先般、第28次地方制度調査会が2年間に及ぶ道州制に関する審議の結果を答申した。
この第28次地制調は03年11月の第27次地制調の答申の中で、現在の都道府県に代わる広域自治体と
して「道州制」導入の検討の必要性が提示され、それを受けて「道州制のあり方」などに焦点を絞っ
て審議されたものである。
地制調は1952年に設置された首相の諮問機関で、戦後の地方自治政策に関する議論の主導的役割を
果たしてきた。今回の構成メンバーは、衆参国会議員6名、地方6団体の長、学識経験者18名に臨時委
員を加えたもので、広く国民の意見を代表するものと考えてよいだろう。
さて、その答申の主な内容を見てみよう。大きな枠組み、考え方は第27次地方制度調査会の流れに
沿ったものである。
先ず基本的考え方として道州を地方自治体として位置づけている。
現在までいろいろな団体から道州制の提案がなされているが、その中には連邦制を提案していると
ころもある。しかし、急がなければならない道州制の実現を、議論が始まったばかりで、まだまだ時
間のかかりそうな憲法改正を必要とする連邦制とせず、日本の歴史、風土、国民性にマッチした、国
があっての地方自治体という位置づけとした点は国民の納得も得易く、実情にあった適切な選択であ
ったと思う。
連邦制を提案する理由には、国家でやるべきこと以外は、全ての事柄について道州の完全な独立性
維持への期待感や、そこまでやらなければ結局は今の中央集権制の修正に過ぎないものになってしま
うという危惧があるからと思われる。
しかし、日本の長い歴史は南北朝や群雄割拠、幕藩体制があったとしても常に一つの国家としての
意識が基礎にあり、それを前提とした抗争であったり、自立であったりしたものである。一度たりと
も別の国家という意識はなかったと思う。
現在我が国には、あらゆる事柄をきめ細かく規定している多くの国法があり、これが今の中央集権
制と中央官僚の権限を担保しているのである。連邦制にしなくてもこの国法を必要最小限のナショナ
ルミニマムなものに縮小し、きめ細かく規定するのは各道州独自の条例によることにすれば、今の憲
法のままで十二分に道州制の目的を達成することができる。今回の答申でも国と道州の役割分担につ
いては、国の役割を真に国が果たすべきものに重点化するとしている。
地方分権一括法では475本の法律を改正したが、道州制では約1,000本の法律を根こそぎ改正すれば
十分だともいわれている。新聞には国から道州に移管する権限の案が出ているが、これはあくまでイ
メージをつかむためのほんの一例であって、これに惑わされてはいけない。
問題はいかにしてこれを実現するかである。そのためには次から次に押し寄せる中央官僚の強烈な抵
抗を迎え撃ち、毅然と前へ進むことができる強力な政治力が必須となる。自民党、民主党のどちらに
期待をかけるべきだろうか。
次に道州の区割り案である。今回の答申では現在の県境は崩さないという大前提で、3つの区割り案
が提示された。区割りと州都の問題は道州制議論の中で最も関心の高いテーマである。道州制推進連
盟のホームページの会議室での議論も殆どが区割りに関することである。私が関心を寄せている南信
州でも、三河、遠州、南信州を代表する三つの市(豊橋、浜松、飯田)の市長が定期的に会合してい
る「三遠南信サミット」なるものがあるが、そこでも以前から道州制が実現しても今の三つの地域に
ある県境が州境にならないように団結しようということになっている。今回の答申の区割り案を見て
特に南信州サイドの危機感に火がついたようで、各方面への働きかけや理論武装のための作業が始ま
ったようである。
道州の区割りについては答申でも触れているように、国民生活や経済活動に大きな影響を及ぼす事
柄であるので、国民的議論が不可欠で、これらを吸い上げて取りまとめるという大仕事を引き受ける
機関を設置する必要があるだろう。
次に重要なのが税・財源のあり方であるが、答申では総論が述べられているだけである。ただ気に
なるのは相変わらず「税源移譲」という中央官僚の抵抗を誘発しそうな言葉が使われていることであ
る。
道州制を実現するには、基礎自治体や道州を中心にした税制を考えるべきで、場合によっては国の
予算は道州からの上納金で賄うというくらいの発想も必要である。現在の政府税調や自民党税調の発
想をはるかに超えたものになるだろう。
いずれにせよ、今回の答申内容は道州制の従来の議論の流れの中にあり、特別目新しいものはない
が、何と言っても「地方制度調査会」が道州制の導入を提言したということが重要である。
自民・民主両党及び政府はこの答申をしっかり受け止め、実現に向けた基本法を早急に作ってもら
いたい。また、我々市民も大いに議論を盛り上げ、全国民的な熱の入った我が国最大の政治課題にし
たいものである。
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