皆さまは「八ツ場(ヤンバ)ダム」という事業を
ご存知ですか? 当会会員のように、壮大な税金の
浪費に反対しておられる方でも、本事業について詳
しくはご存じないのではないでしょうか。以下は、
本事業の概要説明と、現在1都5県(東京・埼玉・
千葉・群馬・栃木・茨城)で反対運動・差止訴訟が
行われている背景をご紹介したい、と思います。
1.本事業の概要:
(1)場所:群馬県川原湯温泉郷のある吾妻川流域。
(2)目的:最初に計画されたのは昭和27年(52年
前)で、目的も時代の流れで変わり、現在では、1
都5県の@利水、A治水が目的とされています。
(3)建設費用:去年までは2100億円でしたが、突
然4600億円に増額され、その他水源対策費・起債金
利・今後の増額など含めると1兆円規模の巨大事業
です。
(4)現状:周辺工事は既にかなり進んでいますが、
ダム本体は未着手です。このダムで利益を受けると
云う理由で巨額の税負担をする1都5県でそれぞれ住
民訴訟が行われています。私は、埼玉県を被告とし
た訴訟に原告として参加しています。
2.反対の理由:
(「公金支出差し止め訴訟」訴状から要約)
(1)必要なくなったこと:この点を詳しく説明す
るためには、与えられた紙数ではとても足りません。
以下は「水源開発問題全国連絡会」代表嶋津氏(元
東京都環境科学研究所)が専門の立場から 主張さ
れた議論の要約です。
@利水面:節水機器の普及・漏水の減少・工場の海
外移転などにより、1990年頃から水需要は漸減し
ており、これからの人口減と重なり、今後は水余
りの時代に入ること。特に、東京では地下水位が
上昇しており、東京駅や上野駅では浮上防止のた
め、アンカーボルトや重しで抑える一方、大量の
水を東京湾に捨てています。
A治水面:本計画は基準地点で毎秒22千トンの洪水
流量が前提ですが、これは過去50年間最大台風時
9千トンより極端に大きい。昭和22年のキャサリ
ン台風時は17千トンでしたが、これは戦時中の乱
伐で日本中はげ山だらけだった特殊ケース。
(2)美しい景観と環境が破壊されます:関東の耶
馬溪と云われる豊かで美しい自然が破壊され、水質
悪化・希少生物の減少の原因になります。
(3)災害の原因になること:浅間山噴火の溶岩層
で浸水に対して脆いため、周辺岩盤の崩壊、貯水域
付近の地滑りの危険性が大きい。
(4)巨額の負担:@上記の通り日本1巨費のダム。
それまでの2100億円から去年4600億円まで一気に増
額されました。建設後にも操業費。A実質的な内容
説明なく、「国交省が決めたから」「国に反対する
と予算配分上不利」。B予定価額に対する落札率が
軒並み95%以上は「談合」の状況証拠の塊。
(5)法律・手続き上の問題点:1都5県で若干異
なりますが、ほぼ共通しているのは、
@住民監査請求に対して充分な説明なしに「却下」
したこと。
A訴訟に対しては、必要性や金額の妥当性などの説
明はなく、手続上の主張(知事は課長に権限委任
しているから知事を被告とする訴訟は無効、河川
法上国交大臣の決定に知事は反対権限がないなど)
に終始していること。
3.皆さまへのお願い:
(1)本件について勉強して下さい:将来の見通し
については見方が分かれるにしても、部分的な「聞
きかじり」でなく広い視野で公平に判断して下さい。
(2)私たちの主張に納得されたら「反対する会」
へのご支援をお願いします。原告にはもうなれませ
んが、会への参加はいつでも歓迎です。
(3)機会があれば、現地を見てください。鄙びた
・美しい温泉地です。難しい議論以前に、あの美し
い渓谷や岩をダイナマイトで爆破する発想が私には
許せません。
4.上田埼玉県知事の姿勢について:
(1)私は埼玉県民として、前回の知事選挙では上
田知事候補を熱心に応援しました。土屋県政の薄汚
い「しがらみ排除」と云うスローガンと、衆議院議
員時代に「官僚権力の腐敗」を強く批判しておられ
た姿勢に共感したからです。
(2)「八ツ場ダム」に関して、当初は、一挙に2
倍以上の増額に強い不快感を示されましたが、結局
は国の主張をそのまま承認され、現在は「必要」と
判断しておられます。しかし「しがらみ排除」「官
僚権力の腐敗」を声高に主張しておられた知事の政
治姿勢から判断する限り、恐らく本件に関しては、
一方的な説明しか聞く機会がなかったか、中央の予
算配分圧力には逆らい難いという現実的な判断をさ
れたのではないかと思っています。
(3)私は、支持者の一人として悩みましたが、県
民・国民としての良心に従って原告として訴訟に参
加し、知事にもその趣旨を伝えました。
5.陳述意見:
以下は5月11日に埼玉地裁で行われた第2回裁判で
私が陳述人として述べた意見です。上記との重複は
なるべく避け、持論である環境保全の重要性と、税
金浪費批判に絞りました。特に強調したいことは、
国土交通省がなりふり構わず進めている全国の巨大
ダムの殆どが、当会の理念「大きい政府/中央集権
を排し、地方分権/道州制を実現」と完全に逆行す
ることです。「水の安定供給のための水道広域化」
の美名?の下に、多くの地域で近くの水(川・地下
水・雨水)は海に捨て、遠方の巨大ダム建設を正当
化し、利権を温存する構造は、当会の理念の対極に
あります。
|
意見陳述書要旨
