生活者主権の会生活者通信2005年12月号/06頁..........作成:2005年12月01日

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民主党への提言

埼玉県所沢市 河登一郎

始めに:
私も多くの当会会員と同様「本物の改革」の実現に最も近い政党は民主党と考え、政権交替に大きく期待し
ただけに、予想以上の惨敗は極めて残念でした。しかし、政治運動は本来いわば永久運動ですから、仮に支
援した候補者が当選し或いは民主党政権が実現したとしてもそれは本来の目的実現からすれば、ほんの第1
歩にしか過ぎません。本当の戦いはそこから始まるといっても過言ではないと思います。逆に、支援候補者
が落選しても、民主党政権が実現できなくても「全てが終わり」ではなく、次の目標に向けての戦いがそれ
から始まるのだと思います。その意味で、本稿では今回の選挙を通じて感じたことを今後の民主党への提言
として整理してみました。(マニフェストの個別テーマについては別の機会にコメントしたいと思います)

1.国民は「本物の改革」を求めています:
・今回の選挙ではっきりしたことは、国民の大多数は予想通り「本物の改革」を求めていることでした。多
くの有権者にとって、自民党が大声で叫んだ「官から民へ」「郵政民営化が全ての改革の原点」「殺されて
も改革を推進する」は魅力的なスローガンでした。逆に民主党は、守旧派と批判されている連合、特に官公
労への依存が実態以上に喧伝されたことも効果的でした。残念ながらこれらに対する民主党の説得力が不充
分だったことは否めません。
・それにも拘らず、自民党と民主党との得票数が比較的接近していたことは(注*)、民主党が「本物の改革」
を志向する限り、将来に大きな可能性があることを意味します。現在の民主党には未熟な面も多々あります
から、次の機会に向けて経験をつみ、力を蓄える好機と捉えるべきです。
    (注*)自民党対民主党だけで比較すると、選挙区/比例区の得票率も、比例区の当選者数もほぼ100対
     80でしたが、小選挙区の当選者数は100対24と圧倒的に自民党に流れました。これは小選挙区制に起こ
     りがちな現象で、風が逆に吹くと一気に逆転する可能性があります。(本稿では選挙制度については
     深入りしません)。

2.国民にとって、民主党(を含む政党)は「目的ではなく、手段である」こと:
・民主党の官僚批判の中で非常に分かりやすい説明がありました。即ち、官僚は手段を目的にすり替えて本
来の目的を骨抜きにしてしまうことです。橋本行革も小泉政権下での道路公団民営化も特殊法人改革もそう
でした。本来の目的は政府をスリム化し、税収や財投の極端な浪費と金権体質を是正する手段だった筈なの
に、単なる省庁・部局数の削減、歯止めの利かない道路公団民営化、浪費体質を温存した特殊法人改革など、
手段だけの議論にすり替えられ、本来の目的は忘れ去られて逆に官僚と族議員が焼け太ると云う説明は現実
に裏づけされているだけに説得的であり、私も強い共感を覚えました。
・今回の選挙を通じ、そのことは政党についても同様であることがはっきりしました。多くの国民にとって、
本来の目的は公正な政治の実現であり、税の公平(徴税面・使い方両面で)です。そのために「本物の改革」
を実現することです。民主党はその目的を実現する手段として重要なのであり、民主党自体が目的ではあり
ません。もし、民主党の政策・マニフェスト・その実現力に期待できなければ、手段として選ぶ意味はなく
なります。逆に自民党が「本物の改革」に近ければ国民はそちらを選べば良いのです。
・国民が、民主党の政策・マニフェスト・実現力が本来の目的を実現する手段として有効だと考えればなだ
れを打って民主党を支持します。そうでなければ、今回の現象は繰り返されることを、民主党は肝に銘じな
ければなりません。

3.マニフェスト/政策・理念の徹底が重要です:
・全体として、民主党のマニフェストは良く出来ていると思います。プロに任せたにしては、説得力・分か
りやすさに改善の余地はあるにせよ、自民党の独善的なスローガンに比べれば良くまとめられています。
・ただ、このマニフェストを良く理解し、自民党のスローガンを論破し或いはせめて対等に議論できる候補
者が何人いたでしょうか。私の見聞した範囲では、かなり限られていたような気がします。 私の選挙区で
は元総理と云う肩書きの方が応援に来られましたが、「政策で真っ向から勝負する」姿勢の民主党の最高顧
問の発言としてはあまりにもお粗末でした。政策通でない・普通の候補者にも説得力を持って演説が出来る
だけの準備を党として候補者全員に対して充分に指導徹底されていなかった、と云うのが率直な印象です。

