産商品も短命に終る。それによってあたか
も日本人が中国市場を凌駕し、弱肉を強食している
かのようにも映る。実情は高収益を享受している企
業もあるが、フル操業を続けていながら、過当競争
による値引き合戦で利益を削られ、「豊作貧乏」み
たいな所も多い。               
 厳しい円高が続いて輸出にハンデを背負っている
筈の日本の鉄鋼業界が空前の好業績を記録している。
中国向け鋼管の輸出が好調だからだ。最近「西気東
輪」の文字が目に付く。ウイグル地方の旧東トルキ
スタンから東の上海まで天然ガスを送る工事が進行
している。もう一つは「西油東送」で、青海省で採
掘した石油を東部沿岸各地へ輸送する、いずれも国
家レベルのプロジェクトだ。何千キロに亘ってパイ
プラインを敷く巨大な事業である。言うまでもなく
これらのエネルギー不足解消プロジェクトに必要な
長さ15m、直径1mの鉄製パイプは殆どが日本製
だ。                     
 東京ガスに勤務している小学校時代の友人が中国
へ派遣され、都市ガス配管の技術を指導して帰って
来た。中国では都心はともかく、少し郊外へ出ると
ガス管は未だに竹に油を染み込ませた丈夫な布を巻
きつけたものを使っていたと言う。竹にひびが入っ
て何時ガスもれや爆発事故が起きても不思議はない
とのことだった。中国では大口径の鉄パイプを作れ
ないから、東シナ海で春暁や平湖ガス田を発見して
も、採掘には海底に足場を立てて、海面に櫓を組む
ことにすら日本製鋼材を必要とする。中国へ資材を
供給している当事者が自社の業績アップを喜び、日
中両国は互いに依存し合っていると素直に理解して
も、僻みっぽい中国人にしてみれば「日本人に殺生
与奪の権を握られている」とか「悪女の深情け」に
見えるかもしれない。             
 日本人は中国人に日本の国家財政が破綻している
ことや、中高年の自殺者が毎年3万人を超えている
こと、国民負担の急激な増大によって弱者の生活が
益々悲惨になっている事などをもっと説明すべきだ。
 最近中国各地で「反日デモ」が続いている。過去
20年余に亘って各国企業の中国進出に道案内やら
運営に手を貸して来た私が、日本企業の中国進出に
警鐘を鳴らし始めたのは、4年前、本誌2001年
11月号の「パラサイトから逃れよう」に書いた通
りである。「恐れていた事態がついに到来した」の
感が強い。韓国の反日デモとサムスンとの因果関係
に似て、中国の反日デモがWTOによる「中国の輸
出総額は日本を抜いて世界第三位」の発表以来急速
にエスカレートして来た気がしてならない。「世界
第三位」の中身が「中国から輸出される商品のクリ
ティカルパーツの大半が日本製」であることや、中
国から諸外国へ輸出している実質的な当事者の多く
が中国へ進出している日系企業であるか、又は後ろ
で糸を操っている日本人であることが判ってしまっ
た場合、反日デモは止まないばかりか益々激しくな
ることが予想される。             
 日中の為政者、専門家、マスコミ等はいずれも過
去100年程の間に両国で起こった諸々の出来事に
問題糾明と解決への照準を当てているようだが、私
は少し違った見方をしている。以下は北京、上海、
広州に居る各々複数の中国人旧友から得た情報に基
ずいて組み立てた私の論拠である。       
 デモが発生した地域は日系企業が沢山進出してい
る発展著しい沿岸諸都市と、「民工」と呼ばれる出
稼ぎ労働者を大勢送り出している内陸の比較的貧し
い地方都市である。デモに参加している若者の多く
が定職をもたない、「失業者」であるようだ。中に
は日本にも沢山居る「二ート」とよばれ、何か騒動
があるとすぐに駆けつける人種も多いらしい。  
 中国の若者に共通していることは、彼等が概して
外資系企業、とりわけ給料の良い日系企業へ就職し
たがっていることだ。日系企業が採用する職員は、
90%以上が16〜18才の独身女性で、男子の採