2005年5月11日 河登一郎
・私は日頃から、環境破壊と税金の浪費を止めない
とこの国の将来は無いと本気で心配しており、国
民の一人としてこれを止める努力をすべきと愚直
に考えています。
・八ッ場ダムにつきましては、今までの陳述で、必
要性がなくなったこと;税金の浪費であること;
県が説明責任を果たしていないことが指摘されま
した。私は次の3点に絞って陳述します。
1.環境・景観破壊:
(1)景観:自然の宝庫と云われる名勝:吾妻川渓
谷の美観が無残に破壊されます。
・・・中略・・・
悪しき実例が身近にあります。神流川の三波石峡
は下久保ダム建設後美しい景観を失った典型的な悪
例です。同地の鬼石町長関口氏は、「下久保ダムは
生活破壊・地域の崩壊・自然破壊を教えてくれた」
と、その轍を踏まぬよう、本件にも強く反対してお
られます。
(2)砂防ダムによる環境破壊:このダムの周辺に
砂防ダムが100基前後も!作られるということはあ
まり知られていません。国土を切り刻んで税金をば
ら撒く体質がここにもあります。環境面で予想され
る問題点を列挙しますと、
@景観破壊:日本中に数10万基もある砂防ダムが、
自然の景観を壊しています。
A生態系の破壊:生物の生息域がコマ切れに分断さ
れるため魚も鳥も減少します。
B海岸線の後退:河口まで土砂が届かず、日本中で
海岸線が後退しています。
(3)希少生物の減少:略
(4)水力発電から化石燃料への逆もどり:ダムの
上流には東京電力が発電用水利権を持っており、バ
イパスを通って下流までにある6つの発電所で水力
発電をしていますが、本事業ではわざわざその水利
権を買い取ってダムに流す計画になっています。不
足する電源は、石油・石炭・原子力と云ういずれも環
境上問題の多いエネルギーに逆戻りすることになり
ます。環境へのマイナスはこんな形でも現れます。
2.ダム建設に伴う地滑りの危険性:
(1)ダム予定地の両岸は、2万年前の浅間山噴火
時の火山灰泥流が厚く堆積し、極めて脆弱な地層で
現在でも多数の集水井戸で地下水を常時抜いていま
す。ダムによる貯水が始まると、住民移転用の代替
地も支えを失って連鎖的に地滑りを起こし、崩落す
る危険性が高まります。
(2)ここにも悪しき前例があります。奈良県の大
滝ダムです。貯水開始後の平成15年にダム湖周辺で
地盤の亀裂と沈下現象が起こり、住民は仮設住宅へ
移転せざるを得なくなりました。当然貯水は中止、
ダムは空。税金が更に浪費された上、住民の生活も
破壊されました。朝日放送の番組の中で建設当時の
責任者は、「あれは大分前のことだから、もう関心
はない」と云っています。これが責任者不在の公共
事業の実態です。八ッ場ダムで貯水が始まればもっ
と大規模な地滑りが生ずる危険性が高いわけですが、
仮に大惨事になり人命が失われた場合も、責任者は
不在です。
(3)もちろん、この危険性がどの程度かは専門的
な分析が必要です。だからこそ、双方の専門家が全
資料を出し合って・オープンな議論をすることが不
可欠なのです。
3.ダム容量及びダム自体の寿命の問題:
(1)ダムには寿命があります。上流から流れ込む
土砂が堆積し、徐々に埋って行きます。将来の堆積
量を予測し100年間は有効貯水容量を確保する計画
を立てることになっています。
(2)しかし、実際の土砂堆積量は予測量(ダム建
設を正当化するため常に高めに設定されます)を大
幅に上回ることが多く、天竜川には12年で91%も埋
まってしまったダムの例さえあります。八ッ場ダム
の場合、条件の近い下久保ダムと同条件で専門家が
試算すると、堆砂量は予測値の3倍になり、・・・
中略・・・利水容量はほぼ50年で半減します。
この事業は現世代の税金だけでなく、まだ反対する
すべさえない将来の世代からも強奪します。現代に
生きる大人として絶対にしてはならないことです。
(3)このように、このダム事業は上位計画も無く
事後の対策も無い、国も県もその必要性さえ説明で
きない、税金をばら撒くことが目的の計画と云わざ
るを得ません。発注工事の過半が予定価額の95%以
上で落札されていることは談合の状況証拠です。
100歩譲って、景気対策・雇用の確保・ゼネコンや
下請け企業・その間に介在する(薄汚い)人々のた
めに出費を続けることが政治的に不可避でも、「ダ
ムを壊して植林する」方が健全です。
・・・中略・・・
個々の法文上の違法性については、今後順次代理
人を通じて主張しますが、その前提として強調した
い原点を二つ補足します。
一つは、本事業が地方自治法及び地方財政法の大
原則である「最小の経費で最大の効果」と全く逆行
していることです。スローガン的に云えば、「最大
の経費で最小(マイナス)の効果」です。
もう一つは、私自身の半世紀に亘る思いです。今
から半世紀前、私はまだ多感な法学徒でありました
が、「法文の解釈には大きな幅がある。実定法判断
の大前提には、真善美を愛する価値観と不正を憎む
正義観がその根底にある、法の究極にあるもの、そ
れは自然法と云う倫理観である。」と、凛として言
い切られた老教授の温顔を鮮やかに思い出しており
ます。爾来半世紀、日本の政治・経済・行政は、相当
汚れてしまいました。しかし、司法の世界には正義
の理想が色濃く残っている・残して欲しい、と切に
願っています。
|