生活者主権の会生活者通信2005年07月号/04頁..........作成:2005年07月24日/杉原健児

全面拡大表示

八ツ場ダムをストップしよう
ー中央集権による税金浪費と利権の象徴ー

埼玉県所沢市 河登一郎

  皆さまは「八ツ場(ヤンバ)ダム」という事業を
 ご存知ですか? 当会会員のように、壮大な税金の
 浪費に反対しておられる方でも、本事業について詳
 しくはご存じないのではないでしょうか。以下は、
 本事業の概要説明と、現在1都5県(東京・埼玉・
 千葉・群馬・栃木・茨城)で反対運動・差止訴訟が
 行われている背景をご紹介したい、と思います。 
 
1.本事業の概要:              
 (1)場所:群馬県川原湯温泉郷のある吾妻川流域。
 (2)目的:最初に計画されたのは昭和27年(52年
 前)で、目的も時代の流れで変わり、現在では、1
 都5県の@利水、A治水が目的とされています。 
 (3)建設費用:去年までは2100億円でしたが、突
 然4600億円に増額され、その他水源対策費・起債金
 利・今後の増額など含めると1兆円規模の巨大事業
 です。                    
 (4)現状:周辺工事は既にかなり進んでいますが、
 ダム本体は未着手です。このダムで利益を受けると
 云う理由で巨額の税負担をする1都5県でそれぞれ住
 民訴訟が行われています。私は、埼玉県を被告とし
 た訴訟に原告として参加しています。      
 
2.反対の理由:               
    (「公金支出差し止め訴訟」訴状から要約)
 (1)必要なくなったこと:この点を詳しく説明す
 るためには、与えられた紙数ではとても足りません。
 以下は「水源開発問題全国連絡会」代表嶋津氏(元
 東京都環境科学研究所)が専門の立場から 主張さ
 れた議論の要約です。             
 @利水面:節水機器の普及・漏水の減少・工場の海
  外移転などにより、1990年頃から水需要は漸減し
  ており、これからの人口減と重なり、今後は水余
  りの時代に入ること。特に、東京では地下水位が
  上昇しており、東京駅や上野駅では浮上防止のた
  め、アンカーボルトや重しで抑える一方、大量の
  水を東京湾に捨てています。         
 A治水面:本計画は基準地点で毎秒22千トンの洪水
  流量が前提ですが、これは過去50年間最大台風時
  9千トンより極端に大きい。昭和22年のキャサリ
  ン台風時は17千トンでしたが、これは戦時中の乱
  伐で日本中はげ山だらけだった特殊ケース。  
 (2)美しい景観と環境が破壊されます:関東の耶
 馬溪と云われる豊かで美しい自然が破壊され、水質
 悪化・希少生物の減少の原因になります。    
 (3)災害の原因になること:浅間山噴火の溶岩層
 で浸水に対して脆いため、周辺岩盤の崩壊、貯水域
 付近の地滑りの危険性が大きい。        
 (4)巨額の負担:@上記の通り日本1巨費のダム。
 それまでの2100億円から去年4600億円まで一気に増
 額されました。建設後にも操業費。A実質的な内容
 説明なく、「国交省が決めたから」「国に反対する
 と予算配分上不利」。B予定価額に対する落札率が
 軒並み95%以上は「談合」の状況証拠の塊。   
 (5)法律・手続き上の問題点:1都5県で若干異
 なりますが、ほぼ共通しているのは、      
 @住民監査請求に対して充分な説明なしに「却下」
  したこと。                 
 A訴訟に対しては、必要性や金額の妥当性などの説
  明はなく、手続上の主張(知事は課長に権限委任
  しているから知事を被告とする訴訟は無効、河川
  法上国交大臣の決定に知事は反対権限がないなど)
  に終始していること。            
 
