生活者主権の会生活者通信2006年03月号/06頁

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民主党マニフェストについて

埼玉県所沢市 河登 一郎

1.はじめに:
(1)当会の2005年度後半の活動方針に「小泉改革の検証」と並んで「民主党マニフェストを検討する」
を入れたことは大変意義のあることだったと思っています。最近、マニフェストばやりですが、ともする
と「検証可能な実行政策目標」という本来の趣旨から離れて、昔の「公約」にちょっと毛が生えた程度の
単なるスローガンを羅列するだけになっているケースもあるからです。
(2)従って、当会として「マニフェストを検討する」以上、総論や理念だけではなく、実行・検証に結
びつく議論を展開して、民主党が政策に取り入れる程度の内容がないと、単なる仲間うちの空論に終わる
可能性があると思います。その為には、まず、マニフェストを策定した民主党政調の専門家を招いてじっ
くりと勉強をし、ある程度正確な知見を共有した上で会としての対応を論ずるのが正しい順序だと思いま
す。今月号の企画は、その前段階として板橋さんが12月に書かれた「民主党のマニフェストはおかしい」
に対する私の感想を思いつくままにコメントしただけで、マニフェストにもざっと目を通した程度ですか
ら、的外れなコメントがありうることは最初からお断りしておきます。

2.板橋氏の「民主党のマニフェストを作り直せ」へのコメント
ご指摘の諸点に対する私見ご参考までに下記します。

(A)ODA:
@.指摘された諸点(ODAが「人道」の美名の下で「海外土建」のはけ口として、ゼネコンの談合や外
務省OBの天下りの巣窟になっていることなど)には全く同感です。
A.しかし、民主党のマニフェストは必ずしもご指摘と矛盾していないのではないでしょうか。私の理解
では民主党は、ODAの実態にご指摘のような問題が多いからこそ、ODAの仕組みを大幅に見直して、
「透明性、効率性を重視し、外部監査・業績評価を・・・」目標としたのだと思っています。この点はマ
ニフェスト・政策各論での検証が必要だと思います。
B.ご指摘の(2)は、日本の財政危機が改善するまでODAは一切ストップすべき、と言う意味なら異
論はありますが、恐らくそうではないと思います。もし一切ストップすべきの意味なら、現実の政策とし
て行き過ぎではないでしょうか。対象を厳選し、透明性・効率性を高め、公正な競争条件の下で、継続す
べきだと思います。既得権益としてではなく、メリハリを利かせば、予算は大幅に削減可能でしょう。

(B)ここは表現上の問題ですから深入りはしません。

(C)教育・文化;
@.私は義務教育の現場をあまり良く知りませんが、1学級の生徒数を減らすことと学力向上が直接には
結びつかないことはご指摘の通りだと思います。しかし、学力面以外の指導を含めて1学級30人以下を
目標にすることは、マニフェストの目標としてそれほど間違っているとは思いません。
A.ただし、教師数の充足方法としては、公務員削減の大方針に沿った選択肢が複数あるというご指摘は
その通りだと考えます。
B.教育の面で、私がもっとも重要だと考える点は、(マニフェストには書いてありませんが)「競争」
を不公平の原因として罪悪視する日教組の考え方そのものだと思います。個人間及び学校間の競争の利点
を充分に発揮できるシステムの確立と、(競争には弊害も伴いますから)弊害を是正する措置についての
踏み込んだ議論が不可欠だと考えます。
C.これらの諸点を「検討」する中で、民主党と日教組の関係が具体的に浮き彫りされてくると思います。

(D)農業・林業・漁業:
@.板橋さんは、10−3:漁業対策の500億円を問題視しておられますが、その論旨からは、10−1:
「農政の柱として1兆円の直接支払い制度」全体が問題になるのでしょうか。
A.私の理解では、マニフェストの「10.農業・林業・水産業」政策の大きな柱は、従来の政策の中心
であった、「価格支持」「需給調節」「ハコモノ公共事業」「業界団体を通じた補助金」「天下り団体へ
の助成金」などバラマキ政策が、税金の浪費・天下りなど諸悪の根源になっているので、これを根本的に
見直して農家・林業者・漁業者への直接支払いへ切り替えることであり、その結果支出金額の大幅削減・
効率化・天下り防止など抜本的改革の実現をはかること、だと理解しています。この点も我々が仲間同士
で議論するより、政策の是非を含めて民主党と直接話し合いましょう。
B.農産物自給率向上政策は難しい議論を含んでいます。
これは生産者側からだけの議論ではなく、消費者側からもしばしば問題提起されています。経済合理性の
面からは、「安いところから買う」のがベストであることに異論はありませが、
1)OECD諸国の中でも日本の食糧輸入依存率が図抜けて高い事実、
2)価格面では安くても、残留農薬や防腐剤・消毒剤など健康面への悪影響、
3)万一の場合の保証(食糧安全保障)、
4)日本の里山保全・多様性のある森林整備と保護・自然な海岸線の保護など、経済性をある程度犠牲に
しても守らなければならない価値観、
など多面的な政策判断が要請される分野です。
C.もちろん、従来もそのような「美名」に隠れて、自民党の票田である農村・山村・漁村などへの巨額
な補助金のバラマキがあったことはご指摘の通りですから、政策の転換が非常に重要であることは云うま
でもありません。

(E)警察官の増員と検挙率向上:
@.防犯対策及び犯罪検挙率向上策の一つとして現場の警官又はその予備軍や協力者の物理的な存在を増
やすことは不可欠だと思います。
A.その方法論として、全員を警官の新規採用でまかなわずに、自衛隊の活用・警官OB・その他ご指摘
の代替案の組み合わせで予算削減を図るべきことには異論ありません。

3.まとめ:
(1)以上のように、板橋さんのご指摘の多くに私は同感ですが、民主党のマニフェストは、それらの問
題点をもふまえたものではないだろうか、と思っています。私が「良く出来ている」と評価したのはそう
いう意味ですが、マニフェストの表現からは必ずしも明確でない点もありますので、各論での検証が必要
であることは上記の通りです。
(2)逆に、民主党のマニフェストのうち、板橋さんが「問題あり」と指摘されたのは僅かに5点だけで
すが、マニフェストの「政策各論」には大分類で14項目・中分類65項目・小分類150項目前後もあります
ので、私がざっと目を通しただけでも、いくら「良くできている」とは云え、全体の2割;少なくとも20
−30項目には異論があります。高速道路料金無料化の是非や無駄な道路建設歯止め策についても、実態に
基づき、多面的な視点から大いに議論が必要だと思います。
(3)民主党のマニフェストを皆でもっと勉強し、仲間うちでの議論を超え・単なる批判を超えて、可能
な限り建設的・具体的な提言をしようではありませんか。

生活者主権の会生活者通信2006年03月号/06頁