生活者主権の会生活者通信2006年07月号/03頁

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今こそ「憲法第15条1項」を官僚に適用せよ

東京都渋谷区 岡部 俊雄

 昨今の官僚の不正、モラルの低下は目に余る。
 今回社会保険庁が組織ぐるみで自分達の組織を守るために行った年金免除偽装工作はその極みに達し
ている。
 年金制度を抜本的に改革しなければならないことは論を待たないが、自分達の組織を守ろうとする官
僚とそれに隷属する族議員とによって、ことは難航している。
 官僚は何をやっても、やらなくてもその正当性を主張し、どういう理不尽な結果になってもその非を
認めない。犯罪に近い行為でも同様である。この官僚という独特の組織の中で治外法権的に自己増殖し
ている奇妙な人間に我々国民はどう対処すればよいのだろうか。

 精神分析学者の岸田秀氏が著書「官僚病の起源」の中で次のように述べている。(注1)
一、軍部も省庁も、本来、国に従属する機関であって、国のため国民のために奉仕するのが任務である
が、そこから逸脱し、国から多かれ少なかれ独立して一種の自閉的共同体となり、「省益あって国益な
し」と言われているように、しばしば国の利益よりもみずからの共同体の利益ないし面子を優先する。
 国のためにではなく、陸軍共同体のために陸軍は戦い、海軍共同体のために海軍は戦っていた。
一、国のため国民のためという目的に反しても、みずからの共同体にとって不利な事実を隠蔽するとい
うのも、かつての軍部官僚と今の官僚に共通の体質である。

 まことに当を得た言葉である。
 新聞報道によると、今回の社会保険庁の不正工作に関与して処分されるという官僚は、なんと厚労省
本省に移るなどして公務員としての身分は何も変わらないということだ。(注2)
 これほどまでに官僚というものが、岸田氏がいう「自閉的共同体の病」に侵されているのであれば、
現在進行している道州制の推進も地方の自立・活性化という前向きな側面以上に、機能が集中しすぎ、
病に侵されている中央官僚組織の解体という現状打破的な側面をむしろ重視しなければならない。
 しかし、根本的な解決策はこの「自閉的共同体の病」の中に我々国民が入り込み、官僚だけの世界を
作らせないことである。
 そのための一つの方策は、殆どの国民が知らず、官僚がひたすら隠し続けてきた「憲法第15条1項」
の官僚への適用をいよいよ具体的に発動することである。
 そこには次のように書かれている。
 「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。」と。
 この憲法の条文が法律化され、実行されているのは、国会議員、地方議員、地方首長と最高裁判所の
裁判官に対してのみであり、それ以外の膨大な数のいわゆる公務員に対しては適用される法律がない。
国家公務員法、地方公務員法なるものはあるが、巧みにこの憲法の思想をすり抜け、公務員の身分につ
いて国民が関与する余地は全くない。多くの国民もそれが憲法で保障されている国民固有の権利である
とも思っていない。
 官僚が作った法律なのだからまことにもって当然である。
 これをよいことに、官僚は国民から遊離し、官僚による官僚のための官僚の「自閉的共同体の病」の
中に閉じこもり続けている。
 この条文は自民党の「新憲法草案」の中にもそのまま入っているし、民主党は未だ条文化されたもの
は発表していないが、同党の「憲法の提言」からすると当然踏襲されるものだと思う。
 両党ともただ憲法の条文に入れておくだけでなく、この憲法の条文を官僚に適用することの具体的方
策に真剣に取り組んでもらいたい。大変難しい作業になろうが、官僚を向こうに回すことになるので是
非議員立法でやってもらいたい。
 長い日本の歴史によって、お上にまかれることがまだまだ国民の体質になっているように思われるが、
今こそ本気になって「憲法第15条1項−公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権
利である。」の官僚への適用をいよいよ具体的に発動しようではないか。

(注1) 官僚病の起源−自閉的共同体の病T (新書館 1992・2・5 初版)
(注2) 日本経済新聞  (2006・ 5・30)

生活者主権の会生活者通信2006年07月号/03頁