3.皆さまへのお願い:            
 (1)本件について勉強して下さい:将来の見通し
 については見方が分かれるにしても、部分的な「聞
 きかじり」でなく広い視野で公平に判断して下さい。
 (2)私たちの主張に納得されたら「反対する会」
 へのご支援をお願いします。原告にはもうなれませ
 んが、会への参加はいつでも歓迎です。     
 (3)機会があれば、現地を見てください。鄙びた
 ・美しい温泉地です。難しい議論以前に、あの美し
 い渓谷や岩をダイナマイトで爆破する発想が私には
 許せません。                 

 4.上田埼玉県知事の姿勢について:      
 (1)私は埼玉県民として、前回の知事選挙では上
 田知事候補を熱心に応援しました。土屋県政の薄汚
 い「しがらみ排除」と云うスローガンと、衆議院議
 員時代に「官僚権力の腐敗」を強く批判しておられ
 た姿勢に共感したからです。          
 (2)「八ツ場ダム」に関して、当初は、一挙に2
 倍以上の増額に強い不快感を示されましたが、結局
 は国の主張をそのまま承認され、現在は「必要」と
 判断しておられます。しかし「しがらみ排除」「官
 僚権力の腐敗」を声高に主張しておられた知事の政
 治姿勢から判断する限り、恐らく本件に関しては、
 一方的な説明しか聞く機会がなかったか、中央の予
 算配分圧力には逆らい難いという現実的な判断をさ
 れたのではないかと思っています。       
 (3)私は、支持者の一人として悩みましたが、県
 民・国民としての良心に従って原告として訴訟に参
 加し、知事にもその趣旨を伝えました。     
 
5.陳述意見:                
  以下は5月11日に埼玉地裁で行われた第2回裁判で
 私が陳述人として述べた意見です。上記との重複は
 なるべく避け、持論である環境保全の重要性と、税
 金浪費批判に絞りました。特に強調したいことは、
 国土交通省がなりふり構わず進めている全国の巨大
 ダムの殆どが、当会の理念「大きい政府/中央集権
 を排し、地方分権/道州制を実現」と完全に逆行す
 ることです。「水の安定供給のための水道広域化」
 の美名?の下に、多くの地域で近くの水(川・地下
 水・雨水)は海に捨て、遠方の巨大ダム建設を正当
 化し、利権を温存する構造は、当会の理念の対極に
 あります。                  
        意見陳述書要旨     
            2005年5月11日 河登一郎
 ・私は日頃から、環境破壊と税金の浪費を止めない
  とこの国の将来は無いと本気で心配しており、国
  民の一人としてこれを止める努力をすべきと愚直
  に考えています。              
 ・八ッ場ダムにつきましては、今までの陳述で、必
  要性がなくなったこと;税金の浪費であること;
  県が説明責任を果たしていないことが指摘されま
  した。私は次の3点に絞って陳述します。   

 1.環境・景観破壊:             
 (1)景観:自然の宝庫と云われる名勝:吾妻川渓
 谷の美観が無残に破壊されます。        
        ・・・中略・・・        
  悪しき実例が身近にあります。神流川の三波石峡
 は下久保ダム建設後美しい景観を失った典型的な悪
 例です。同地の鬼石町長関口氏は、「下久保ダムは
 生活破壊・地域の崩壊・自然破壊を教えてくれた」
 と、その轍を踏まぬよう、本件にも強く反対してお
 られます。                  
 (2)砂防ダムによる環境破壊:このダムの周辺に
 砂防ダムが100基前後も!作られるということはあ
 まり知られていません。国土を切り刻んで税金をば
 ら撒く体質がここにもあります。環境面で予想され
 る問題点を列挙しますと、           
 @景観破壊:日本中に数10万基もある砂防ダムが、
  自然の景観を壊しています。         
 A生態系の破壊:生物の生息域がコマ切れに分断さ
  れるため魚も鳥も減少します。        
 B海岸線の後退:河口まで土砂が届かず、日本中で
  海岸線が後退しています。          
 (3)希少生物の減少:略           
 (4)水力発電から化石燃料への逆もどり:ダムの
 上流には東京電力が発電用水利権を持っており、バ
 イパスを通って下流までにある6つの発電所で水力
 発電をしていますが、本事業ではわざわざその水利
 権を買い取ってダムに流す計画になっています。不
 足する電源は、石油・石炭・原子力と云ういずれも環
 境上問題の多いエネルギーに逆戻りすることになり
 ます。環境へのマイナスはこんな形でも現れます。