用は10%に過ぎない。デモ参加者の中に女性が非
常に少ないのもうなずける。このことだけでも「差
別的」で、就職試験で不採用となった若い男性から
恨まれやすい。「一人っ子政策」によって我侭に育
てられ、社会人になって適応障害に陥っている人の
就職は難しいし、職を得ても解雇され易い。   
 失業者の中には国有・公営企業の整理又はリスト
ラで職を失った人々も多い。大きな工場、とりわけ
数千人とか数万人の職員を抱えた企業には敷地内に
必ず職員の研修所があり、各種の技能訓練が行われ
る。平均的な工業専門学校より立派だったり、短期
大学並みの特訓を施す所もある。研修期間を終える
と卒業証書めいた「修了証明書」がもらえる。外資
企業の就職試験はとかく「書類審査」と「面接」に
よるが、朝鮮学校ですら学校の部類に入れていない
日本企業では「研修修了証明書」程度の書類は評価
されにくい。このことは日中の外交課題として俎上
にあがっているようだが、研修所で身につける技能
や教養を「学歴」として扱うまでにはいくつものハ
ードルを越えねばなるまい。中国の失業者は800
0万人を越す。この内何割かは何時でもデモ隊予備
軍になり得ると考えられる。          
 デモ隊の中に日系企業に現在勤めている人物を見
かけたとの情報があった。私自身も度々目撃してい
るが、「日本式」をそのまま中国へ持ち込んで来る
企業がある。日本の進出企業では待遇面での差別が
目に付き易い。給料のことになると深刻だ。北京大
学や清華大学等の一流大学から採った人材には優秀
なインテリが多い。理工系の人でもシェークスピア
やゲーテを読んでいたり、世界情勢の大事なポイン
トをよく認識している人も居た。大学を卒業してい
ても、学生時代はアルバイトに明け暮れ、渋谷・青
山で遊び呆けていたような人が日本から派遣されて
来た場合、短期間に実力の差は歴然として来る。に
も拘らず中国人職員の給料が日本人の半分だったり
4分の一だったりすれば彼等の不満は日々蓄積され
ていく。                   
 住居が格段に高級だったり、日本人のオフイスだ 
けにエアコンが付いていたり、昼食に日本人専用の
賄い婦が付いていたりは感心しない。日本からカセ
ットを持って来て全員に「NHKのラジオ体操第一」 
を強いるのも止めたほうがいい。あまり重要でない
「訓辞」は手みじかにすべきだ。話をする日本人が
10分のつもりでも、たいてい通訳が入るから、聞
いてる中国人は20分たっていなければならない。
些細なことではあっても、日頃から蓄積されて来た
不満は何かのきっかけで爆発する要因となり得る。
 「生活苦」の点では農民と内陸の僻地に住む人々
も深刻だ。2004年の一年間に中国で発生した騒
乱の類は20000件に達し、その殆どが農村での
農民による暴動であったと言う。弱者の間には既に
心理的な連帯感が醸成されていると考えられ、不遇
をかこつ農民と都会に居る失業者の群れ、それに法
輪功のような巨大なグループが合体しないとも限ら
ない。                    
 中国には古くから「寡なきを憂えず、等しからざ
るを憂う」と言う格言がある。「全員が貧しいのな
ら堪え忍ぼう、しかし一部の層の人々だけが安逸を
貪ることは許せない」と言う意味だ。中華料理のと
り皿が大昔から小さいのはそのせいだ。公務員や党
幹部、外国企業を含めた経済界の勝ち組と、弱者と
の格差がこれ以上開くことになれば、1851年に
起きた「太平天国の乱」に似た大事件になりかねな
い。生活困窮の公務員や警察官が制服を脱いでデモ
隊側に組みすれば、1898年の「義和団の乱」に
近くなる。どちらも外国企業の中国進出が深く関係
している。インターネットと携帯電話が発達してい
るから、暴動の拡大は昔より格段に速いことを日中
の為政者は胆に命じるべきだ。         

生活者主権の会生活者通信2005年06月号/06頁