生活者主権の会生活者通信2006年03月号/04頁

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民主党のマニュフェストを作り直せ

東京都練馬区 板橋 光紀

 日本の財政は危機的状況にある。プライマリーバランスを短期間に改善するには、少し位い歳出を
削減する程度では永久に間に合わない。国と地方の歳入の半分以上は公務員の給料で消えるわけだか
ら、国と地方の公務員と、特殊法人などの準公務員の数を大幅に削減しないことには改善は絶対に成
らない。

 民主党は「公務員を少しでも増やすことになる政策」がどこから出た提案であろうとも断固反対し、
当分の間は多少行政サービスが低下することになっても、「公務員を削減することにつながる政策」
のみを推進すべきだ。ましてや、自らが公務員を増やすような政策を立案することは絶対に許せない。
それが国民と党員の大多数から支持されるものであるならば、たとえ労働組合が離反しようと、結果
的に小泉自民党の改革を支援する結果を招くことになったとしても構わないではないか。

 追加して欲しい政策は多々あるが、2005年9月の総選挙直前に出された民主党のマニュフェス
トの内容については、その大半に賛成し、それらの政策が推進される為に当会が出来るだけ協力して
いくことに異存はない。しかし、中身をよく読んでみると、数カ所に疑問、又は当会が目指す理想と
はかけ離れた内容、或いは草案者の勘違いで書いてしまったものではないかとさえ思われる箇所があ
る。次回の選挙に間に合うように作り直しを提案する。
 具体的に指摘、その理由を挙げると以下の6ヶ所となる :

(A)外交・安全保障の部 4−2 (23頁) 
  「ODAを有効な外交ツールとして活用」の表現
その理由:
1.ODAは人道支援の名のもとに、病院や学校の建設に始まり、発電所やダム、土地改良など、貧
  しい国の人々の暮らしを向上させる目的を掲げてはいるが、続いてそれらの効果を高める為に、
  道路や橋の建設、空港や港湾施設の整備へと行きついて、果てしない「海外土建」の繰り返しと
  なる。
2.財政多難を理由に日本の弱者をさえ切り捨てなければならない状況下で、「海外土建」を推し進
  めなければならない論理に説得力はない。少なくとも「財政の破綻状況」を改善した後で再開し
  たって諸外国は理解してくれる筈だ。
3.ODAの継続を特に強く主張しているのは外務省とゼネコンや重電機などの、ODAを仕切る外
  務省のOB天下りを大量に引き取っている「落札常連者達」である。外務省OBが天下りの指定
  席を確保することに主眼があり、外務省の掲げる「人道的」理由が極めて薄いことは多くの在外
  公館に大量の高級ワインが備蓄されていることや、外務省によるプロジェクトの精査が通り易い
  ように、相手国当局から出される殆どの要望書が日本人によって手が加えられる事実からも垣間
  見える。
4.ODAの継続や増額を国連常任理事国入りする賛成投票の多数派工作に利用するならば、日本の
  現選挙制度では「買収行為」に相当、連座制で、当選しても失格となる。国連改革は必要だが、
  国際社会で発言力を強める目的は恵まれない地域や人々を救済する高邁な意志とはあまり整合性
  がない。日本のODAが世界一であった期間は長い。しかし「人道的」である筈の日本のODA
  がフィリピンのマルコス、インドネシアのスハルト、ぺルーのフジモリ等の蓄財に手を貸すこと
  になった前例もあることを忘れてはならない。

(B)外交・安全保障の部 5−3 (23頁) 
 「排他的経済水域を守る為」の表現
その理由:
1.日本海と東シナ海で我国は韓国、中国、台湾との間で未だ排他的経済水域の境界画定が合意され
  ていないから、国連海洋法条約を批准した1996年以降は、「境界線画定の早期合意を目指す」
  とは言えても、尖閣諸島や竹島の「海洋権益を確保」とか「主権行使」とは書けない筈だ。

(C)教育・文化の部 1−1 (26頁) 
  「30人学級導入、教員一人あたり生徒数16.6人を目指す」の表現
その理由:
1.終戦直後に入学した世代は60人学級、団塊の人達は55人学級であった。その後50人、45
  人へと減って、現在は40人学級となっている。しかし反対に学力の方は次第に落ちてきて、今
  日の大きな教育問題の一つとなっている。このことから、学級の生徒数を少なくすることが学力
  を高めることにならないことは実証されている。

2.過疎化と少子化で小中高校も大学も閉鎖が相次いでいる。教員は大量に余っており、旧マニュフ
  ェストの35頁に書かれている「30人以下学級とする為に毎年800億円ずつ予算を増額」は
  公務員の増員を意味するから撤回すべきだ。