 2.ダム建設に伴う地滑りの危険性:      
 (1)ダム予定地の両岸は、2万年前の浅間山噴火
 時の火山灰泥流が厚く堆積し、極めて脆弱な地層で
 現在でも多数の集水井戸で地下水を常時抜いていま
 す。ダムによる貯水が始まると、住民移転用の代替
 地も支えを失って連鎖的に地滑りを起こし、崩落す
 る危険性が高まります。            
 (2)ここにも悪しき前例があります。奈良県の大
 滝ダムです。貯水開始後の平成15年にダム湖周辺で
 地盤の亀裂と沈下現象が起こり、住民は仮設住宅へ
 移転せざるを得なくなりました。当然貯水は中止、
 ダムは空。税金が更に浪費された上、住民の生活も
 破壊されました。朝日放送の番組の中で建設当時の
 責任者は、「あれは大分前のことだから、もう関心
 はない」と云っています。これが責任者不在の公共
 事業の実態です。八ッ場ダムで貯水が始まればもっ
 と大規模な地滑りが生ずる危険性が高いわけですが、
 仮に大惨事になり人命が失われた場合も、責任者は
 不在です。                  
 (3)もちろん、この危険性がどの程度かは専門的
 な分析が必要です。だからこそ、双方の専門家が全
 資料を出し合って・オープンな議論をすることが不
 可欠なのです。                

 3.ダム容量及びダム自体の寿命の問題:    
 (1)ダムには寿命があります。上流から流れ込む
 土砂が堆積し、徐々に埋って行きます。将来の堆積
 量を予測し100年間は有効貯水容量を確保する計画
 を立てることになっています。         
 (2)しかし、実際の土砂堆積量は予測量(ダム建
 設を正当化するため常に高めに設定されます)を大
 幅に上回ることが多く、天竜川には12年で91%も埋
 まってしまったダムの例さえあります。八ッ場ダム
 の場合、条件の近い下久保ダムと同条件で専門家が
 試算すると、堆砂量は予測値の3倍になり、・・・
 中略・・・利水容量はほぼ50年で半減します。  
 この事業は現世代の税金だけでなく、まだ反対する
 すべさえない将来の世代からも強奪します。現代に
 生きる大人として絶対にしてはならないことです。
 (3)このように、このダム事業は上位計画も無く
 事後の対策も無い、国も県もその必要性さえ説明で
 きない、税金をばら撒くことが目的の計画と云わざ
 るを得ません。発注工事の過半が予定価額の95%以
 上で落札されていることは談合の状況証拠です。 
 100歩譲って、景気対策・雇用の確保・ゼネコンや
 下請け企業・その間に介在する(薄汚い)人々のた
 めに出費を続けることが政治的に不可避でも、「ダ
 ムを壊して植林する」方が健全です。      
        ・・・中略・・・        
  個々の法文上の違法性については、今後順次代理
 人を通じて主張しますが、その前提として強調した
 い原点を二つ補足します。           
  一つは、本事業が地方自治法及び地方財政法の大
 原則である「最小の経費で最大の効果」と全く逆行
 していることです。スローガン的に云えば、「最大
 の経費で最小(マイナス)の効果」です。    
  もう一つは、私自身の半世紀に亘る思いです。今
 から半世紀前、私はまだ多感な法学徒でありました
 が、「法文の解釈には大きな幅がある。実定法判断
 の大前提には、真善美を愛する価値観と不正を憎む
 正義観がその根底にある、法の究極にあるもの、そ
 れは自然法と云う倫理観である。」と、凛として言
 い切られた老教授の温顔を鮮やかに思い出しており
 ます。爾来半世紀、日本の政治・経済・行政は、相当
 汚れてしまいました。しかし、司法の世界には正義
 の理想が色濃く残っている・残して欲しい、と切に
 願っています。                

生活者主権の会生活者通信2005年07月号/04頁