生活者主権の会生活者通信2005年08月号/03頁..........作成:2005年07月24日/杉原健児

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郵政は「道州」に分割せよ!

東京都文京区 松井孝司

 「郵政の民営化」は小泉内閣の最大の目玉であり、
これが実現してもしなくても小泉総理の役割は終り
そうだ。去る6月28日に開かれた自民党の総務会
で郵政民営化法案は4項目修正され、法案は骨抜き
にされたと新聞各誌は報じたが、5票差で衆議院を
通過し「廃案」も覚悟していた小泉総理を喜ばせた。
 郵政の民営化は約40万人の「公務員」を「民間
人」に変え、約340兆円にのぼる郵便貯金(郵貯)
と簡易保険(簡保)の資金を民間の知恵で効率的に
運用できるので「小さな政府」を実現することにな
ると小泉総理は説くが、橋本内閣の行政改革同様、
看板の架け替えに過ぎず肥大化した郵政事業の実態
は変わらないどころか、焼け太りする可能性さえあ
る。郵政民営化の問題は、その事業規模と扱う資金
の量である。
 日本の公務員の人数は諸外国の公務員数と人口比
で比較すればむしろ少ないと聞く(公務員の定義が
問題ではあるが)。
 日本政府の最大の問題点はデフレ経済下で歳入と
歳出の格差があまりにも大きくなってしまったこと
だ。郵貯や簡保を通じて国民の貴重な金融資産が政
府の借金に化け、中央政府に集められて無駄使いさ
れていることが問題だ。中央政府が飲みこむ「お金」
があまりにも巨額で民間に流れず、非効率な官製事
業に投入され不良債権化していることが問題なのだ。
「大きな政府」として問題視すべきは公務員の「人
数」に加えて、中央省庁の配下にある「縦割り行政
予算」と、「31の特別会計」の総額である。  
 特別会計の予算規模はあわせて387兆円、重複
部分などを除いても207兆円にのぼり、一般会計
の5倍近い規模に膨らんでいる。特別会計収入のう
ち47兆円は、一般会計からの繰り入れでまかなわ
れ、一般会計歳出の6割近くを使っている。
 特別会計の赤字が税金で補填されるのだ。特別会
計の支出先は道路公団などの官製法人である。道路
公団の職員給与は公務員の給与より多いと聞く。天
下り官製法人こそ「大きな政府」の実態なのだ。郵
政や官製法人を民営化しても「大きな政府」を解体
したことにはならない。中央省庁が健在で、国債の
受け皿となる「民から官へ」の巨額資金の流れが温
存されては資金の無駄使いは終わらないし、逆に民
間へこの巨額資金が流れたら資金規模が突出し、他
の民間金融機関を圧迫することになる。
 巨大化した郵貯、簡保は解消することこそ望まし
いが、あまりにも巨大となった組織を一度に解体す
ると、国債の償還が宙に浮き、かえって混乱を招く
だろう。
 残る方策としては、地方の自立と地域経済の活性
化策として最近やっと話題に上るようになった道州
(都道府県の枠を超えた広域行政区=地域国家)に
おける地域金融機関として、巨大化した郵貯、簡保
を8〜13の組織に分割することが望ましい。果敢
にリスクを取る投資銀行、投資組合には利潤追求を
認めるべきだが、公共財である通貨の番人が利潤追
求に走ったら弊害が大きいことは巨大銀行への公的
資金投入で実証済だ。郵貯、簡保は分割して預金規
模20〜40兆円の利潤追求を目的としない「公有
民営の州立銀行」として再発足させ、地域経済の中
心的担い手とするのである。過疎化と高齢化に悩む
地方経済の信用収縮は著しく、再発足した州立銀行
には新たな信用創造のために期間限定の地域通貨の
発行を許すことも検討すべきだ。直接融資はせず地
方銀行への信用供与を専門とする組織(日銀代行)
と過疎地にも窓口を置く決済専門の組織に分割する
ことも検討に値するだろう。
 まともな企業が少なく、デフレ経済下にある過疎
地の地方経済は日本の明治初期を思わせるものがあ
る。明治初期の日本経済は先行き不安と深刻なデフ
レに悩んでいたが、政府が発行する「太政官札」で
税収を補い財政危機を切り抜けたとのことである。
政府貨幣による積極融資は、めぼしい産業が無く増
税が難しい地域で、新しい産業を興すための有力な
手段となる。借金漬けの日本政府が政府貨幣を発行
し、政府の借金をチャラにしてはモラルハザードを
来し、許されることではないが、無借金の州立銀行
が地域経済の活性化のために一時的に地域通貨を発
行して産業を興し、地域経済を発展させることは許
されるべきことと考える。
 言うまでも無いことではあるが、郵政だけ分割し
ても地方経済は活性化しない。中央省庁の出先機関
はすべて道州に分割統合し、補助金漬け縦割り行政
を改めなければならない。安月給にも耐えられる志
の高い中央官僚には、借金漬けで先行き不安の霞ヶ
関に早々に見切りをつけ、率先して州政府へ天下る
ことを期待したい。州政府は有能な官僚を積極的に
受け入れ、地域経済の発展を担う人材として活用す
べきである。
 巨額の累積債務で財政破綻を目前にする日本政府
に残された唯一の道は中央省庁解体による「小さな
政府」の実現であり、「道州制」は中央集権制を廃
して、究極の地方自治を実現するための有力な手段
となるのだ。

生活者主権の会生活者通信2005年08月号/03頁