(D)農業、林業、水産業の部 3 (30頁) 
  「資源回復事業や活力維持事業に対し500億円程度の直接支払いをおこなう」の表現
その理由:
1.これまでにも漁業関係者に対しては「港湾整備」、「新造船建造補助」、「養殖助成と施設の保
  護」、「稚魚の輸入制限」、「便宜置籍漁船による海産物の輸入規制」、「新規参入を規制する
  入漁料制度」など、手厚く優遇する施策は多い。
2.500億円の現金をばら撒くかのような文言は品位を疑われるし、漁業発展に賢明な金の使い方
  とは思えない。民主党は旧態依然とした補助金行政を打破する政党である筈だ。
3.「自給率を高める」は農業問題でも共通するが、大抵生産者側が叫ぶ言葉だ。我々消費者として
  は美味で、安価で、安全であれば国産であろうと輸入品であろうと構わない。
  安定価格と安定供給と安全のいずれに於いても輸入品の方が勝っている。穫れすぎたキャベツを
  ブルドーザーで潰したり、獲れすぎたサンマを肥料や動物の餌に供して価格の高値安定を画策す
  る業界に同情すれば、彼等の足腰は益々弱くなる。

(E)暮らしの安全・安心の部 8 (32頁) 
  「警察官を3万人以上増員し、3000億円の予算を増額」の箇所
その理由:
1.新規採用で警察官を増員することが犯罪検挙率を高めることに殆どならないことは、警察OBの
  元警視長の話からも明白である。検挙率低下の根源は20年程前に大幅に変えられた警察内の組
  織と<逆ピラミッド型人事>システムにあるのだから。
2.空き交番を解消させるには防犯協会や交通安全協会など10以上もある警察の外郭団体から、検
  挙率が下がるまでの数年間だけ数万人の警察OBを借りるだけで済む。イタリアに例があるように、
  トラックやタクシーの優良運転手に交代で週に一度出てもらい、交通整理、交通指導、パトロー
  ルに当る「予備警察官」制度が出来れば、多くの交通警官を犯罪検挙に振り向けられる。予備警
  察官なら退官後の天下り先を世話してやる心配もいらない。
3.自衛隊をもっと活用すべきだ。元々警察を補完する目的で創設された「警察予備隊」なのだから、
  手薄になった警察に協力出来ないとは言わせない。これからの世界では正規軍同士の激突になる
  ような戦争は起こり得ない。「想定する必要」もないだろう。想定する必要があれば、たかだか
  25万人の志願兵だけで成る自衛隊に国防のすべてを依存するのはおかしい。国が存亡の危機に
  たたされた有事には、「徴兵制度」を含めた国民皆兵で国防に対処する覚悟と、防衛の為には銃
  をとって戦うことを国民全員の意志及び義務として憲法に謳ってなければ理屈に合わない。
  今の憲法下で自衛隊が最も重要な役割の一つとすべきは、テロ行為の予防と、テロリスト検挙に
  警察を支援すること。原発や石油コンビナートの警戒や海岸・領海パトロールなど、警察官に代
  わって、又は警察といっしょになって活動し得る場面は多い。

(F)経済、規制改革、中小企業の部 1−3
 (28頁) 
   「高速道路を無料化」の表現
その理由:
1.有料道路の通行料が無料又は大幅に値下げされるのは大歓迎だ。しかし本来「マニュフェスト」
  とは大航海時代から「積荷明細書」を指し、絶対的に正確無比で、訂正も加筆も削除も許されな
  い貿易業界の「確認書」を意味する。従って、実現の可能性が低いコミットメントとか、希望的
  観測や努力目標の類を記してはならないものだ。
 「40兆円」の借金返済の目途が現実的なものになって、四公団が民営化された上市場原理に馴染
  むまでのロードマップは無理のないものが出来て、ファミリー企業を解散させ、談合を絶滅させ
  る見通しをつけることが先だ。
2.今でさえ30%近くのドライバーは用事も無いのに車を走らせていると言うのに、大量の暴走族
  が加わってくると殆どが2車線しかない高速道路は無料になるとすぐにマヒ状態になると考えら
  れる。
3.無料化を掲げる人々はたいていアメリカの「フリーウエー」とドイツの「アウトバーン」が無料
  であることを強調する。国土が概してフラットなアメリカとドイツでは道路建設にあまり金が掛
  かっていない。土地の値段がタダ同然のアメリカでも、大きな橋や長いトンネルの通行は有料と
  なっている所が多い。ドイツのアウトバーンは第二次世界大戦前の社会主義時代にヒットラーが
  強権を行使して造った軍用道路がべースになっている。5車線とか6車線になっているが、防音
  壁もついていない安普請。石油税と自動車税が目的税となっており、全額アウトバーンの管理費
  と新道路建設に使われるが、数年前から破綻しており、一般会計からの歳出又は有料化の選択を
  迫られている。因みに、日本に似た地形で山と谷が多く、トンネルと長い橋の多いイタリアとス
  イスの高速道路は有料になっている。

   (この文章は2005年衆議院選挙における民主党のマニフェストを対象としています。) 

生活者主権の会生活者通信2006年03月号/04頁