4.郵政民営化はどちらが「本物の改革」かを具体的に示すこと:
・自民党は、唯一のスローガンである郵政民営化を「全ての改革の原点」と位置づけて改革を求める多くの
有権者の支持をえました。
・それに対して民主党が訴えたかったのは、自民党案が、総論として抽象的に「改革」のスローガンを叫び、
形式だけ郵政公社を4つの株式会社に看板を変えても、具体的な経営の面では逆に政府が肥大化する。その
結果、本来の目的たる官僚支配の打破と財投を通じた国費のムダ使い体質は変わらないことだったと思いま
す。これはまさに正論ですが、その正論が具体的な根拠を伴い説得力を持って分りやすく伝わらなかったこ
とも、得票が伸びなかった主因の一つではなかったでしょうか。
・100兆円とか200兆円とか、とてつもない規模のお金が今までのように無責任に浪費され続けるのか、それ
とも国民に必要な使途に向けられるのか、浪費が止むのか。そのために本当は自民党案と民主党案のどちら
が有効なのか。私自身少し勉強しましたが、実はまだ良く分っていません。
・今までの政府自民党の長年の実績と官僚との馴れ合い体質から判断して、特に小泉内閣の「各論は丸投げ」
では官僚が実質骨抜きにし、さらに焼け太りになる可能性が極めて高いことは容易に想像できますが、その
ことを今後キチンとフォローして、国民に分かりやすい表現で説明することが、民主党にとって大切な宿題
です。

5.自民党の金権体質のチェックと指摘を継続すること:
・私は、小泉政権の「小さい政府」「官から民へ」のスローガンには全く賛成です。多くの民主党員や当会
会員も同様だと思っています。自民党員や支持者の中にも当然賛同者は多いでしょう
・それにもかかわらず、私が自民党では本物の改革は実現できないと考える根拠は、政府自民党が長年の間
政権にあった膿がたまって、官僚の持つ情報と権限と巨額の予算に伴う利権のうまみを知り、抜きがたい相
互依存体質になってしまっているからです。仮に改革への意欲が本物だとしても、官僚との癒着体質の下で
は、情報・権限・お金・チエ・選挙運動など多くの面で「お世話になった」官僚の不利になるような改革は
実行困難で骨抜きにされると考えるからです。
・この点も民主党が、具体的に・鋭く・分かりやすく調査・分析を行って国民に対して説明することが国民
の信頼を回復する重要な柱になると思います。
・お互い日本人は、腐敗に対して潔癖であると同時に、忘れやすい体質があることは否定できません。その
意味で、過去何十年にわたって毎年毎年、何件も何件も繰り返されてきた・そして忘れられてきた族議員や
高級官僚による汚職や腐敗体質を具体的に何回も何回も声高に指摘し続けることは極めて有効な手段と考え
ます。もちろん、民主党自身が身ぎれいであることは云うまでもありません。

6.NGOとの協働と活用を:
・表/裏ともに資金源が潤沢な政府・自民党に比べて、民主党の財政は厳しいでしょう。官僚が多くの分野で
野党には非協力的であることは許されないことですが、事実のようです。自民党はその豊富な資金を利用し
てシンクタンクを設立することが報じられています。このままでは情報・分析力・政策提言能力でも格差が
開く恐れがあります。
・一方、全国には真面目なNGOが無数にあります。利権と癒着している一部のNGOを除いて、現在の不
公正な政治と政官業の腐敗に対して批判的であるのは当然です。それぞれの専門分野での立派な実績をあげ
ているNGOも、公正な政治を目指して活動しているNGOもあります。民主党はこのような団体との協力
関係を積極的に進める意義があるのではないでしょうか。実費程度の格安なコストで力強い協力が得られる
だけでなく、政治面での支持にもつながると云う二重の効果が期待できると思います。もっともこのような
NGOは、いろいろな政治信条を持った人の集合体であることが多く、特定政党との関係に拒否反応もあり
ますが、それは癒着にならない意味でむしろ望ましいことです。特定の問題や分野に絞っての実態調査・委
託研究・政策提言・法律/条例などの立法/改正提言など期待できる協力分野は工夫次第で広がると思います。
NGOにとってもそのような役割が与えられれば、抽象的・断片的な議論だけでなく現実的・具体的・総合
的な研究に結びつき、実力涵養に大いに役立ちます。

7.労働組合との関係:是々非々で:
・当会会員を含めて多くの民主党支持者は、労働組合・特に官公労が民主党の改革路線のアキレス腱だから
明確な一線を画すべきだと考えておられます。この点が自民党から鋭く指摘され、民主党不振の重要な一因
でもありました。
・組合/特に官公労の一部が、自民党とは違った意味での守旧派であり、既得権益を守るために改革への抵
抗勢力になっている面も否定できないでしょう。その意味では「本物の改革」実現には障害となりますから、
組合との決別が主張される背景は理解できます。
・私は、民主党と労働組合の事実上の関係をよく知りませんが、少なくともマニフェストに現れた政策面で
はあまりマイナスの影響は認められません。前項のような望ましくない面とは別に、多くの組合員が政府自
民党の金権体質や税金のムダ使いに批判的であることも事実です。「官僚」と十把一からげで批判されては
いますが、必死になって頑張っておられる職員もいないわけではなく、体制の中での努力に限界を感じ、政
治に期待している良心的な少数派の存在も重要です。その面では大いに協力を得たい組織でもあります。
・仮にマイナス面を払拭する為に「組合と決別」したとしても、他の多くの問題(憲法問題・税制・福祉・
教育・環境についても)で党員間の意見に差があるのは当然ですから、ある一つのテーマで異論グループを
排除すると、次のテーマでも反対者排除・・・小泉流の「反論を許さない」全体主義政党になるか、逆にバ
ラバラの小党分立になってしまいます。今後ますます多様化する社会、多様化する価値観を前提にすれば、
全議員が小党分立にならない限り、部分的な意見の相違を乗り越えた集団でないと多数党として政権を担え
る組織にはなれないのではないでしょうか。

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